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鳴神 土蜘 河内山 六代目中村勘九郎襲名披露・二月大歌舞伎・昼の部 新橋演舞場 [歌舞伎]

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新しい勘九郎、土蜘の充実

七ヶ月の平成中村座ロングラン公演を二月は休んで、新橋演舞場で中村勘太郎改め六代目中村勘九郎の襲名披露が行われた。三月は平成中村座でも襲名披露が行われるので、大名跡ではない襲名としては珍しく二ヶ月連続しての襲名興行となった。

何故、勘太郎のままではいけないのかという疑問がある。当代の勘三郎が勘九郎時代に当たり役なんてあっただろうかと考えてみたが、なかなか思い浮かばない。先代の勘三郎の当たり役を数多く当代は継承してはいるが、彼自身の当たり役といえば、野田秀樹をはじめとする新作群とコクーン歌舞伎の作品群ということだろうか。でも、それは勘九郎=当代勘三郎のものであって、今度の勘九郎のものではない。彼らしい新しい勘九郎を創り上げるしかないのである。そんな覚悟を迫る襲名なのだと理解した。

その襲名で『土蜘』を選んだのも、勘三郎の名前とは別に六代目菊五郎の演目を継承しようという意欲の表れなのだと思う。浅草歌舞伎で演じているとはいえ屈指の大役である。現役の役者では、菊五郎、吉右衛門、仁左衛門、橋之助、松緑しか演じていない。音羽屋の新古演劇十種でありながら、当代の勘三郎も先代も演じていない演目である。中村屋に所縁の松羽目物であれば他の演目もあるだろうが、敢えて六代目の血筋にこだわったような演目を選んだのも、新しい勘九郎にはふさわしいものとなったようである。

なんといっても襲名にふさわしい豪華な配役が作品の魅力を増したのは間違いがない。間狂言の番卒に仁左衛門、吉右衛門、勘三郎が並ぶとさすがに壮観な眺めである。しかも舞台に仰向けになって足をバタバタさせるなど、普通ではありえないことで面白い。また、都心の劇場へ勘三郎が登場したのも久しぶりのことであるし、長らく共演のなかった勘三郎と吉右衛門が同じ舞台に立つのも話題ではある。

そうした周辺の出来事を別にしても勘九郎の僧智籌実は土蜘の精は、身体の内部に秘めた悪意のエネルギーを観客に感じさせて充実の極み。花道の出、諸国修行の物語、後シテの立派さなど若さゆえの身体能力の高さと気力のバランスが素晴らしく当代一ともいっても良いような『土蜘』が出現した。この役を長く当たり役として大事に演じていくことだろうと思う。

襲名に華を添えた大幹部はもちろん、三津五郎、福助、橋之助、芝雀らの出演も贅沢であり隙がない。あえて言えば福助の胡蝶の軽さが作品の重厚さとあっていなかったような気もしたが、それを補って余りある勘九郎の大活躍に興奮と感動を覚えた。

開幕は『鳴神』で橋之助と七之助という次男坊コンビ。初日ゆえに数々の失敗が度重なって舞台成果としては満足とはほど遠い内容だったのは残念だが、主役二人には罪はないので気の毒。幕開きは浅黄幕の奥より黒雲坊と白雲坊が登場する演出で花道からの出ではなかった。その他、細かな違いがあったような気もするが、鳴神と雲の絶間姫を引き立たせる工夫ということなのだろうと思った。

橋之助の鳴神は押し出しが立派でなかなかの出来。一方の七之助の絶間姫も線の細さが武器になっていて古風というよりも現代的な感覚を持った役作りだったようである。それが一番現れたのは、仕方話や鳴神が姫の懐へ手をいれる部分など古風なおおどかさよりも、もっとリアリティのある表現であったと思う。非常にエロティックな部分なのだが、観ているこちらが恥かしくなるような官能的なものに仕上がっていた。橋之助は荒事になってからも立派で飛び六方まで一気呵成に演じたが、所化の流血により観客の目は他の部分に行ってしまっていたので、せっかくの好演も印象が薄くなってしまったのは勿体無かった。

『河内山』を仁左衛門が演じ、襲名した勘九郎が松江候という配役も襲名披露ならではで仁左衛門の好意といったところだろうか。一座に同じく河内山を当たり役とする吉右衛門がいるので、上方役者が江戸っ子役者への挑戦といった意欲があったのかもしれない。

大きな違いはなくいのだが、金を差し出されるところで袱紗をかけたまま差し出される金包みを「身受けし所は目録包み」という台詞通り、金の包みを目録と書かれ水引がかけられたものに変えたところだろうか。原作通りということだが、見慣れていないだけに違和感が残ったような気もしたが、観客には伝わっていたようなので工夫としては悪くないのかも。

質店には秀太郎、我當、松之助ら松嶋屋一門が出演していて、我當の不自由な身体をいたわる温かさが満ちていて芝居とは全く関係ないのだが温かい気持ちになった。周囲の役は錦之助の数馬、隼人の浪路、由次郎の大膳、東蔵の高木と固められていて安定。

仁左衛門の河内山には余裕があり、名調子の台詞で観客を喜ばせる。勘九郎の松江候をじわじわと追い詰めていく感じも申し分ない。勘九郎も一生懸命なのだが、さすがに親子ほども歳が離れていることもあって、役者の格の違いを思い知らされる結果に終った。この一座では三津五郎あたりが演じるのが本当だろうが、襲名披露ということで勘九郎に演じさせた仁左衛門の想いがあふれていたのが良かった。勘九郎の芝居への期待は来月へ持ち越しといったところだ。



昼の部

一、歌舞伎十八番の内 鳴神

鳴神上人       橋之助
所化白雲坊       亀 蔵
所化黒雲坊       男女蔵
雲の絶間姫       七之助

11:00-12:20

幕間 30分

二、新古演劇十種の内 土蜘
           
僧智籌実は土蜘の精  勘太郎改め勘九郎
源頼光        三津五郎
侍女胡蝶       福 助
平井保昌       橋之助
渡辺綱        松 江
坂田公時       巳之助
碓井貞光       児太郎
ト部季武       国 生
太刀持音若     宜 生
巫子榊        芝 雀
番卒藤内       勘三郎
番卒次郎       仁左衛門
番卒太郎       吉右衛門

12:50-2:11

幕間 20分

  天衣紛上野初花
三、河内山
  質見世より玄関先まで

河内山宗俊      仁左衛門
松江出雲守  勘太郎改め勘九郎
宮﨑数馬       錦之助
腰元浪路       隼 人
北村大膳       由次郎
高木小左衛門    東 蔵
後家おまき      秀太郎
和泉屋清兵衛    我 當

2:31-4:00
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コメント 1

たろう

観に行きました☆
土蜘とても感動しました
私は特に前半の悪の魅力的なキャラが素晴らしいと思いました
和製スパイダーマンというか 僧なのに 蜘な雰囲気を出していて 観に行って本当にヨカッタです^0^☆
また勘九郎さんの土蜘観たいです!
by たろう (2012-02-25 23:10) 

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