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演劇評論家・扇田昭彦さんがお亡くなりになる [演劇]

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もう若い頃から様々な劇場でお見かけしていた人である。現代演劇の演劇評論が専門だったのだろうが、それにとどまらない活動をなさったようだ。

ご冥福をお祈りいたします。

若い、懐かしい。北村想の「寿歌」 対談


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オンディーヌ 浅利慶太 演出  劇団四季自由劇場 [演劇]

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劇団四季を追い出された?浅利慶太と野村玲子らが株式会社浅利演出事務所を創立して上演の運びとなったジャン・ジロドゥの名作『オンディーヌ』を観に自由劇場へでかけた。大塚家具のように創業者である父親と娘の現社長との争いほど奇妙ではないが、創立者であり、劇団四季の精神的な支柱であるはずの浅利慶太を外してしまうとは、芸術集団の看板を下ろし、経済優先の団体に成り下がったことを内外に知らしめたようなものである。色々と問題があっても、単なる海外ミュージカルの日本語上演と子供向け旧作ミュージカルの繰り返し集団に落ちてはならないと強く思う。

その浅利慶太が劇場の外に出て観客を出迎えていたのには驚いた。いや感動した。演劇青年が年齢を重ねて演劇老人になってしまったが、チケットを1枚1枚売り歩いた頃に戻り、自分のやりたい芝居を思う存分やって世に問うのだという姿勢が潔く、その志は高い。もっともプログラムを開いてちょっと考えは変わってしまう。プログラムに浅利自身が書いたと思われる詩?が掲載されていたからである。浪花節というか、お涙頂戴というか、そのウエットな感覚が気持悪い。少なくとも『オンディーヌ』は、日本的な湿った雰囲気の芝居ではないはずだ。もっと知的で挑戦的な文章だったら良かったのに。浅利慶太は、その昔、「喧嘩屋」ではなかったのか?ちょっと理解に苦しむ文章だった。同年代の演出家である蜷川幸雄は車椅子に座っても演出を続けているという。「浅利慶太、負けるな」と声援を送りたい。

儚さ、に生きる


こんな日が来ようとは、思ってもいなかった。
人生何が起こるかわからない。
まさに青天の霹靂。
絶望の谷底に突き落とされても、
裏切られ心に傷を負いながらも、
人は生きていかなければならない。
舞台の幕は開けなければならない。
俳優はスポットライトを浴びて
束の間花と咲き、
幕が降りるや露と消える。
儚さに生きる宿命にある。


さて、舞台は日生劇場で初演された演出を踏襲した金森馨の美術から自由劇場の舞台にあわせた土屋茂昭による新しいものに変更になったようだ。第2幕のトロイの木馬や火山が迫り上がりで登場するというスペクタクルはなくなった。その部分は、映像というかCGで代用。むしろ観客の想像力を刺激する方向の演出で成功していた。台本も休憩を2回とって、上演時間2時間40分という原作に手を入れてスリムにしたようである。物語の展開に支障がないように、よほど上手く削ったのか違和感はなかった。

二重の円形の張り出し舞台を基本として、舞台奥に置かれる舞台装置と円形舞台に置く小道具で変化をつけていく形式。開幕前には緞帳が下がり、序曲?にあわせて緞帳にブルーの照明があたり水界を表現し、そこに一筋の光りが差し込んで、オンディーヌが地上の世界に行くというのを表現していて上手い滑り出しだった。

第1幕は、天然の不思議ちゃん15歳の少女・オンディーヌと恋愛よりも食欲?という、美しいルックスだけれど、ちょっとお頭の悪い体育会系・騎士&二股かける典型的な登場人物?のハンスの出会いの場面である。台詞の裏に隠された意味が浮かび上がって見事だった。経験豊富な野村玲子が安定していたし、山口嘉三と斉藤昭子も脇を固めて手堅い芝居だった。劇団四季から参加の中村伝は、背の高さや顔はまあまあなのだが、姿勢が悪くてノーブルさがでないのでハンス役としては失格。劇団四季は午前中にバレエのレッスンがあるのではなかったのか?背中をもっと鍛えないと舞台に立てないのではないだろうか。

第2幕は、侍従の下村尊則に華があって、なかなかの存在感をしめして上出来。ベルタ役の坂本里咲も台詞にタップリと仕掛けをしてくれるし、広瀬彰勇の水界の王も日下武史を髣髴とさせる演技で、観客の想像力の翼が大きく広がり、非常に面白い場面となった。とにかく舞台が台詞劇には手頃な大きさで、巨大な空間を埋めるのが精一杯のような芝居ではなくなっているのが良かった。

第3幕も、徹底して台詞の力を引き出そうとする演出でぐいぐいと観客を引っ張るはずが、裁判官Ⅱを演じた岡田吉弘の台詞の再三のトチリと劇団四季のメソードには受け入れ難い旧式な癖のある台詞回しで、せっかくの詩的な世界が台無し。観客の想像力の翼は見事に墜ちてしまった。ああ、第2幕まで良かったのに。同じ劇団昴からの客演なのに裁判官Ⅰの山口嘉三は明瞭な台詞を聞かせていただけに残念。その他の脇役も台詞が空中を飛び回るような力に欠けていて力量の差が現れてしまった。それでも、オンディーヌとハンスの長台詞でなんとか挽回して、舞台奥の湖に帰っていく場面は美しく感動的なものになった。

