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車引 賀の祝 寺子屋 三月大歌舞伎・夜の部 歌舞伎座 [歌舞伎]

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初日に続けて『菅原伝授手習鑑』の「車引」、「賀の祝」、「寺子屋」を観る。ほぼ満席だった昼の部と違って夜の部には空席も目立ったが、外国人観光客の姿もチラホラ。字幕ガイドなどを使用している観客もいたが、さすがに「賀の祝」までが限界だったようで途中で帰ってしまう海外からの観客も多かった。

仁左衛門の菅丞相が登場しない夜の部は、染五郎の松王丸、愛之助の梅王丸、菊之助の桜丸、孝太郎の千代が最後まで同じ役でそれぞれの芝居に登場という趣向。もはや中堅といってもいい彼らが、どこまでやれるのか期待と不安も持って舞台を見つめた。

「車引」は 前述の通りの三兄弟の配役に、彌十郎の時平に萬太郎の杉王丸が加わっての舞台。それぞれ力のこもった演技で充実した内容だった。梅王丸は小柄であるはずの愛之助が大きく見えたし、染五郎の松王丸も力強い声と鷹揚な動きで大きさを表現していた。菊之助の桜丸も気品があるのが何よりで、三者三様の演技を楽しめた。最後には柄の大きな彌十郎が登場して、舞台を圧するような迫力をみせて面白い芝居に仕上がっていた。

「賀の祝」は、三兄弟に孝太郎の千代、新悟の春、 梅枝の八重とぐっと若返った配役。それに影の主役ともいうべき左團次の白太夫が加わった舞台。それぞれ教わったとおりに演じているのがわかるし、演じるべきところはしっかり演じているので、なかなか注文のつけられない舞台なのだが、桜丸の切腹も、子を死なせねばならない白太夫も、彼らの哀しみなど実感を伴って舞台から客席に伝わってこないで残念な結果に終わった。特に女形陣に力の差がありすぎて、舞台に隙間風が吹いているような具合。左團次の白太夫も実年齢に近い老け役なので、良いかと思えば平凡な出来に終わった。

昼の部を観ている観客には、桜丸が切腹しなければならない理由も良く飲み込めているはずだが、何も知らない観客には唐突に映ってしまったことだろう。イヤホンガイドや字幕ガイドがるとはえい、台本や文楽の舞台を観てみるなどの学習する態度がないと、ただの理解できない芝居に終わってしまう。役者にとっても、そうした芝居の知識に乏しい観客を相手に演じなければならないので、演じにくかったのではないだろうか。

「寺子屋」はそうした点に配慮してか、「寺入り」からの丁寧な上演。廣太郎の涎くりと錦吾の下男の「おうむ」の演出もしっかりあって、悲劇の前に喜劇的な場面を入れるというのが効果的。ただし、よく言われることだが、下男が「おうこ」という言葉を用いないで、「天秤棒」と言ってしまうので洒落にならなくて面白さは半減。もちろん「天秤棒」でも面白いのだが、千代が「扇」をなくしたといって小太郎にもう一度別れを告げるという切ない場面と、「おうぎ」と「おうこ=天秤棒さらに音で『追う子』を連想させる?」のが趣向なのだということを一度ぐらいは観てみたい気もする。

平成24年9月の新橋演舞場で松王丸を演じるはずだった染五郎は、怪我のため休演となり吉右衛門が代役に立って、実に素晴しい松王丸をみせてくれた。今回の上演に際しては、染五郎も並々ならぬ意欲で取り組んだものと想像した。三津五郎を亡くして、今後はその下の世代だけで上演しなければならない、十年後には間違いなく、自分達が中心になって歌舞伎界は回っていくのだという決意がみえた。

松緑の源蔵も、やり過ぎではないかと案じるくらいの熱のこもった演技で、染五郎とがっぷり四つに組んだ芝居をみせた。台詞といい、演技といい、意欲満々で観ている方が疲れるくらいのはりきりかたで、決して誉められるようなものではないのだが、枯れるのは60歳からにして、今だからこそ懸命に演じたという姿勢に大いに感動した。

平成13年8月に染五郎が初役で松王丸を演じた初日を観ていて、まったく手も足も出ない酷い演技だったが、十数年経って、大きく成長した姿を見せてくれたのは頼もしい。今後も幸四郎や吉右衛門、仁左衛門といった立役の大先輩に教えを乞い続けて欲しい。彼に歌舞伎の未来はかかっているのだ。それは松緑も同じで、そこに海老蔵も入らなければならないが、お遊びの舞台に時間を浪費している暇はないはずだが。

孝太郎が千代を演じ、壱太郎が戸浪という配役も実は新鮮で、女形も彼らの世代にかかっきているようだ。大いに経験を積み、汗を流して欲しい。そして 亀鶴が玄蕃を演じているのも嬉しい。こうした役を演じられる人も実は貴重な存在なのである。十年後、二十年後の大きな成長が期待できる舞台だったが何よりだった。

夜の部

通し狂言 

四幕目 車引
4:30-5:00
   
梅王丸 愛之助
松王丸 染五郎
桜丸 菊之助
杉王丸 萬太郎
藤原時平公 彌十郎

幕間20分

五幕目 賀の祝
5:20-6:30
   
桜丸 菊之助
松王丸 染五郎
梅王丸 愛之助
春 新 悟
八重 梅 枝
千代 孝太郎
白太夫 左團次

幕間30分

六幕目 寺子屋
  寺入りよりいろは送りまで

7:00-8:40
   
松王丸 染五郎
武部源蔵 松 緑
戸浪 壱太郎
涎くり与太郎 廣太郎
菅秀才 左 近
下男三助 錦 吾
春藤玄蕃 亀 鶴
園生の前 高麗蔵
千代 孝太郎

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