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畑中良輔 追悼公演 ありがとう、ブル先生 藤沢市民会館 2013年1月20日 [音楽]


荻窪ラプソディー: ブル先生の日々是好日

荻窪ラプソディー: ブル先生の日々是好日

  • 作者: 畑中 良輔
  • 出版社/メーカー: 音楽之友社
  • 発売日: 2012/07/13
  • メディア: 単行本



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携帯電話の着信記録を見ると、ちょうど一年前の今頃だった。畑中先生から電話がかかってきたのは…。聞き覚えのある、あの声で「劇場の天使さん!」と言われた時は心臓が止まるかと思うほど驚いた。天使はごく親しい人を除いて、正体を明かしていない。まあ、読む人が読めば分かる様に書いているのだけれど、何もお知らせしていなかった先生に見破られるとは…。悪い事はできないものだとつくづく思った。

お正月に浅草歌舞伎で一緒だったCypressさんが、10年ほど前に天使を畑中先生に紹介してくれたのだけど、ちょうど愛する人を失ったばかりで失意の中にいた天使に、進むべき道を指し示してくれたのは、他ならない畑中先生だった。どこの馬の骨か分からない、全く畑違いの人間に、どうしてあんなに優しく接してくれたのか。他人には優しい先生が、どうして自分自身には厳しいのか。天使は憧れよりも強い気持ちを先生に抱く様になっていた。先生に会いたくて、オペラの初日を狙って劇場へ行くというストーカーまがいの事をした事もあった。

藤沢市民会館へもオペラを観に何度も通ったものである。先生に最後にお目にかかったのは新国立劇場での「沈黙」のロビーでだった。車椅子でお帰りになる先生に「さようなら」とご挨拶をするつもりだったのに、何故か「ありがとうございました」という言葉が出てしまった。今も不思議なのだが、あの時は「さようなら」よりも「ありがとうございました」という言葉が一番ふさわしかったのだった。

今日の藤沢市は富士山こそ見えなかったけれど快晴。開演まで1時間ほどあったが、予想通り長蛇の列で、最終的には二階席まで満席となった。出演者や曲目は当日までよくわからなかったのだけれど、2500円という低価格では、普通は実現しないような豪華メンバーによる演奏会となった。宗教曲、ドイツ歌曲、日本歌曲、オペラアリア、オペラ合唱曲と多彩な曲目で、3時間にも及ぶ演奏会となった。驚くべきはプロの出演者に対しても支払われたのは交通費だけで、出演料なしの公演だったという事だ。畑中先生のためにという想いだけで集まった出演者、関係者に心から拍手を送りたい。

クラシックのコンサートらしく音響反射板が設置されているステージだが、舞台後方には反射板がなく、ホリゾント幕で、そこに1階客席後方に置かれたプロジェクターから先生の画像が投影される仕掛けになっていた。お別れの会で遺影に使われたもの。紀尾井ホールでの演奏会のものなど、天使も知っている画像もあったが、初めて見る練習中の画像など興味深いものを見せていただいた。

中でも先生が毎朝お作りになっていたという野菜ジュースをミキサーで作っているところとか、鎌田實さんの諏訪中央病院でのコンサートの画像は先生の別の一面を見た気がして楽しく思えた。特に病院でのコンサートでは、畑中先生は白衣を着て首に聴診器を引っ掛けていて、どこから見てもお医者様である。こんな先生なら診察して欲しいなあと思った。そして蓼科の別荘がお近くの縁で、天使の尊敬する現役最長老のチェリストである青木十良さんとのツーショットの画像は天使を興奮させた。

会場に入るとピアノの調律が開演直前まで行われていて、リハーサルがいかに大変だったかをしのばせた。最初はオーケストラと合唱によるフオーレのレクイエムから第1曲目の「入祭堂とキリエ」から始まった。藤沢市民交響楽団を指揮するのは誰?と思ったら、畑中先生から受け継いだ平野忠彦さんだった。

演奏が終わると合唱団とオーケストラが退場して、椅子が片付けられピアノを中央に動かすという大きな舞台転換があって、畑中先生にゆかりの歌手が登場して歌曲を2曲披露するという形式で進んだ。途中に平野氏のMCが入って3名が続けて歌った。歌曲のステージのはずなのに、カウンターテナーの弥勒忠史はヘンデルの歌劇『リナルド』から「私を泣かせてください」を歌った。独特の装飾音をつけて面白く聞いた。

そういえば、この弥勒さんが出演した「天国と地獄」を観たのが藤沢に来た最初のオペラだったように思う。ロビーでお会いした先生に誘われて、先生のお隣で見る事になったのだけれど、予想外の出来事に緊張してしまって、何を観たのか全然覚えていないのである。

前半の最後は、男声合唱のお好きだった畑中先生偲んで、モーツァルトの歌劇「魔笛」から「おお、イシスとオシリス」(僧侶の合唱)が歌われた。テノールが少々不安定だったような気もしたが、畑中先生も喜ばれたと思う。ここまでが約1時間ほどで休憩となった。

休憩後はオーケストラの楽員が増えてヴェルディの歌劇『アイーダ』から「凱旋行進曲」。天使も学生の頃にオーケストラと一緒に歌ったことがあるが、なかなか難しい曲である。男声合唱には中盤に難所があって、案の定ハラハラさせられたが何とか歌いきってひと安心だった。