劇団四季が、今度はいつ劇場を貸してくれるか定かではないが、次回があるならば是非『ひばり』をお願いしたい。『オンディーヌ』や『ひばり』は代表的な演目にも関わらず、特に藤野節子から継承された『ひばり』が野村玲子で途切れてしまい、継承するような女優がいないのが悲しい。ロビー周辺には浅利慶太が常にいて、旧知の演劇人と交流していた。劇団四季では置かれることのなかったスタンド花などもあり、劇団四季のチラシが置かれていないことも、別団体の上演なのだと強く意識された。

いろいろ辛口な注文はつけたけれど、いわば敵地で堂々の真っ向勝負をした浅利慶太を見直した。

スタッフ
作ジャン・ジロドゥ
訳米村 あきら
台本協力水島 弘
演出浅利 慶太
装置土屋 茂昭
照明吉井 澄雄
衣装レッラ・ディアッツ
音楽諸井 誠
作詞岩谷 時子
音響実吉 英一
プロダクションマネージャー杉田 靜生

キャスト

オンディーヌ 野村 玲子
騎士ハンス 中村 伝(客演 劇団四季)
水界の王   広瀬 彰勇
ベルタ     坂本 里咲
ユージェニー 斉藤 昭子
オーギュスト/裁判官Ⅰ 山口 嘉三
王妃イゾルデ 田野 聖子
王       斉藤 譲
ベルトラム  高草 量平
侍従 下村 尊則
詩人 畠山 典之
マトー 山田 大智
裁判官Ⅱ 岡田 吉弘
劇場支配人/牛飼い 山口研志
ウルリッヒ   白倉裕人
召使い     桑原良太
漁師      笹岡 征矢
サランボー  花岡 久子
皿洗いの娘 山本 貴永
グレーテ  滝沢 由佳

水の精   笠松 はる
       橋本 由希子
       生形 理菜
       高橋 伶奈
       森 佐和子
       鐘丘 りお
       伊藤 夏輝  


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浅利慶太プロデュース公演『オンディーヌ』 のチケットが届く [演劇]

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劇団四季から?浅利慶太プロデュース公演『オンディーヌ』 のチケットが届いた。主催:浅利慶太事務所、協力:劇団四季としてあった。部屋の掃除をしていたら、野村玲子のオンディーヌ、石丸幹二のハンスによる『オンディーヌ』のパンフレットが出てきた。アンサンブルを含めると予想以上に出演者が多い。衣裳はこれまでのものを貸してもらえ、舞台装置は変わるようだが、意外に金がかかりそうな気配である。

予約画面を見ると、招待客の多い?初日こそ満席で売り切れだが、他の日程ではすべてチケットが買える様である。というよりも売れ行きが芳しくない。ミュージカル好きな劇団四季の会の会員にはストレート・プレイなど無縁な世界なのだと思う。ミュージカルに力を結集し、ストレート・プレイ上演を怠り、劇団員を育てることをしない伝統を継承しててきたツケが回ってきたという感じである。これでは第2弾の上演は難しそうである。アヌイの『ひばり』の上演すら覚束ないとは情けない。
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浅利慶太プロデュース公演・第一弾『オンディーヌ』 いよいよ3月22日に発売開始 [演劇]

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劇団四季のホームページに掲載されていた最新ニュースは以下の通り。
「四季にとっても重要なレパートリーである」という表現が凄い。



自由に、しなやかに――

劇団四季の創立者の一人であり、60年以上にわたって劇団を導いてきた浅利慶太。その演劇人生の新たな幕が、4月19日より始まります。

劇団のトップを退き、一人の舞台人として、より自由に、よりしなやかにタクトを振って紡ぎだす研ぎ澄まされた演劇空間。

その第一弾は、四季にとっても重要なレパートリーである、フランスの劇作家ジャン・ジロドゥの傑作戯曲『オンディーヌ』です。

純粋さの結晶のような水の妖精オンディーヌと、人であることの因果から逃れられぬ騎士ハンスの悲恋。 自然と人間の対比から存在の本質にまで鮮やかに迫る、知性と詩情に溢れた瑞々しいドラマを、この度、今までにない演出で皆様にお届けいたします。

チケットの一般発売は3月22日(日)より(「四季の会」先行予約3月21日(土・祝))。

"芝居の殿堂"自由劇場に吹き渡る生命の息吹を、ご堪能ください


実質、浅利慶太がいなくなれば『オンディーヌ』など上演する理由も無い訳で、劇団四季独自でストレート・プレイを上演したら、そっちの方が恐ろしい。アヌイやジロドゥの作品も、決して演劇界のメインとなるような作品ではないので、どんどん廃れていってしまうのだろう。

収容人員500名の「自由劇場」は永遠の演劇青年の浅利慶太の完全にお道楽である。創立メンバーの日下武史や妻の野村玲子のための劇場だったことは明らか。しかも、築地小劇場の同人だった父親への憧憬があったのかもしれない。劇団四季の経営面から言えば明らかにマイナス。若手をストレート・プレイで鍛錬する場になるはずだったかもしれないが、ビジネスにならないので閉鎖の時期を探っているのではないだろうか。『ジーザス・クライスト=スーパースター』や『コーラス・ライン』などの旧作ミュージカルと子供向けミュージカルの上演場所になってしまっているが黒字を出せているのかどうか。

