義経千本桜 第79回 歌舞伎鑑賞教室 6月国立劇場 [歌舞伎]
初役の可能性
解説の定番は、場内を暗くして緞帳を上げ、回り舞台を回転させながら大迫を昇降させるという演出。今回もそれなのかと思ったら、巳之助の忠信、隼人の静御前で「鳥居前」を忠信の出から、花道を飛び六方で引っ込むまでを演じた。隈取に派手な衣裳、様式的な立ち回りと、いかにも歌舞伎らしい場面をいきなり見せるという意表をついた手法。巳之助の忠信が隈取が良く似合い、花道でも身体がよく動いて意外な公演。隼人は素顔な美少年なのだが、女形の表情は冴えない。
やがて解説役の壱太郎と二人の高校生が花道から登場して場内がどよめく。この高校生を観客の代表にして、歌舞伎音楽に関するクイズなどを出題、床と下座の位置や下手の御簾内などを覗かせたりした。巳之助の忠信が登場して、高校生に見得の稽古。さらに隼人が静御前のままで女形で歩く稽古を同じく披露して、同じく場内をわかせていた。三人が小迫に乗って奈落へ消えると壱太郎が物語のあらすじをスクリーンに映し出される映像をみながら説明。短い時間で観客の興味をひき、物語の鑑賞の手引きとなるような工夫もあって、なかなか上手い。
上方歌舞伎の後継者である翫雀が「四の切」を松竹の歌舞伎の本公演で上演する機会は、全くないこともないだろうが、六代目、松緑と伝わった菊五郎指導の音羽屋で演じた。壱太郎の静御前は、いずれ役が回ってくるかもしれないので、巳之助、隼人といった若い役者に経験を積ませるには好都合の公演なのであろう。
上演台本は、松緑が国立劇場で上演したのと同じく、法眼夫婦の花道の出から。家橘と竹三郎が忠義の心を探る芝居をするというだけで、通常通りの短縮版でもよかったような気もした。初心者の観客にとっては、最初の部分で脱落する恐れがあるからである。
鑑賞教室ならではの実力派である亀鶴の義経で、安定した出来なのはいつもの通りで安心して観ていられる。静御前の壱太郎は20歳という若さでありながら芝居が上手く、若手女形の美しさでは梅枝と双璧かもしれない。巳之助、隼人ともに、様になっているのが好ましい。翫雀の佐藤忠信は、意外にも爽やかな風情があって似合っている。このあたりは、海老蔵や亀治郎あたりの若手とは違って大人の芸が身にしみているからであろう。彼も大学卒業後に再スタートながら、50歳を過ぎて中堅の役者である。時代物の大役も父親同様にいけるのではないだろうか楽しみである。
階段からの登場はゆっくりだったのと、身体の形がよくなかったのか、それほど感嘆の声が上がらなくて気の毒。狐言葉は海老蔵のような不自然さや、亀治郎の猿之助の物真似的な台詞回し、とは違って少々絶叫調。
いささか苦笑したくなるような部分もあったが、初役にして一世一代になってしまいそうなので、貴重な機会なのだと言い聞かせて真剣に舞台に見入った。
ケレンは鮮やかとは言い難い部分もあったが、まずまずの出来で、親子の情愛を告白する台詞も、若手とは違った味があって悪くない。これで身体の切れがあれば万全だが、なかなか上手くいかないものである。それでも翫雀の心根のよさが、そのまま溢れたような部分が自然に伝わってきて面白く見せてくれたが、あまり突っ込んだ芝居で受けを狙わないのが、音羽屋型の価値なのであろう。さらに上演を重ねれば上達する可能性はあるが、関西でならともかく東京では見納めかもしれないのが残念である。
河竹登志夫=監修
解説 歌舞伎のみかた
解説 中 村 壱太郎
佐藤忠信 坂東巳之助
実は源九郎狐
静御前 中村隼人
軍兵 中村翫祐、中村翫哉、市川升一、市川升六
片岡燕治郎、中村獅二郎
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
尾上菊五郎=監修
義経千本桜 (よしつねせんぼんざくら) 一幕
国立劇場美術係=美術
河連法眼館の場
佐藤四郎兵衛忠信 中村翫雀
源九郎狐
源九郎判官義経 中村亀鶴
静御前 中村壱太郎
亀井六郎重清 坂東巳之助
駿河次郎清繁 中村隼人
腰元 坂東玉之助、中村京妙、坂東守若、中村京紫、
坂東玉朗、坂東竹朗、坂東三久太郎
申し次の侍 坂東三津之助、澤村光紀
荒法師 市川升一、市川新次、市川升六
法眼妻飛鳥 坂東竹三郎
河連法眼 市村 家橘
