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楽劇「ニーベルングの指環」第1日 ワルキューレ 新国立劇場 [オペラ]2009-04-13 [オペラ アーカイブス]

2009年4月6日(月)・12日(日) 新国立劇場
指 揮】ダン・エッティンガー

《初演スタッフ》
  【演 出】キース・ウォーナー
  【装置・衣裳】デヴィッド・フィールディング
  【照 明】ヴォルフガング・ゲッベル

【ジークムント】エンドリック・ヴォトリッヒ
【フンディング】クルト・リドル
【ジークリンデ】マルティーナ・セラフィン
【ヴォータン】ユッカ・ラジライネン
【ブリュンヒルデ】ユディット・ネーメット
【フリッカ】エレナ・ツィトコーワ
【ゲルヒルデ】高橋知子
【オルトリンデ】増田のり子
【ワルトラウテ】大林智子
【シュヴェルトライテ】三輪陽子
【ヘルムヴィーゲ】平井香織
【ジークルーネ】増田弥生
【グリムゲルデ】清水華澄
【ロスヴァイセ】山下牧子

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

 一度だけ観る予定だったのに、あまりに素晴らしい上演だったので2回目は当日券にトライ。運良くチケットを入手できて、再び深い感動を味わうことができたのは何よりだった。まず歌手陣が見事な歌唱を披露してくれたのと初演を上回るような演劇的にも完成度の高い舞台をみせてくれたので大きな満足を味わうこととなった。
 
 歌手ではなんといってもジークリンデを歌ったマルティーナ・セラフィンが、歌唱・演技・存在感とも完璧で高得点。次にフンディングを歌ったクルト・リドルは発声に多少問題があっても、その存在感と説得力のある歌唱に深い感銘を受ける。第2幕では、それほどと思わなかったブリュンヒルデのユディット・ネーメットとヴォータンのユッカ・ラジライネンが、特に12日は第3幕が入魂の歌唱と演技で感動させてくれた。

 フリッカのエレナ・ツィトコーワの歌唱は立派だったが、声質が趣味にあわないのと舞台映えが案外しなかったのが残念。ジークムントのエンドリック・ヴォトリッヒは、よくは歌っていたのだが、絶好調の女声陣と比較すると物足りなさが残る。ダン・エッティンガーの指揮が、テンポや音量など第2幕までと第3幕では全く違って聞こえたのは、主にヴォトリッヒのサポートに動いていたからではないだろうか。ゆったりとしたテンポだったが容認できないほどではなかったと思う。

 キース・ウォーナーの原演出は新国立劇場の舞台機構を存分に使った大掛かりな物である。初演時にも感じたが、歌舞伎と同じ手法がいろいろなところに発見できて興味深かった。歌舞伎ではデフォルメされた強大な小道具が出てきたりする。毛抜であったり、斧であったり、人間の大きさは変わらないので、装置を大きくして人間を小さくみせようとしたり、逆に人間を大きく見せようとしたり…。この舞台も巨大なテーブルや椅子、木馬などが登場したりする。奧の壁が飛んで背景の世界が広がったり、ジークリンデとジークムントが飛び降りたり、床下から槍が出現したりと第1幕の仕掛けは、かなり楽しめた。

  大傑作だと思ったのは、第3幕の「ワルキューレの騎行」の場面。スモークが焚かれた白い装置に死体を乗せたストレッチャーが浮かび上がり、救急救命センターだということが徐々にわかるという美しい舞台。ストレッチャーを馬に見立てて、ワルキューレたちが縦横無尽に動き回りながら歌い続けるのは見事だった。

 さらに装置が奥に引かれると、ヴォータンが投げた槍が白い床をすべって舞台奥のワルキューレ達に向かっていって止まったのは見事な演出だった。床から巨大な木馬が迫上がり、さらに舞台転換をしてベッドにブリュンヒルデが横たわる場面へ続くのも、よく考えられた演出だったと思う。それに比べると第2幕は凡庸な演出で、だいぶ落ちる感じである。さらに演奏も歌唱も停滞気味で退屈。フンディングとその一味の死に方が見事だったのに感心した程度。第2幕には、天井から赤い槍が3本下りてきて、舞台床面に描かれた地図と槍に書かれた文字が連関しているというのは、幕間のオペラ好きに格好の話題を提供した形だが、その意図しているところは案外浅いように思えた。

 演出の意図を読み解く鍵は登場人物の視線の交錯にあると思った。第1幕で毒薬を飲んで自殺を企てたジークリンデがジークムントを一目見ただけで恋におちるくだり。舞台下手に置かれた等身大の結婚写真のフンディングの姿に視線を送る二人など、フンディング本人がいなくても、三人の関係を描き出して見事だった。そして二人の肉体関係を暗示させる工夫もあって上手いと思った。

 第2幕でも視線の交錯はあるのだが、全体的に演出が未整理といった感じで、登場人物の考えがハッキリ伝わってこないのである。愛情よりも対立を描く場面であったので仕方がないのかもしれないが…。

 第3幕は、ヴォータンとブリュンヒルデの視線の交わり方が説明的ではあるが、音楽の充実ぶりとの相乗効果もあって屈指の名舞台になったように思う。あまりに人間の感情に素直な解釈でワーグナーとしては物足りなく感じる人もいるとは思うが、永遠の別れを歌い演じる二人に涙がとめどもなく流れて困ったほどである。

 来年の「ジークフリート」と「神々の黄昏」の上演が待たれるが、やはり4演目のチクルス上演でなければ理解できないこともあるのではないかと思う。物理的に無理なようだが、いつの日にか実現して欲しいと思う。

2009-04-13 23:33
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