今後は『ジーザス・クライスト=スーパースター』、『エビータ』、『李香蘭』など浅利慶太演出の作品がどうなっていくのかも心配。さらに、無理をして?再開した北海道四季劇場。福岡や京都で撤退したのに、何故に札幌?最強作品『キャッツ』のおかげで満員状態が続いているがいつまで続くことやら。

次なる浅利慶太プロデュース公演は、アヌイの『ひばり』だろうけれど、自由劇場は9月から『コーラス・ライン』を上演するので、早くとも秋以降であろう。

追記
四季の会の優先予約日。初日以外は全然売れていない。大丈夫か?
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ナショナル・シアター・ライヴ 2015 「欲望という名の電車」 [演劇]

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ナショナル・シアター・ライヴ 2015の第2弾は、テネシー・ウィリアムズ作の名作『欲望という名の電車』である。上演会場となったのはロンドンにあるヤング・ヴィックという実験劇場である。アリーナを囲む移動式の客席があって、ステージや客席の配置は自由という劇場である。
http://www.youngvic.org/


平土間のスペースに、長方形のスタンレーの家があるという舞台装置。壁や屋根はなくて、無印良品みたいなシンプルなデザインの家具が並んでいる。一番奥はバスタブと洗面台に便器というバスルーム。額縁舞台だと上手奥にドアだけとい設定が多いが、今回は360度の全方向に客席があるので、全て見せますという感じ。さすがにバスタブのシャワーカーテンも片方だけという訳にいかず360度カーテンレールがあって、俳優が全部隠れるというもの。

ドアが1枚あって、スタンレーとステラのベッドルームでダブルベッドと鏡台がある。紗幕の効果のあるカーテン1枚でブランチの寝る簡易ベッドとポーカーや食事をするテーブルセットのあるスペース。さらにキッチンと外へのドアがある。外には階段があって、2階のユニスたちの部屋に繋がっている。スタンレーの家は芝居の進行とともにゆっくり回転していて、どの客席からも観ることのできる工夫がある。舞台を隔てて向こう側に観客がいるわけで、究極のステージシートともいえるかもしれない。

同じ舞台装置でも、場面転換がある。観客に見られたまま出演俳優が舞台を飾ったり、片付けたりする方法。時代は現代に置き換えられているようだが、テレビはなくラジオだけという原作どおりで電話がコードレスだったり、ブランチがヴィトンのバックを持っていたりする。主役3人は舞台上で生着替えをしたり、SEX描写や暴力表現も、近くに観客がいることを意識してか生々しい感じだった。
 
 ブランチを演じたジリアン・アンダーソンは虚栄心の塊のようでいて、過去のゲイの美少年との愛と死の思い出を引きずっていて、さらに経済的に困窮しているというかなり追い詰められた状況で、どんどん壊れていく様を演じて見事だった。なんだかんだ言ってもSEXしか頭の中にないような女性で、ミッチや新聞集金人の青年、さらにはスタンレーの肉体にまで興味があるかのように演じていた。

スタンレーのベン・フォスターは、粗野で身勝手なところもあり、最後はブランチを精神的に追い詰め、その肉体をも貪ってしまうという最低な男を好演。対するステラも没落した両家の娘が、数ランク下がった階級の男性に惹かれているのを見せて、ブランチ同様に女の性をみせて恐いくらいだった。この演出の最大の特徴は、舞台の向こう側の観客が見えていることで、さらにカメラを通して、映画館の観客も舞台の向こう側に見えている観客を意識しながら観劇するという多重構造が面白かった。

エリア・カザンが演出したようなリアリズム演劇をさらにすすめてスーパーリアリズムとでも呼べるような内容だったが、映像用に集音のためか、出演者がミュージカルで使用するようなマイクをつけていたのが興醒めだった。何か工夫はできなかったものだろうか。

それと上映劇場の少なさと、上映時間が変則過ぎるのも困ったものだった。なかなか上映時間が発表されなくて予定が立たず、平日の23時近くが終映時間では観に行けないのである。せっかくの好企画である。今後の改善を望みたい。

次回は「二十日鼠と人間」(新作):2015年5月15日 ~ 5月20日が予定されている。



解説

イギリスで上映された名舞台をデジタル映像化し、世界各国の映画館で公開しているイギリス国立劇場ロイヤル・ナショナル・シアターのプロジェクト「ナショナル・シアター・ライヴ」の1作。ビビアン・リーとマーロン・ブランドが共演した映画版でも知られる、テネシー・ウィリアムズによる戯曲「欲望という名の列車」を上映。没落した名家出身の女性ブランチは、ニューオーリンズに住む妹夫婦を頼りにする。しかし、妹の夫スタンリーはブランチのことが気にくわず、彼女の後ろ暗い過去を暴いていき、ブランチを追いこんでいく。「X-ファイル」のジリアン・アンダーソンがブランチ役を演じ、その名演が話題となった。

スタッフ
演出ベネディクト・アンドリュース
作テネシー・ウィリアムズ

キャスト
ブランチ:ジリアン・アンダーソン
スタンレー:ベン・フォスター
ステラ:バネッサ・カービー
ユニス・ハベル:クレア・バート

詳しいキャスト表はこちら
http://d2z302fz6vkyr7.cloudfront.net/pdf/NTLive_StreetCar_UK_110914_HIRES.pdf

浅利慶太プロデュース公演第一弾の『オンディーヌ 』って? [演劇]

昨年、上演が予定されていた劇団四季の『オンディーヌ』が上演中止になった。諸般の事情とだけあって、詳しい理由は書かれていなかった。

『オンディーヌ』東京公演 上演中止のお詫びとお知らせ

2014.09.16.