解説の定番は、場内を暗くして緞帳を上げ、回り舞台を回転させながら大迫を昇降させるという演出。今回もそれなのかと思ったら、巳之助の忠信、隼人の静御前で「鳥居前」を忠信の出から、花道を飛び六方で引っ込むまでを演じた。隈取に派手な衣裳、様式的な立ち回りと、いかにも歌舞伎らしい場面をいきなり見せるという意表をついた手法。巳之助の忠信が隈取が良く似合い、花道でも身体がよく動いて意外な公演。隼人は素顔な美少年なのだが、女形の表情は冴えない。
やがて解説役の壱太郎と二人の高校生が花道から登場して場内がどよめく。この高校生を観客の代表にして、歌舞伎音楽に関するクイズなどを出題、床と下座の位置や下手の御簾内などを覗かせたりした。巳之助の忠信が登場して、高校生に見得の稽古。さらに隼人が静御前のままで女形で歩く稽古を同じく披露して、同じく場内をわかせていた。三人が小迫に乗って奈落へ消えると壱太郎が物語のあらすじをスクリーンに映し出される映像をみながら説明。短い時間で観客の興味をひき、物語の鑑賞の手引きとなるような工夫もあって、なかなか上手い。
上方歌舞伎の後継者である翫雀が「四の切」を松竹の歌舞伎の本公演で上演する機会は、全くないこともないだろうが、六代目、松緑と伝わった菊五郎指導の音羽屋で演じた。壱太郎の静御前は、いずれ役が回ってくるかもしれないので、巳之助、隼人といった若い役者に経験を積ませるには好都合の公演なのであろう。
上演台本は、松緑が国立劇場で上演したのと同じく、法眼夫婦の花道の出から。家橘と竹三郎が忠義の心を探る芝居をするというだけで、通常通りの短縮版でもよかったような気もした。初心者の観客にとっては、最初の部分で脱落する恐れがあるからである。
鑑賞教室ならではの実力派である亀鶴の義経で、安定した出来なのはいつもの通りで安心して観ていられる。静御前の壱太郎は20歳という若さでありながら芝居が上手く、若手女形の美しさでは梅枝と双璧かもしれない。巳之助、隼人ともに、様になっているのが好ましい。翫雀の佐藤忠信は、意外にも爽やかな風情があって似合っている。このあたりは、海老蔵や亀治郎あたりの若手とは違って大人の芸が身にしみているからであろう。彼も大学卒業後に再スタートながら、50歳を過ぎて中堅の役者である。時代物の大役も父親同様にいけるのではないだろうか楽しみである。
階段からの登場はゆっくりだったのと、身体の形がよくなかったのか、それほど感嘆の声が上がらなくて気の毒。狐言葉は海老蔵のような不自然さや、亀治郎の猿之助の物真似的な台詞回し、とは違って少々絶叫調。
いささか苦笑したくなるような部分もあったが、初役にして一世一代になってしまいそうなので、貴重な機会なのだと言い聞かせて真剣に舞台に見入った。
ケレンは鮮やかとは言い難い部分もあったが、まずまずの出来で、親子の情愛を告白する台詞も、若手とは違った味があって悪くない。これで身体の切れがあれば万全だが、なかなか上手くいかないものである。それでも翫雀の心根のよさが、そのまま溢れたような部分が自然に伝わってきて面白く見せてくれたが、あまり突っ込んだ芝居で受けを狙わないのが、音羽屋型の価値なのであろう。さらに上演を重ねれば上達する可能性はあるが、関西でならともかく東京では見納めかもしれないのが残念である。
河竹登志夫=監修
解説 歌舞伎のみかた
解説 中 村 壱太郎
佐藤忠信 坂東巳之助
実は源九郎狐
静御前 中村隼人
軍兵 中村翫祐、中村翫哉、市川升一、市川升六
片岡燕治郎、中村獅二郎
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
尾上菊五郎=監修
義経千本桜 (よしつねせんぼんざくら) 一幕
国立劇場美術係=美術
河連法眼館の場
佐藤四郎兵衛忠信 中村翫雀
源九郎狐
源九郎判官義経 中村亀鶴
静御前 中村壱太郎
亀井六郎重清 坂東巳之助
駿河次郎清繁 中村隼人
腰元 坂東玉之助、中村京妙、坂東守若、中村京紫、
坂東玉朗、坂東竹朗、坂東三久太郎
申し次の侍 坂東三津之助、澤村光紀
荒法師 市川升一、市川新次、市川升六
法眼妻飛鳥 坂東竹三郎
河連法眼 市村 家橘
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