オーケストラの椅子を片付ける転換の間に、平野氏とご子息の貞博氏によるMCがあって、食輔と呼ばれた食通の畑中先生のエピソードが語られた。それからは、オペラのアリアを1曲ずつ歌う形式に変わる。それぞれ一番得意なレパートリーを歌ったはずでいずれも楽しめ、藤沢ニューイヤーオペラコンサートといった趣になる。

前半で感心したのは菅英三子が歌ったドリーヴの歌劇『ラクメ』から有名な「鐘の歌」。驚くべきテクニックを披露して満場をわかせていた。その次に歌われたのは、小濱妙美によるワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』から「愛の死」。ここで不覚にも涙ぐんでしまった。『トリスタンとイゾルデ』は亡くなった最愛の人と最後に観たオペラだからで、最後の和音が消えるとき、二人の愛も消えてしまうと思えて、それ以来『トリスタンとイゾルデ』は聴かないと決めていたのだった。

それ以降は、売れっ子のソプラノ、テノール、バリトンの声の競演となったが、いずれも素晴しい歌唱で甲乙つけがたかった。女性に歳のことをいうのは失礼だが、松本美和子が71歳というのは驚いた。容姿も歌声も20歳は若く見えるのである。塩田美奈子はカスタネットを鳴らしながら歌って喝采を浴びていたし、女性のトリは佐藤美枝子で得意のコロラテューラを披露し、福井敬は藤沢でも歌ったカラフの有名なアリアを歌って締めくくった。

ここでオーケストラと合唱団が入場するまで、平野さんと福井さんの師弟コンビでMCを担当して、畑中先生の思い出を語った。最後にソリストも全員登場してモーツァルトの「レクイエム」からラクリモーサを合唱して締めくくった。実は天使は通算でモーツァルトの「レクイエム」を10回ほど歌っているので暗譜で歌えることをいいことに、お隣の席が空いてしまったので一緒に口ずさんでしまった。畑中先生とは音楽では全く無縁だったのだが、天使の歌声を聴いてもらえればよかったかななどと思ったりした。舞台の上も客席も畑中先生に感謝の念を表す会になっていて心温まるものだった。藤沢の今年のオペラの演目は、モーツァルトの『フィガロの結婚』だという。先生は日本の封建時代に翻案しての上演の夢を語ってくれたことがある。スザンナが腰元・お鈴とか…。結局夢の上演になってしまったが、普通の演出でも面白い舞台になってくれることを祈りたい。

プログラム

第1部
フォーレ       「レクイエム」 入祭堂とキリエ    合  唱

R.シュトラウス  あなたは私の心の王冠         山本 香代
            献呈

メンデルスゾーン ズライカ                  栗林 朋子
            歌の翼に

中田喜直      歌をください               岩崎由紀子
平井康三郎    うぬぼれ鏡                

ヘンデル      『リナルド』私を泣かせてください   弥勒 忠史

貴志康一      かごかき                 久保 和範
梁田 貞      城ヶ島の雨     

ヴォルフ      祈り                     白石 敬子
           ミニヨンの歌

モーツァルト    『魔笛』おお、イジスとオリシスの神よ(僧侶の合唱) 合  唱


休憩


第2部
ヴェルディ 『アイーダ』 凱旋行進曲           合  唱

ロッシーニ 『セビリアの理髪師』私は町の何でも屋  大沼 徹

マスネ   『ルシッド』 泣け泣け我が眼!       悦田比呂子

マスカーニ『カヴァレリア・ルスチカーナ』ママも知るとおり 清水 華澄

ドリーヴ  『ラクメ』鐘の歌                 菅 英三子

ワーグナー 『トススタンとイゾルデ』愛と死(リスト編) 小濱 妙美

ヴェルディ『ルイザミラー』穏やかな夜には        樋口 達哉

ヴェルディ『リゴレット』悪魔め、鬼め!          牧野 正人

ドヴォルザーク 『ルサルカ』白銀の月          松本美和子

ルーナ  『サルスエラ「ユダヤの子」』私はスペインから来た 塩田美奈子

ベッリーニ 『カプレーティ家とモンテッキ家』おお、幾たびか 佐藤美枝子

プッチーニ 『トゥーランドット』誰も寝てはならぬ         福井 敬


アンコール
モーツァルト 「レクイエム」ラクリモーサ         全員


合唱:湘南コール・グリューン
    湘南市民コール
藤沢男声合唱團
   紀声会
   アンサンブル藤沢

管弦楽:藤沢市民交響楽団

畑中良輔追悼公演実行委員会

委員長:平野 忠彦(指揮・司会)
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コメント 1

H先生秘書役

コメント拝受。私は、天使さんが、先生と最後の会った新国立・沈黙のとき、先生の車いすを動かしていました。貴兄と先生の最後の瞬間を見届けさせていただきました。藤沢では、合唱団のメンバーでオンステ(BASSのメンバー表に名前が出ています)

本当に素敵な先生でした。貴兄コメントは、先生のご霊前にお供えしたいほどです。
まずはお礼まで

by H先生秘書役 (2013-01-23 13:19) 

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