この度、先日発表しておりました『オンディーヌ』東京公演(自由劇場)を、諸般の事情により上演中止とさせていただくことになりました。

急な中止となり、また『オンディーヌ』を楽しみにされていたお客様には多大なるご迷惑をおかけしますこと深くお詫び申し上げます。何卒、ご了承くださいますようお願い申し上げます。

今後とも劇団四季の活動にご支援を賜りますようお願い申し上げます。


《払い戻し方法について》
ご購入いただきましたお客様には、払い戻し方法を郵送でお知らせしております。
9月20日までに届かない場合、また、チケットぴあ・イープラス・JR東日本びゅうプラザで直接購入されたお客様 は、誠にお手数ですが、劇団四季予約セン ター(Tel 0120-489444 午前10時~午後6時) の『オンディーヌ』チケット係までご連絡頂けますようお願いいたします。

そして、劇団四季の主催公演ではなく浅利慶太プロデュース公演として『オンディーヌ 』の上演が決定した。週刊誌等の報道によれば、9月9日の正劇団委員会と総会で浅利慶太と野村玲子、その他側近とみなされたベテラン社員や女優が劇団への出入り禁止になったのだとか。
http://friday.kodansha.ne.jp/archives/26651/

それが2月3日の劇団総会で和解?参宮橋のかつての劇団四季の稽古場使用、自由劇場の使用、チケット販売の協力などが行われるようである。浅利慶太にとっては、自分の作った劇団が乗っ取られたようなもので気の毒だが、浅利慶太プロデュース公演が続くかどうかも疑問といわねばならない。

14ステージで500名収容として、劇場使用料が免除されるか軽減されたとしても、5000円のチケット代で全てがまかなえるのかどうか。総収入約3,500万で舞台装置は一新されるということなので、その制作費だけでも馬鹿にならないと思う。これまでならストレート・プレイの赤字はミュージカルの黒字で補填できたが、浅利慶太が劇団四季を離れてしまっては、赤字は自らが被るしかない。第1弾はあっても、第2弾があるのかどうか。今後は劇団四季はミュージカルしか上演しない集団になり下がったということなのだろう。しかも、ミュージカルはカラオケでしか上演しないし・・・。

もう、日本発のオリジナル・ミュージカルを創作することもなくなるだろう。海外の人気作品を上演し続けるのだろうが俳優は使い捨てで、効率ばかりを重視する異常な状況になるに違いない。浅利慶太をはじめとする創立メンバー、亡くなってしまった初期の劇団員は無念なことだろう。精神的な支柱となる芸術監督的な立場の人間がいないのも体外的にどうなのだろう。単なるビジネス的な発想で劇団の運営ができるものかどうか。

もっとも報道のように認知症を患っているのが事実だとするならば、暴力的になってしまうのも解る気がする。天使の父親も認知症で、母親に対する暴力が止まないのである。現在、父親は介護施設に入所しているので暴力行為はないけれど、ずっとワンマンで劇団四季に君臨してきた浅利慶太が、暴力的であったり、高圧的な言動をして周囲を困惑させても不思議ではない。真相は当事者しか知らないけれども、おおかたそんなところだろうと想像する。

有望な劇団員はどんどん退団してしまい、若手が育たないばかりか、日本語の台詞が妖しい外国人団員が増えているのも問題だと思う。何しろ「美しい日本語」を標榜する劇団なのだから。


浅利慶太プロデュース公演第1弾「オンディーヌ」

4月19日(日)~5月5日(火・祝)、自由劇場  全14ステージ

出演: 野村玲子 笠松はる 坂本里咲 斉藤昭子 田野聖子 花岡久子 滝沢由佳 中村伝(客演 劇団四季) 笹岡征矢 広瀬彰勇 山口嘉三 畠山典之 下村尊則 ほか

主催 浅利演出事務所(http://ondine2015.com/)

『オンディーヌ 』チケットについて

四季の会の会員 3月21日(土)より
一般の方    3月22日(日)より

料金 5,000円 (会員・一般共通)

インターネット予約 http://489444.com (24時間受付、ただし発売初日のみ 午前10時より)

劇団四季予約センター 0120-489-444 (午前10時~午後6時)

劇団四季自動予約 0120-489-555 (24時間受付、ただし発売初日のみ 午前10時より 携帯電話、PHS等からは082-849-2690)

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英国ナショナル・シアター・ライヴ 2015 「ザ・オーディエンス」 [演劇]

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エリザベス女王と英国首相が毎週火曜日の18時半に「謁見」する場面を描いた本作。エリザベス女王役のヘレン・ミレンが、若いときから現在まで「女の一生」のように演じ分けるというのが興味深い。今の日本で、天皇陛下を主人公に芝居を書いて上演する勇気のある作者や演出家はいないだろうけれど、英国ではかなり辛らつな内容の芝居なのに上演できてしまう懐の深さにまず感心した。

