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愛の妙薬 藤原歌劇団創立75周年記念公演 東京文化会館 [オペラ]2009-06-15 [オペラ アーカイブス]

 東京文化会館での「愛の妙薬」といえば、メトロポリタン歌劇場の来日公演でのパヴァロッティとバトルが共演した公演が懐かしく思い出される。開幕前にオペラカーテン越しにパヴァロティの発声練習が聞こえてきたりした。その前にニューヨークでも同じプロダクションを観ていてなんとも楽しい演出の舞台だったのを覚えている。

 さて二期会に比べると伝統的な演出を好むという印象の藤原歌劇団だが、今回のマルコ・ガンディーニの演出は舞台を現代の高級ショッピングモールという凝ったものだった。「MOOR」というのが屋号らしく、実在の高級ブランドのネーミングとロゴデザインを真似ている。商標の権利上は大いに問題ありだと思う。「Drior」は誰がなんといっても「Dior」でロゴもそっくり。もっとも高級なイメージよりもアメ横あたりの路上で売っていそうなニセ物っぽいのが笑える。

 実際の舞台もニセ物感が漂って感心しなかった。日本人観光客の多い海外のショッピングモールという設定でもよかったハズなのに、どうやら日本が舞台のようで、日本の女子高校生やアキバにいそうなオタク系な怪しすぎる青年などが入れ替わり立ち替わり登場したりする。ところがベルコーレのエリート士官学校生だけは、伝統的な衣裳のイメージでチグハグ。自衛隊の制服にすればよかったのに…。黄色のスカートにスカーフを首に巻いた販売員が、店舗スペースに入るときに一礼するなど細かい芸をみせるかと思えば、お客そっちのけで販売員が椅子に座ってしまったりと日本の店舗では絶対にありえない光景があられたりと矛盾だらけだった。

 舞台の上の出来事は嘘っぱちばかるとはいえ、もう少し本当らしくないとしらけてしまう。終始舞台上をういろいろな人が行きかうので目障りだし、音楽になかなか集中できないのは困った。ネモリーノもアディーナもショッピングモールの販売員で、ドゥルカマーラが実演販売のセールスマンというのもアイディアではあるが、このオペラにふさわしいものだったかどうかは大いに疑問である。最終的に「愛の妙薬」という大型のバナーが舞台中央に掲げられ、新しいブランドが立ち上げられ、それを買い求めようとする人々が大行列をつくるという、今の日本らしい風景が出現して日本批評としては悪くないアイディアだが、肝心のネモリーノとアディーナが埋没してしまって散漫な印象になってしまい成功とは言いがたい出来だった。
 
 音楽的には、園田隆一郎の指揮はインパクトに欠け、なかなか音楽に気持ちよく身をまかせられないのがもどかしかった。それでも後半には盛り上がりをみせていたのが救いだった。それは歌手陣にもいえて、ネモリーノの中鉢は余裕のない固い発声で最後まで歌い続けることができるのかどうか心配になったほどである。ところが後半の「人知れぬ涙」では別人のような歌唱を聞かせて意地をみせた。さすが演奏会などで何度も歌っているからだろうが、表現力においても他の部分とまったく違った安定感があった。その調子で、他の部分も歌ってくれれば文句ないのに、満足できない部分が多すぎた。背が低いけれども、イケメンなオペラ歌手として売り出しにやっきなのだろうなと思った。
 
 アディーナの川越 塔子もやはり最初は低調で潤いのない声で楽しめない歌唱だった。しかもスカーフを巻く位置が違うだけで、他の販売員と同じ制服なので引き立たなくて合唱団員の中に埋もれてしまった感じがした。中鉢同様に後半は安定してきたが、低調なスタートが悔やまれるできだった。他の役も個性的というよりも安全運転といった感じで、あまり魅力を感じない歌手陣で物足りなかった。

 アイディア倒れに終わった演出。盛り上がらない演奏。安定感を欠く歌唱と、なかなかよい点がみつけられないのだが、敢えて言えば上演時間が長くなく2時間半で終わったことである。隣の小ホールで続けて演奏会を聴く予定だったので、食事をしてからでも十分に開演に間に合ったのは何よりだった。これからの公演予定を観ると秋の公演は記念コンサートしかなく、来春はプーランク作曲の「カルメル会修道女の対話」を上演だということだ。楽しみである。さらに来年の6月にはロッシーニの「タンクレーディ」というのも聞き逃せない。

2009年6月14日 15時開演 東京文化会館

アディーナ:川越 塔子
ネモリーノ:中鉢 聡
ベルコーレ:森口 賢二
ドゥルカマーラ:党 主税
ジャンネッタ:宮本 彩音

合唱:藤原歌劇団合唱部

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

指揮:園田隆一郎

演出:マルコ・ガンディーニ

2009-06-15 23:37
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