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東京バレエ団<ベジャール・ガラ> 「ギリシャの踊り」「ドン・ジョヴァンニ」「ボレロ」 [バレエ]

  一応は欧州ツアー帰朝報告公演となっているが、観客のお目当てはパリ・オペラ座のエトワールであるニコラ・ル・リッシュが日本で初めて踊るベジャールの『ボレロ』であることは、初めの二演目の反応に比べ、『ボレロ』への賞賛が100倍くらい違っていたことからもわかる。

 そのニコラ・ル・リッシュの『ボレロ』を一言で表現するとすると、なんとも明るい『ボレロ』なのである。ベジャールの美を体現しながら晩年は惨めに生涯を終えることとなったジョルジュ・ドン。両性具有的で病的ともいえ、観る者に哀しさを背負いつつもバレエへの情熱を感じさせて希有な存在だった。呪術的な炎のような『ボレロ』である。
 
 それに対してシルヴィ・ギエムも、女性的な美しさよりもダンサーとしての美しさを追い求め肉体を酷使してきたことによる研ぎ澄まされ、これまた哀しさにあふれたものだった。人間的な熱い血がたぎるというよりも、どこか冷たさを感じさせるのも孤高のダンサーにふさわしいものだった。

 そしてニコラ・ル・リッシュの『ボレロ』には官能的な美しさ、妖気といったものはなく、赤い円形の台上で踊る姿は健康な男性的なバレエで、どこか体育会系なたくましさを感じた。リズムを取りながら上下する動きの大きさも今で観た誰よりも振幅が大きかったし、広げた手の大きさも、跳躍も、柔らかい身体のしなりも、正確でベジャールの望んだ通りを再現しているかのようだった。

 完全無欠なダンスならば感動できるというほど話は実は簡単ではない。観客が共感できる「痛み」を自身の中からえぐりだせなければ、永遠に残る感動には至らないのである。ドンが最後にガラ公演で踊った『ボレロ』にはそれがあったし、ギエムが初めて日本で踊った『ボレロ』の感動を超えるバレエ作品にであったことがない。どちらにも自身をさらけだす「痛み」があった。

 ドンはダンサーとしての終焉、ベジャールとの決別、そして自分の人生の終わりの近いことを予感していたのではないかと思えるほど魂のこもったものだった。ギエムには封印されていた『ボレロ』を初めて踊ることへの決意といったものが漲っていて、しかも観客の期待を大きく上回る世界へ連れて行ってくれたのである。

 さて、ニコラ・ル・リッシュの『ボレロ』にそこまで追いつめられたものがあっただろうか。確かに端正に踊られていて文句のつけようもないのだが、前任者?と比べられるのが宿命とはいえ、一生懸命踊りましたというレベルでは満足できないのである。観客はスタンディング・オベーションで賞賛を送っていたが、手放しでは喜べないオリのようなものが心の奥底に沈んでいたことを忘れたくないと思う。

 『ギリシャの踊り』は、残念ながら、あまり楽しめた作品ではない。特に前半の低調さは作品の良さを十分に伝えていなかったし、観客の集中力を切らせてしまいような場面がいくつもあったように思う。それを救ったのは、後半のソロを踊った後藤晴雄で目を見張らせるようなバレエで大いに盛り上げた。実は売れない女形みたいなマスクで好きなダンサーではないのだが、多少スタミナぎれになったところもないわけではないが、観客の視線を一身に集めて堂々のソロを披露し感心させられた。

 女性ダンサーのみによって踊られる『ドン・ジョヴァンニ』は、もちろんモーツァルトのオペラが下敷きになっているのだが、ドン・ジョヴァンニは登場せずに憧れを持つ女性だけが登場という皮肉な内容。さすがに手法は古くささを感じさせるものの、とかくゲストも含めて男性ダンサーの活躍に話題が集中しがちなバレエ団のなかにあって、個性的なソロをまかされる力量を持った女性ダンサーを何人も発見したのは収穫。テクニックもさることながら、表現力、演技力もあり、何かを伝えようという積極性にあふれていたのに大いに共感。プロポ-ションの美しさも特筆したい。

2010年欧州ツアー帰朝報告公演
東京バレエ団<ベジャール・ガラ> 
「ギリシャの踊り」「ドン・ジョヴァンニ」「ボレロ」

振付:モーリス・ベジャール


◆主な配役◆

「ギリシャの踊り」 音楽:ミキス・テオドラキス

I.イントロダクション 
II.パ・ド・ドゥ(二人の若者):長瀬直義-宮本祐宜
III.娘たちの踊り 
IV.若者の踊り 
V.パ・ド・ドゥ:高村順子-平野玲
VI.ハサピコ:吉岡美佳-木村和夫
VII.テーマとヴァリエーション 
ソロ:後藤晴雄
パ・ド・セット: 西村真由美、乾友子、佐伯知香、奈良春夏、森志織、吉川留衣、河合眞里
VIII.フィナーレ: 全員



「ドン・ジョヴァンニ」 音楽:フレデリック・ショパン (モーツァルトの主題による)

ヴァリエーション 1:森志織、村上美香、岸本夏未
ヴァリエーション 2:佐伯知香
ヴァリエーション 3:井脇幸江、高村順子
ヴァリエーション 4:西村真由美
ヴァリエーション 5:奈良春夏
ヴァリエーション 6:小出領子
シルフィード:吉川留衣



「ボレロ」 音楽:モーリス・ラヴェル

ニコラ・ル・リッシュ

平野玲、松下裕次、長瀬直義、宮本祐宜

※音楽は特別録音によるテープを使用します。


◆上演時間◆

「ギリシャの踊り」 15:00 - 15:40
【休憩】 15分
「ドン・ジョヴァンニ」 15:55 - 16:15
【休憩】 15分
「ボレロ」 16:30 - 16:50

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