英国流のユーモアセンスとブラックな笑い、いささか誇張はある気もするが皮肉たっぷりな歴代の首相の描き方など、ロンドンの劇場の観客ほどには笑えなかったけれど、最後まで面白く観ることができた。どの首相も、あまり良い印象は与えないのだが、1960年代と70年代に二度首相になったハロルド・ウィルソンと女王の交流のエピソードは笑わせて最後に泣かせて巧みである。

愚かな首相たちに翻弄される女王を描くだけなら終わり方が難しいと思っていたら、そんな方法があったのかと思わず唸らせるような結末で、激しく心を揺り動かされた。少女時代の王女が何度も登場するなど、いかにも舞台らしい技法も効果的だった。昨年に初上映されて好評につき今シーズンも続映になったのが肯ける出来ておすすめしたい。エリザベス女王がひざまずいて「主の祈り」を捧げる場面も感動的である。

登場する英国首相は以下の通り。

サー・ウィンストン・チャーチル、サー・アンソニー・イーデン、ハロルド・マクミラン、アレック・ダグラス=ヒューム、ハロルド・ウィルソン、エドワード・ヒース、ジェームズ・キャラハン、マーガレット・サッチャー、ジョン・メージャー、トニー・ブレア、ゴードン・ブラウン、デーヴィッド・キャメロンの12人。

解説

イギリス国立劇場ロイヤル・ナショナル・シアターが、厳選した名舞台の数々をデジタル映像化してスクリーンで公開するプロジェクト「ナショナル・シアター・ライヴ」の日本公開作品第3弾で、イギリス女王エリザベス2世と歴代総理大臣たちとの謁見で繰りひろげられるドラマを描いた「ザ・オーディエンス」を上映。映画「クィーン」でエリザベス2世を演じアカデミー主演女優賞を獲得した名女優ヘレン・ミレンが、再び同役を熱演。同じく「クィーン」のピーター・モーガンによる脚本をもとに、「リトル・ダンサー」「めぐりあう時間たち」の名匠スティーブン・ダルドリーが演出を担当した。


スタッフ
監督スティーブン・ダルドリー
脚本ピーター・モーガン

キャスト
ヘレン・ミレン
ジェフリー・ビーバーズ
ジョナサン・クート


原題 National Theatre Live: The Audience
製作年 2013年
製作国 イギリス
配給 カルチャヴィル
上映時間 158分
映倫区分 PG12

今後の上映予定作品は以下の通り

欲望という名の電車A Streetcar Named Desire (新作):2015年3月6日 ~ 3月11日
上映時間:3時間22分/演出:ベネディクト・アンドリュース/作:テネシー・ウィリアムズ/ 出演:ジリアン・アンダーソン、ベン・フォスター、ヴァネッサ・カービー

ヴィヴィアン・リーやマーロン・ブランドが出演した映画版(51年)でも知られるテネシー・ウィリアムズの名作に、アメリカ人女優ジリアン・アンダーソンが挑戦。 没落した名家の令嬢ブランチがたどる悲しい末路を体現する。彼女のキャリアの中で最も素晴らしい演技だと称されたブランチ役を、どうぞお見逃しなく!



二十日鼠と人間Of Mice and Men (新作):2015年5月15日 ~ 5月20日
上映時間:2時間30分/演出:アンナ・D・シャピロ/作:ジョン・スタインベック/ 出演:ジェームズ・フランコ、 レイトン・ミースター、クリス・オダウド

出稼ぎ労働者たちの過酷な現実を描いた、ジョン・スタインベックの社会派戯曲。2013 ̶14シーズンにブロードウェイで上演され、 好評を博した同プロダクションでは、映画俳優ジェームズ・フランコとアイルランド出身の個性派クリス・オダウドが主演を務めた。 オドウドは同作でトニー賞最優秀男優賞にノミネート。



スカイライトSkylight (新作):2015年7月3日 ~ 7月8日
上映時間:2時間42分/演出:スティーヴン・ダルドリー/作:デヴィッド・ヘアー/ 出演:キャリー・マリガン、ビル・ナイ

1997年に緒形拳&若村麻由美の共演で日本初演された、デヴィッド・ヘアー作の3人芝居。『ザ・オーディエンス』のスティーヴン・ダルドリーが演出する今回、 名優ビル・ナイと若手実力派キャリー・マリガンが不倫関係にあった元恋人同士に扮する。人気デザイナー、ボブ・クロウリーが手掛けた舞台美術にも注目だ。



宝島Treasure Island (新作):2015年9月11日 ~ 9月16日
上映時間:未定/演出:ポリー・フィンドレー/作:ブリオニー・ラヴェリー/ 出演:パッツィー・フェラン、アーサー・ダーヴィル

宝島の地図を手に入れた少年ジムが個性豊かな海賊たちとともに繰り広げる冒険譚。ロバート・ルイス・スティーヴンソンの傑作小説が、 英国ナショナル・シアターの手により最高のエンターテインメントとして登場する! 一本足の海賊ジョン・シルバーを演じるのは、TVドラマ「ドクター・フー」のアーサー・ダーヴィル。



オセロOthello(アンコール上映):2015年10月16日 ~ 10月21日
上映時間:2時間25分/演出:ニコラス・ハイトナー/作:ウィリアム・シェイクスピア/ 出演:エイドリアン・レスター、 ローリー・キニア

