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勧進帳のコツ? [エッセイ]2010-01-14 [エッセイ アーカイブス]

 ある歌舞伎通の書物に曰く、味わいの深い弁慶とそうでない弁慶を、簡単に見分けるコツは、去り行く弁慶の姿の中に、情けある関守への感謝の心が読みとれるかいなかなのだとか。この芝居の神髄は、小手先の延年の舞や、飛び六法などではない。関守への感謝の有無が芸の厚みをきめるのであるとも書いてあった。

 その尺度で、このところ歌舞伎座で上演された三人の弁慶をふりかえってみると、小手先の技に走りすぎなのは幸四郎。感謝の心が読み取れる芸の厚みでは断然吉右衛門であろうか。團十郎の弁慶は、愚直なまでの不器用さで特殊な弁慶といってもいい。

 それでも彼の弁慶が最も優れているのは、花道を飛び六法で去る姿に、死に向かう覚悟が伺えることである。なるほど、義経も四天王も、そして弁慶にも悲劇的な死が待っているのだった。花道は単なる退場のための通路ではないのである。そうした哀愁が感じられるのが團十郎の弁慶で「男だなあ、武士だなあ」と感心させられる。誰かのように自己陶酔して客席に向かって思い入れたっぷりの礼をしたりしないのがよい。ましてカーテンコールで、花道から再登場などという言語同断な愚かな行為が今のところないのもよい。

 今月は昼の部の前半を見逃したので、もう一度観る予定なのだが、弁慶役者が三人も登場して、それぞれの演目に主演しているのも面白い。石切梶原も三人とも経験済みの役なので、それも含めて日替わりで主役交代などをすれば、見比べに観客がつめかけて大盛況だと思うのだが、そこまで思い切った企画を立案する人はいなかったようである。誰が一番人気なのか一目瞭然となって面白いと思うのだが、昔はあった弁慶・富樫プラス梶原のトリプル・キャスト公演なんて企画してくれればよかったのに。

2010-01-14 23:52
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