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六代目中村勘九郎襲名披露 二月大歌舞伎 初日あれこれ 鳴神流血事件ほか [歌舞伎]

毎年、勘三郎と藤山直美らによって喜劇が上演され続けていた新橋演舞場の二月。今年は勘三郎の長男、勘太郎が六代目勘九郎を襲名する歌舞伎公演となった。早速、初日に駆けつけた。

劇場正面には勘九郎の写真パネルと「八海山」の菰樽が飾られていた。
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「八海山」は、2階のバーカウンターでマス酒として売られていた。スポンサーの特権というところだろうか。

劇場のロビーには襲名絵馬が展示されている。歌舞伎座と違ってロビーに展示スペースがないので、襲名につきものの「楽屋のれん」、「鏡台」、「襲名の引き幕の箱」といった贈物や胡蝶蘭など花の類は一切無い。その替わりに贈答者の名前入りの絵馬が飾られているようだった。芸能人から浅草のうなぎ屋まで多士済々な名前が並んでいたが、狭いロビーが満員電車並みの大混雑でゆっくり見ることはできなかった。
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舞台にはフジテレビから贈られた襲名の引き幕。上手の桟敷には新橋の芸者衆が出の衣裳で総見。華やかだったが、目出度さも中位なのは芝翫の姿がないことによるのだろうか。
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鳴神流血事件

さて開幕は橋之助と七之助の『鳴神』。初日ゆえにいくつかの失敗があった。まず男女蔵が台詞を忘れた?のか一瞬、黒雲坊と白雲坊のやりとりが途切れる。

さらに雲の絶間姫が注連縄を切った芝居をして、竜が滝を駆け上がったのに注連縄が切れなかった。所化たちが花道に登場した時に黒衣が注連縄を切って芝居が停滞しなかったけれど微妙な空気が客席に流れた。

最悪だったのは、鳴神上人が破戒して荒事となって、壇上から所化が宙返りで平舞台に降りるときに、上手側の所化が着地に失敗。鼻を強打したのか所作舞台が血の海に。所化は続けてトンボを返ることができなくて、尻餅をつくような妙な落ち方。鼻にティッシュをつめて演技を続けたが、白い着物には血がべっとり。この怪我をした所化役は岩屋の最上段からトンボを切る大技を担当しているらしく、てっぺんまで上がるには上がったが、さすがにトンボ返りで降りられなくて、普通に足から着地。舞台に穴を開けないプロ根性は見事だが、めでたい襲名の晴れ舞台を血で汚してしまったのはいかがなものか・・・。とうとう怪我をしたらしい所化の役者は引っ込んだまま最後は出てこなかった。たいした怪我ではないことを祈りたいが、所作舞台には血だまりがと残っていて心配『土蜘』では拭き取られていたが、多少の跡が残っていたようだった。

土蜘の凄い顔ぶれ

平成中村座には復帰したものの、都心の劇場である新橋演舞場へは久しぶりに登場の勘三郎が勘九郎の襲名狂言『土蜘』の番卒藤内で復帰。間狂言ながら仁左衛門、吉右衛門という超豪華な顔ぶれで面白い、面白い。勘三郎と吉右衛門の確執?により永らく共演がなかったが、これで雪解けムードとなったのならめでたい話である。

勘九郎は凄味があって、内面に秘めた悪意に満ちたエネルギーを全身から発していて、尋常ならざる雰囲気で満たして、今までみた『土蜘』では最上級のものとなった。勘九郎自身の努力もさることながら、共演者全員の成功させたいという想いが結実した感じ。見応えがあった。おすすめである。

松嶋屋一門の河内山

河内山という江戸っ子の役なのに、仁左衛門、我当、秀太郎ら松嶋屋兄弟が仲良く出演。番頭の松之助まで含めて一門の結束は固い。勘九郎が松江候で仁左衛門と共演するが、舞踊と違って芝居ではまだまだ貫禄の違いは埋まらない。仁左衛門が名調子を聴かせて大向こうは大騒ぎ?だった。

昼の部の終演は16時5分頃、夜の部は3分遅れの16時33分開演でロビーは大混雑だった。夜の部の客席には波野久里子や後援会会長の海部俊樹元首相の姿があった。

吉右衛門と勘三郎の鈴ヶ森

吉右衛門と勘三郎の本格的な共演が実現。勘三郎の前髪のよく似合う白井権八と当代一の吉右衛門の長兵衛はわくわくするような芝居で大興奮もお互いの心の内を思うと少々複雑。二人にどのような心境の変化があったのか・・・。今後も共演があるのかどうか微妙だが、幸四郎とも仲違い?していた吉右衛門が共演者の幅を広げるのは悪いことではない。もう芝翫も富十郎もいないのだから、同年配や後輩と共演するしか道は残されていない。観客を喜ばせる配役が今後も組まれることを祈りたい。本当にこの十年ほどは歌舞伎にとってかけがえのない時間だっただけに大損失で残念である。