シェイクスピア四大悲劇の一つを、ローレンス・オリヴィエ賞に輝く実力派エイドリアン・レスターをタイトルロールに迎えて贈る。 ニコラス・ハイトナー演出の本公演では、上官オセロを憎み、彼の失墜を謀るイアーゴーを熱演したローリー・キニアが、2014年のローレンス・オリヴィエ賞で最優秀主演男優賞を獲得。



リア王King Lear (アンコール上映):2015年11月13日~ 11月18日
上映時間:3時間25分/演出:サム・メンデス/作:ウィリアム・シェイクスピア/ 出演:サイモン・ラッセル・ビール、スティーヴン・ボクサー、トム・ブルック

アカデミー賞受賞監督サム・メンデス(「アメリカン・ビューティー」)が演出したシェイクスピア悲劇。 イギリス演劇界きっての名優サイモン・ラッセル・ビールが、自ら王権を手放した老王の転落人生を演じ切る。 愛する者たちに裏切られ、正気と狂気のはざまをさまよう主人公の痛切さを体現する、ビールの名演を見逃すな!



TOHOシネマズ
【関 東】日本橋、六本木ヒルズ、府中、川崎   
【中 部】名古屋ベイシティ     
【関 西】梅田、二条、西宮OS   
【九 州】天神

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大つごもり 寒菊寒牡丹 初春新派公演  花柳章太郎没後五十年追悼 三越劇場 [演劇]

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ホームグランドだった新橋演舞場を満員にした勘三郎の追善興行から2ヶ月。現在の劇団新派のホームグランドは三越劇場である。初春公演は没後50年になる花柳章太郎の追悼公演である。新派の女形芸を継承し、人間国宝であり、文化功労者であった花柳章太郎。絵も嗜んだこともあって、ロビーには舞台写真とともに自筆の日本画が飾られていた。最後の出演作品となった『大つもごり』と『寒菊寒牡丹』を上演するのは追悼にふさわしかった。

三越劇場は、舞台の間口、高さ、奥行とも十分になく、回り舞台を備えた劇場での上演を前提にしたような作品ではハンディがあるが、緞帳ラインの前に前舞台、下手に仮設の花道。それとは別に下手と上手に入退場のできる通路が設けられていた。樋口一葉の小説を久保田万太郎が脚色・演出し、昭和25年1月新橋演舞場で初演。芝白金の資産家の屋敷での出来事を一杯道具で、照明とわずかな装置の移動で台所と茶の間を使い分けた工夫が見事だった。条件に恵まれなければアイディアで勝負というのがよい。

文学座あたりでも上演が困難になってきている現代、もう新派でしか上演できない芝居である。波乃久里子が一世一代でおみねを演じるということで、今後はなかなか観られないかもしれない。三越劇場という小さな劇場で久里子の芸を堪能できるという贅沢。年齢層は少々高い観客も美しい日本語、現代では想像しにくい奉公人の悲哀、そして道楽息子によって助けられるおみねの命を捨てようとする覚悟など、表面的な台詞だけではわからない想いが交錯して、観客席に伝わってくるのがよかった。

次の『寒菊寒牡丹』も新橋の花柳界を舞台に、芝居の世界を知り抜いた川口松太郎と花柳章太郎というコンビで上演したなら最強の新派の演目だったのだろう。母子と名乗れない芸者。その母の弟が殺人事件を過去に起こしていて、せっかくの縁談を壊さないようにと腐心するという泣かせるであろう物語。劇中に月之助らも参加しての口上があり、全員で手締めもあった。

「大つもごり」同様に美しく明瞭で自然な日本語が聞こえてきて大満足。特に浅野を演じた鈴木章生。姿が明治の資産家らしく、口跡もよくて、いかにも新派人。劇団四季のような「美しい日本語」と称して、不自然な日本語を撒き散らす連中とは大違いである。

二本とも天使には許容範囲の芝居だが、もっと若い観客層にアピールしていかないと将来の見通しは暗いかもしれない。歌舞伎俳優の若手を積極的に起用していくのもいいかもしれない。今売り出し中の尾上松也など、新派にも縁のあることだし、勉強させたらいいと思う。もちろん菊之助、海老蔵といった世代が起用できればなおいいのだが。



見どころ

稀代の名優・花柳章太郎を偲ぶ名舞台!

花柳章太郎(明治27年―昭和40年)は、稀代の名優、不世出の女方と称される新派俳優。
女方としての芸を追及し、数々の代表作を残す。幅広い芸域で長らく観客を魅了し続けた。
『鶴八鶴次郎』『京舞』『佃の渡し』『遊女夕霧』『螢』などの代表作で「花柳十種」が選定されるなど、
日本演劇界に残した足跡は計り知れない。
重要無形文化財保持者(人間国宝)、文化功労者。
昭和40年1月新橋演舞場、昼の部に『大つごもり』、夜の部に『寒菊寒牡丹』へ出演したのが、
最後の舞台となる。没後50年を数える。


