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11月1日の劇場の天使~歌舞伎座初日雑感~ [エッセイ]2009-11-02 [エッセイ アーカイブス]


歌舞伎座での最後の顔見世興行は『仮名手本忠臣蔵』の通し上演である。幸四郎の四段目の大星、七段目の平右衛門。仁左衛門の石堂、七段目と十一段目の大星。富十郎の師直、芝翫のお才。梅玉の若狭、定九郎、服部、魁春の顔世、孝太郎の四段目の力弥。菊五郎の勘平、勘三郎の判官。お軽は道行と五段目、六段目が時蔵。七段目が福助である。

 かつてポスト玉三郎として、昭和58年12月の歌舞伎座でお軽を競演した時蔵と福助ではあるが、やはりここは、歌舞伎座の最後のお軽として玉三郎に登場して欲しかったというのが正直な気持ちである。また、このところ絶好調の吉右衛門が四段目の大星、七段目の平右衛門を演じてくれれば、もっと盛り上がったかもしれないとも思った。

 昼の部、夜の部を初日に通して観たのだが、感想は後日にして、初日の雑感を少々。新型インフルエンザ対策なのか、歌舞伎座のロビーにマイナスイオンの発生器?が何箇所にも置かれていた。空気中のウイルスや花粉などを除去する効果があるらしいが、果たして広いロビーを数台の機械でカバーできるかどうかは疑問である。それでも休憩時間は、その機械の前をウロウロしていたし、幕間ごとに化粧室へ手を洗いに行き消毒液を手のひらにすり込んでいた。客席には、けっこう咳き込んでいる人もいたので、用心にこしたことはないかもしれない。

 初日ゆえに舞台上ではいろいろの失敗があったように思う。まず大序では、富十郎の師直が顔世に文を渡すときに扇を落としたこと。これは大きな傷ではないし、何事もなく舞台は進行して行った。心配された膝の疾患も階段の登り降りにも支障がなかったようで安心。ここでは梅玉の若狭之助が上出来だった。

 大序と三段目は短い休憩をはさんで続けて上演された。三段目はさすがに膝をかばってか、かつての松緑のように蔓桶に腰掛て若狭と応対。判官とはさすがに座っていては芝居にならないので、正座を巧みに避ける方法で乗り切っていた。初めて判官の前に進み出るときに、前のめりになって手をついてしまったのでハッとさせられたが、大きな事故にならずにすんで安心した。判官の刃傷になって、勘三郎の判官が本蔵の顔を見るのと、本蔵が顔を出すタイミングがずれてしまったので、判官が本蔵を見ないまま幕になってしまった。ここでは橘太郎の伴内が身の軽いところをみせて素晴らしい。

 四段目は判官の切腹になって諸士が飛び出して平服したのはいいが、上手側に余裕がありすぎて、下手側の諸士の一人が納まりがつかなくなり、前後になってしまった。基本的な心得の問題だと思うが、歌舞伎の様式美を破壊して最悪。

 道行では定式幕が通常通りに上手に引かれたので、幕切れはどうするのかと興味津々でいたところ、團蔵の伴内が花四天が肩を組んだ上に乗って刀を望遠鏡のようにして、花道の勘平とお軽を見る演出だったのだが、花四天に乗り損ねて中途半端な位置でしがみついて、なんとか落下を免れるというお粗末。さすがに菊五郎の勘平も苦笑いするしかなかった。

 五段目と六段目では猪が二度ほど転んだり、定九郎の刀が一度で鞘に納まらなかったりしたが、大きな失敗はなかったような気がする。七段目では、仁左衛門の大星が平右衛門の願書を扇で床に落とせずに起き上がってしまったりという大失態。これで緊張の糸が切れたのか、終始緩んだ舞台になってしまって感心しなかった。上演時間の関係なのか仲居たちの見立てはカットされてしまって、なぜ舞台に大勢が並んだのか意味がなくなってしまい華やかさに欠けた。

 十一段目の最後は「両国引き揚の場」だったはずなのに、単なる「引き揚の場」に変更されていた。筋書やチラシは両国橋で、大間の看板は「引き揚の場」に変わっていた。ロビーを探したら一箇所だけポスターの表示が・・・。四段目の「通さん場」の注意書きとは大違いである。

 十一段目は炭小屋まではいつもの通りで、浅黄幕が降りての舞台転換。少々長めの転換で、幕が落とされると両国橋ならぬ花水橋。確かに仮名手本忠臣蔵の世界としては正解なのだが、そんなにこだる理由もないような気がした。舞台一杯に花水橋が作られていて、舞台奥から大星らが行進?してくるという演出。一同が舞台上手に移動しようとすると、花道から馬に乗った梅玉の服部が来て別の道をすすめるという展開。そして一同が花道を去って、馬上から梅玉が独り見送って幕になった。終演予定時間は9時6分だったが、珍しく5分ほど早く終わる。大掛かりな舞台転換があったにもかかわらず、終演時間が早まったなら、カットした場面は復活しないものだろうか。少々残念な気もした。せっかくなら最後の引き揚の場の平右衛門にも幸四郎が出て欲しかったが、さすがにそれは難しかったようである。カーテンコールが好きな幸四郎なはずなのに…。

2009-11-02 00:10
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