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六本木歌舞伎 地球投五郎宇宙荒事 EXシアター六本木 [歌舞伎]

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六本木歌舞伎といっても、もう場所は西麻布に近いEXシアター六本木という地下にあるコンクリート打ちっ放しの壁がロビーを飾る、大きなライブハウスのような会場での歌舞伎の上演だった。場所が場所だけに、例の事件がどうしても頭をよぎる。「ああ、海老蔵は血だらけでこの通りを逃げていったのか」とフト思ったりした。自虐ネタは封印されたのか、さすがの宮藤官九郎もその話題にふれる勇気はなかったようで、海老蔵のブログネタで笑いを取るのが精一杯だったという感じ。海老蔵が荒事を披露してヒーロー役を演じれば演じるほど、血だらけでボコボコにされた過去が浮かんできてしまって困った。

開幕は『地球投五郎宇宙荒事』の上演を決意する2014年の新橋演舞場?の楽屋からスタートする。海老蔵の部屋子である加藤清史郎 が演じる市川鯛蔵が、海老蔵は宇宙人ではないかと疑問を抱くところから芝居が始まる。その前に、いささか誇張された楽屋風景が面白おかしく描かれていくのだが、小ネタの切れ味は相当悪い。まあ、笑えるけれど「それで、何か」という感じで広がりのない刹那的な楽屋落ちめいた台詞ばかりで品のなさは相変わらす。舞台の上で隈取の完成までをみせ、衣裳をつけるのが趣向。歌舞伎の舞台では珍しい暗転を多用していたのは、演出が映画監督だからかもしれない。当日も下手バルコニーの最前列で鑑賞?していたが、果たして舞台の出来に満足しているのやらどうやら。

亡くなった勘三郎に「地球を投げるような荒事をやれ」というのが、今回の六本木歌舞伎実現の発端だったようだが、酔っ払いの戯言を真に受けたのでは?と思えるほど、芝居としての面白さに欠けて、ひたすら我慢を強いられる舞台だった。そんなイカれた舞台を救ったのが、歌舞伎俳優ではない加藤清史郎で、客席のお客に対しての芝居とも思えぬ応対や部屋子としての醒めた目の演技、与駄という特異なキャラクターになっての芝居など、彼の存在なしでは成立しないような構造になっていた。

舞台には定式幕があり、プロセニアムアーチには破風屋根があって歌舞伎芝居の小屋らしい設え。さすがに花道は後方の席が階段席なので、舞台からまっすぐ伸びた花道は中央の中通路で上手と下手に逆さTの字に分かれる。下手側は階段で下手出口を鳥屋に、上手側はゆるやかなスロープにして上手出口を鳥屋風に使っていた。さすがにそれでは、舞台寄りの観客が自席に行きにくいのでそれぞれの花道に切り込みがあって、開演ギリギリに花道を裏方が完成させに出てくるという形式だった。

無いよりもましな花道ではあるけれど、前半の鎌倉権五郎風、後半の押戻し風の荒事もなんだか引き立たない。荒事が小さく、こじんまりとして見えてしまっては駄目だと思うのだが、大きな目をむく海老蔵の眼力も不発だった。収まるところに収まるものがないと芝居の世界が成立しないらしい。最後の地球投げの荒事も強大化した地球投五郎が無駄に大きい薄っぺらな地球の書割を上に押し上げてみましたという感じで、肝心の力感がないので中途半端に、不発に終わった。

投五郎が強大化するとか、獅童がトランスフォイームして闘うマシンと一体化するなどSF的といえば言えなくもないが、なんだか子供だましだし、主張に無理があって後半は芝居として大失速。それに絡む右近の高窓太夫が、女形にはあるまじき行為と演技で、思いっきり高感度を下げた。いくら笑いを取るためとはいえ、やって良いことと悪いことがある。とことん下品な女形になる第二の福助は右近に決定か。

「スター・ウォーズ」や「未知との遭遇」へのオマージュといえば聞こえはいいが、単なるパクリでギャグとしても質の悪いもので観ていて辛かった。宇宙船が浅草に現れ、それを町人たちが見て大騒ぎになり、歌舞伎役者の團九郎が呼ばれて「暫」になるのが前半だが、團十郎家と荒事への畏敬の念が全く感じられないので浅はかさが増した感じ。後半は駄足米太夫と高窓太夫のどうでもいいような出生の秘密が明かされて地球を投げるまでの物語の展開は、さすがに時間切れだったかというくらい筆先が鈍っていたとしか言いようのないもので酷い。

本当にこれが良いと思ってみている観客も観客だが、本来の歌舞伎に精進することもせず、どうでもいい舞台に現を抜かす困ったチャンにあんりつつある海老蔵を大いに憂う。かたや歌舞伎座で一生の宝となるような名演を披露する幸四郎、吉右衛門、菊五郎の客席に空席があって、劇場を三歩出れば忘れるような底の浅い芝居が満員とは世の中は間違っている。まあ、イヤホンガイドがないので、これは歌舞伎ではないのかもしれないが。

2015年2月17日(火) 13時開演

脚本:宮藤 官九郎
演出:三池 崇史


地球投五郎 市川 海老蔵
駄足米太夫 中村 獅 童
絵師の竜二 坂東 亀三郎
高窓太夫 尾上 右 近
火消しの彦兵衛 大谷 廣 松
左坊 市川 福太郎
市川鯛蔵/与駄 加藤 清史郎
右坊 市村 竹 松
大工の源 市川 九團次
法漢和尚 片岡 市 蔵
徳川綱吉 市村 萬次郎


上演時間


地球投五郎宇宙荒事
発端・第一幕
13:00-13:50

幕間     20分

地球投五郎宇宙荒事
発端その二・第二幕
14:10-15:25

時は元禄。浅草・浅草寺の空中に円筒形の宇宙船が現れた。その船から降り立ったのは悪の親玉・駄足米太夫、衛利庵(えいりあん)である。その妖気に怯えた江戸の庶民は上を下への大騒ぎ。すでに度重なる宇宙生命体の襲来により、江戸幕府はその機能を失っており、パニックを避けるためには、宇宙人の存在を隠蔽する必要があった。法漢和尚は機転を利かせて、庶民に「これは歌舞伎だ! 芝居だ!」とごまかし、混乱を沈めた。そこに花魁道中が通りかかる。米太夫は地球侵略の手始めにと、吉原一の花魁・高窓を人質にとらえる。正義の味方、五郎に扮した團九郎が登場するも、いとも簡単に高窓を連れ去られてしまい…。
 團九郎と米太夫の悲しくも数奇な運命、團九郎と米太夫の決闘はいかに…。



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