一、大つごもり

樋口一葉の短編小説をもとに描かれた新派屈指の名作であり、「花柳十種」のひとつ。
波乃久里子が一世一代で、定評のあるみねを勤めます。

◆あらすじ◆
明治も中頃、東京の白金台町。
資産家山村家の女中みねは、健気な働き者の奉公人である。
幼い頃、両親に死別し伯父夫婦に育てられたみねは、病を患っている伯父の借金返済の為、
金の工面を請け負っていた。そして約束の大晦日、大つごもりの午後。
奉公先の奥様あやに前借りを願い出てはいるものの、まだ金の工面ができずにいるところへ、
道楽息子の石之助が久しぶりに姿を現す。
先妻の息子石之助とは折り合いが悪いあやは機嫌を損ね、みねの話を立て切ってしまう。
部屋には失意のどん底に落とされたみねと酔いつぶれた石之助。
目の前には金の入った懸け硯。万事窮したみねは夢とも現とも知らず、懸け硯に手をかけ……。

一、大つごもり
原作 樋  口 一  葉              
脚色 久保田 万太郎
演出  齋  藤 雅  文


みね: 波  乃 久里子
山村あや: 水  谷 八重子
山村嘉兵衛: 立  松 昭  二
宇太郎: 田  口    守
しん: 青  柳 喜伊子
山村石之助 :市  川 月乃助

15:00~16:00

幕間 25分

二、寒菊寒牡丹

昭和初期、新橋花柳界に生きる人間模様──
花柳章太郎に書き下ろされた妻吉を現代に受け継ぐ水谷八重子はじめ、
新派一丸となってお届けします。

◆あらすじ◆
売れっ子芸者の菊葉が、若き実業家の浅野に正妻として迎えられることになり、
築地の香楽亭では集まった芸者たちが騒いでいる。
しかし、当の菊葉はというと浅野がやって来ても変わらぬ態度。
そんな菊葉のことを陰から心配そうに見守る姉さん芸者の妻吉は、
浅野の妻になることを気楽に考えている菊葉に、死ぬ気になって辛抱するよう強く諭すのだった。
その夜遅く、菊葉と妻吉は二人きりで別れの盃を交わす。
堅気になる前の最後の夜に、菊葉は妻吉の口からどうしても聞いておきたいことがあった……
妻吉こそ、自分の本当の母親であるという真実を……。
しかし、妻吉にはそのことを告げられない理由があった。妻吉には木彫師の磯吉という弟がいて……。

作 : 川  口 松太郎
演出:成  瀬 芳  一

若葉屋の妻吉:水  谷 八重子
菊松葉の菊葉(トリプルキャスト): 瀬  戸 摩  純、 石  原 舞  子、 鴫  原    桂
浅野:鈴  木 章  生
ラシャメンお新:山  吹 恭  子
お栄:波  乃 久里子
木彫師太田磯吉 :勝  野    洋
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菅原文太と劇団四季 [演劇]



菅原文太さんが亡くなった。映画『仁義なき戦い』も『トラック野郎』も縁がなかったが、彼は劇団四季でデビューしたらしい。『間奏曲』ジャン・ジロドゥ作は1954年12月に上演されたという。 その時の配役は、イザベルが藤野節子、水島弘が検査官、日下武史が視学官、井関一が町長といった創立メンバー。首斬役人Ⅰで菅原文太が出ていたとか。

天使が映像でのスターの彼を意識するよりも舞台人として印象深い役を演じているのを思い出す。それは昭和59年サンシャイン劇場で上演されたパトリック・マイヤーズ作「K2」である。 菅原文太と木之元亮の二人芝居で、標高8611メートルを誇る世界第2の高峰「K2(ケー・ツー)」が舞台。世界最高峰のエベレストよりも登頂者が少なく、難易度ではエベレストをしのぐ「非情の山」として知られている。

物理学者ハロルドと地方検事補テイラーは、K2登頂を果たすも、下山途中の8100メートル付近で遭難してしまう。零下40度以下、酸素も薄く、寝袋もテントもない。そして、ハロルドは足を骨折し、氷壁のレッジ(岩だな)で、身動きが取れないという危機的状況。容赦なく襲いかかる大自然の脅威を前に、2人はお互いの人生を話し出す……。極限状態に置かれた登場人物の、生と死の葛藤を通し、人間の本性を浮き彫りにする究極の人間ドラマ。

菅原文太は物理学者ハロルドを演じて、オーケストラピットから劇場の天井まで巨大な氷の壁面をつくり、実際に出演者が登山をしてみせるという芝居で、2010年には堤真一と草なぎ剛で再演している。

絶望的な状況の中で感動的な幕切れを迎えるが、あまりの感動の大きさ深さに、しばらく誰も拍手すらできなくて劇場が沈黙に包まれたのを思い出す。何かというと我先に拍手をし、スタンディングオベーションをしてしまう軽薄な観客と違い、かつては深い感動を味わう余裕が観客にもあったのを思い出した。

ご冥福を心からお祈りいたします。

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鶴八鶴次郎 京舞 十一月新派特別公演 新橋演舞場 [演劇]



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新橋演舞場に新派が帰ってきた。天使が松竹の劇場へ通い始めたのは初代水谷八重子の最晩年で、1月、3月、5月、9月、11月が新橋演舞場、10月が国立劇場での公演があり、東京では年間6ヶ月もの上演があったのである。古い新橋演舞場で水谷八重子を観るのになんとか間に合ったという感じである。