襲名口上ダイジェスト

勘九郎の襲名を楽しみにしていた芝翫が存命なら、芝翫が最初に口上を述べただろうが、勘三郎から口上が始まった。

勘三郎は勘九郎の名前の由来などを紹介。初代は初代勘三郎の実子で寛永年間。二代目は六代目勘三郎の隠居名で元禄元年。どちにしろ勘九郎の名前はたいしたことないと言って笑わせる。新しい勘九郎になって欲しいこと、新しい役は吉右衛門、仁左衛門、芝翫、三津五郎らに教わっていること。謙虚さを忘れずに一歩一歩前進して欲しいと親らしい言葉でしめくくった。

我当は芝居に関して熱心な少年だったばかりでなく俳句もたいしたものと紹介。(勘九郎は首をふっていたが)子供の頃の俳句を披露。

雨やみて
庭の銀杏も
嬉しそう

三津五郎は「勘九郎」という名前は明けの明星のように輝いていた名前。七代目の勘九郎?も誕生し、勘三郎もおじいちゃんになった。襲名とは人間の努力によって繋がっていくこと。

弥十郎は勘三郎、三津五郎とは一歳違いで大変仲良しで公私ともにお世話になった。勘九郎とは立ち回りごっこなどをして遊んだ。「この爺!!」と言われても「うるさい勘九郎!」とは呼びにくいと笑わせた。

芝雀は晴の襲名の口上に並べたことの感謝。

秀太郎は50年前に先代勘三郎の『鏡獅子』で胡蝶を踊った思い出。厳しい稽古だったこと。勘九郎の胡蝶をしたかったと笑わせる。

吉右衛門は最も口上らしい型通りのものなのだが・・・。なんとなくアウエイ感が気になる。それは長い間勘三郎と共演していないので、勘九郎の思い出などないので仕方がないが。

仁左衛門は逆に心のこもったもので吉右衛門とは好対照。弟のような勘三郎の息子の襲名が嬉しい。勘三郎の病気が治ったこと。今年93歳の小山三のこと。勘九郎からはウルトラマンのおじさんと呼ばれたことなど、温かい言葉がならんだ。

東蔵は松江と玉太郎が襲名披露狂言に出ている御礼。勘九郎の息子がニコニコしていて、周囲の人をみんな幸せにするオーラがでていることや勘九郎の活躍は勘三郎の病気の良い薬。名前をさらに大きくして欲しい。舞台で親孝行をしてくれている。

扇雀と錦之助は型通りの口上。

橋之助は自分のことのように嬉しい。お岩さまや団七など中村屋の大事な役を次々と演じている。七之助と仲良く芸道に精進して欲しい。弟の七之助もよろしく。

福助は亡くなった芝翫も襲名を楽しみにしていた、泉下で喜んでいてくれると思う。新橋演舞場のどこかで先代勘三郎と芝翫が見守っていてくれるように思う。

七之助は、背景の装置は金子文義が描いてくれたことを紹介。初舞台が一緒の兄とは兄弟仲良く芸道に精進したい。

勘九郎は感謝の言葉しかありません。感謝を忘れず努力精進いたします。勘九郎はあこがれの名前だった。
先代勘三郎や芝翫だけではなく、亡くなったお弟子さん達が見守っていてくれる気がする。

最後は勘三郎が型通りにしめくくってお開きとなった。

勘九郎を可愛がってくれたであろう古いお弟子さんへの思い出の言葉で、亡き四郎五郎、山左衛門になった助五郎、千弥などを思い出し涙があふれた。面白可笑しいだけの口上と違ってとっても良い口上だった。考えてみれば喪に服している時期なので、おめでたいとは言い辛かっただろうなと泣けてきた。

小山三に大拍手の『鏡獅子』

久しぶりの勘九郎の『鏡獅子』には、今年93歳の小山三が出演。老女・飛鳥井の台詞であんなに大喝采になるとは…。小山三の心中を思うと泣けてきた。最後まで元気に務めてくれるよう祈るばかりである。

当代の勘三郎が勘九郎時代は爆発している火山のような燃え上がるような『鏡獅子』だった。勘九郎の『鏡獅子』は同じ火山でも、内にエネルギーを秘めた活火山のようなもの。親父が役者馬鹿なら、子供は少し利口になった感じ。もっと破調があってもよいが、理性が邪魔をしているようで、もっと爆発して欲しかった。まだまだ大人しく踊る歳ではない気がするが、本格を求めているのだなあと思った。

弥生は安定しているものの勘九郎らしい切れが欲しい気がした。毛振りは42回ほどで最後は美しく振れなかった。先月の鷹之資の方が綺麗に振れていたように思う。最後は片足を上げたがぐらついてしまう。

泣けて、泣けて『ぢいさんばあさん』

またかの『ぢいさんばあさん』で期待していなかったが、三津五郎と芝翫を思わせる福助の神妙な演技、橋之助の悪役が上手くて楽しめた。特に老人になってからの三津五郎の表情が絶妙。ただし、「ここは笑うところか?」と思うような笑いたがりの客が多くて閉口。貴方達には心はないのか?

今日は三月平成中村座のゴールド会員の予約の日でもあった。発売と同時に希望の席が買えて満足だが仁左衛門と海老蔵が出るためかチケット代は割高に。そう言えば新橋演舞場も今月は値上げ。筋書も1500円で300円の値上げ。来月は元に戻るようだが。三月に九段目が上演され、四月は福助、染五郎、松緑、亀治郎、菊之助ら若手による仮名手本忠臣蔵の通し上演が決定。
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