最近の新派は三越劇場で1月、8月、10月の年3回が恒例のようになっていて、大劇場公演としては、新橋演舞場に年1回登場するかしないかの状態である。三越劇場の公演であっても満席にすることは難しいような状態が続いている。今回は、十七代目と十八代目の中村勘三郎の追善興行ということで大劇場での公演が実現し、しかも興行成績も悪くなさそうなのは大きな喜びである。

上演時間は、初日は5時間半近くと長かったようだが、それでも『京舞』はカットした場面があるということだった。残念ながら天使は『京舞』の八重子の片山春子が100歳で舞い納める場面で劇場を後にしたのだが、それでも15時30分だったので、後の幕が20分で終わるとも思えないので、予定時間の15時50分を今もオーバーしているのかもしれない。

半日を劇場で過ごすことは、かつては普通だったし、逆に上演時間が短いと苦情もあったと聞いた。それが歌舞伎ですら上演時間が休憩を含めて4時間半に収めるのが普通である。観客も長い芝居を望んでいないようである。笑わせて泣かせて、主演者が平等に幕切れをとり、春夏秋冬の季節感を巧みに取り入れ、観客の心理を読み取り、脇役に至るまで演じ甲斐のあるように書き込み、さらに舞台転換まで考慮するという商業演劇のお手本のような両作品である。ゲスト次第で動員がかなうなら、仁左衛門、吉右衛門、菊五郎、玉三郎らを昔のように客演してもらい、新派を今一度見直させたいと願うものである。

『鶴八鶴次郎』は、勘九郎が勘三郎の台詞回しや声までそっくりで驚かせる。七之助の鶴八も女優の中に入って遜色のない美貌があり、兄弟はもっと早く久里子と共演するべきだったと思う。番頭佐平の柄本明は、劇中口上の中で演じるのが恐いというのが本音かと思うくらい、新派の世界の人として演じきれていない。どうしても勘三郎や藤山直美と共演していた頃の喜劇的な演技が観客のなかにも残っているので、泣かせるべき場面でも笑いが起ってしまうなど気の毒だった。興行元竹野の立松 昭二は、右手を負傷しているのか包帯を巻いていたようだが、安井昌二あたりが演じてもよいような役を継承できているは心強い。

幕切れは、ほろ苦い終わり方で、後味はけっしてよくないのだが、基本的に新派は泣かせる芝居なので、近頃の笑える芝居、笑わせようとする芝居とは、向いている方向が全く違うのだと思ったほうがよい。比較するべき東宝系の商業演劇が絶滅状態なので仕方がないのだが。

『京舞』は国立劇場で勘三郎病気休演で八重子が急遽代役に立った役である。十七代目の勘三郎は亡くなってしまうのだが、なんとか継承され今に上演が続いているのは嬉しいことである。八重子も九里子も年齢を重ねてしまって、今後演じ続けられていくのかどうか微妙だと思うのだが、芝居の出来を見る限りでは安心していいのではないだろうか。

休憩後は「手打ち式」で始まり、劇中の追善口上へと続いた。毎日ゲストが替わるが、天使の観た日は永島敏行だった。なかで 近藤正臣が勘三郎と共演した『あわ雪豆腐』のエピソードを披露する。天使は、この芝居を昭和57年の東京宝塚劇場で観ている。劇場の真向かいの千代田劇場で「たのきんトリオ」の映画が封切りされた初日で大混雑していて、ちょうど楽屋入りした山城新伍が驚いていたのを覚えている。

芝居の中身は、酒乱の殿様が家来に諭され、毎夜人夫の如く道路掃除に連れ出し、酒乱が直ったところで切腹の命令が下り、家来が最後に「あわ雪豆腐」を持ってきて涙ながらに殿様に食べさせるという話。そこで毎回勘三郎は本当に泣いていたという。近藤はうどんと言っていたが、「あわ雪豆腐でござます」と差し出したような気がするがどうだっただろう。

片山春子の水谷 八重子は、少々太り気味だったような気もするが、九里子とともに年齢を感じさせない演技で、新派と歌舞伎が混合の脇役を含めて新派の健在振りをしめした舞台となった。さて、次はいつ新派として新橋演舞場に戻ってくるのだろうか。正月の三越劇場の花柳章太郎没後五十年追悼は、ちょっと観てみたい気がする。

初春新派公演


  川口松太郎 作
   成瀬芳  一 演出
一、鶴八鶴次郎 四幕七場

鶴賀 鶴次郎 : 中村 勘九郎
鶴賀 鶴八 : 中村 七之助
興行元 竹野 : 立松 昭二
弟子 鶴子 : 瀬戸 摩純
番頭 佐平 : 柄本 明

11:00~12:40

幕間 30分


   北條秀  司 作
   大場正  昭 演出
   成瀬芳  一 演出
二、京     舞 三幕
   ─ 劇中追善ご挨拶申し上げます ─
   舞踊振付 井上八千代

片山 春子 : 水谷 八重子
杉浦 : 近藤 正臣
おきく : 高橋 よしこ
松本 佐多 : 伊藤 みどり
おまき : 青柳 喜伊子
まつ子 : 石原 舞子
片山 博通 : 中村 勘九郎
片山 愛子 : 波乃 久里子

第一幕 13:10~14:15

幕間 15分

京舞 第二幕、第三幕 14:30~15:50

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