ラ・バヤデール 東京バレエ団 [バレエ]2009-09-25 [バレエ アーカイブス]
東京バレエ団がナタリア・マカロワを招き、ミラノ・スカラ座の衣裳と舞台装置を借りて、『ラ・バヤデール』を上演するというので仕事を休んで上京した。ミラノ・スカラ座のオペラの来日公演のタイミングにあわせて初上演とは、さては運送賃を節約したか、レンタル料はお友達価格?などと下世話な想像をしてしまった。ABT、英国ロイヤルオペラ、ミラノ・スカラ座と一流の歌劇場で取り上げられているナタリア・マカロワの改訂演出版の日本の団体によって初めて上演された。もちろん新国立劇場でも上演されているが、やはりナタリア・マカロワ版の簡潔でありながら、登場人物の気持ちが素直に伝わってくるのが心地よい。
天使の初『ラ・バヤデール』は、英国ロイヤルバレエの来日公演で、あの熊川哲也がブロンズ・アイドルを踊り、客席を大興奮させた時である。あの時はNHKのニュースにも登場したりして、大きく報道されたものである。確か初日を観たはずなのだが、誰が主演したかまったく記憶がないが、熊川哲也の強烈な印象だけが残っている。それから20年近くが経って、場所も同じ東京文化会館で東京バレエ団が『ラ・バヤデール』を上演する日がくるとは思わなかった。
その舞台成果は、さすがに5月からアシスタントによる稽古を一ヶ月積み、さらに世界バレエフェスティバル後、演出・振付を担当したナタリア・マカロワによる直接指導を受けただけあって、完成度の高い、見応えのある舞台に仕上がっていたのは何よりだった。それも外国からゲストダンサーを招かずに、東京バレエ団のプリンシパルだけで上演を成し遂げた意義は大きい。新演出の初日だけに、緊張感からか、固さや失敗はあっても、大きな瑕にならずにすんだのは幸いだった。
特に第2幕のいわゆる「影の王国」の完成度の高さは、ひとえにたゆまぬ努力と研鑽を惜しまなかったに違いないコールド・バレエの一糸乱れぬ美しい動きと、ニキヤを踊った上野水香の情感あふれる見事な踊りの力による。愛する者を失った悲しみ、辛さなど、さまざまな感情を静かに観客に伝える演技は、マカロワの直接の指導による賜物だろうと思う。とかくテクニックなど目に見える部分に観客の興味も移りがちだが、バレエの持つ力は、言葉を使わずに、音楽と身体表現だけで感情を表すのだということを思い起こさせてくれた。それだけ上野水香には、観客に伝えるべき“何か”があり、それを的確に伝える力をもっていたのである。
それは第3幕のニキヤの登場時にもいえて、人間ではない“神性”を備えた者として出現した。第1幕では人間、第2幕では幻想の中に現れる理想の姿、第3幕では、この世の者ではない存在と、踊り分けたのである。それは腕から手先にかけての動きに表現されていて、それぞれ異なる動きをさせていたことに気がついて感動させられた。
対するソロルは、東京バレエ団の副芸術監督でもある高岸直樹である。年齢的には負担の大きい役であるはずで、過酷な要求がされたものと思われるが、見事にこたえていたことと、好サポートでガムザッディの奈良春夏をも、よく支えていた。残念なのはダンサーとしての“華”がないのが辛い。若さも足りなくて、大技の連続ではスタミナ不足かなとも思わせた。かつてはバレエ界きってのイケメンダンサーだったかれも、年齢を重ねて、ルックスの劣化が激しく、オヤジ度が上がってしまったことと、ダイエットしすぎなのか、稽古しすぎなのか、全体に骨ばってしまって見ているのが辛くなる瞬間が何度もあったことである。ここは、彼や木村和夫、後藤春雄につづく男性プリンシパルの誕生を期待したいところである。
かつて熊川哲也も踊ったブロンズ像は松下祐次が踊った。爆発的なパワーや驚くべき跳躍力こそないが、若手の登竜門としての大役を見事に果たし、東京バレエ団の男性ダンサーの心意気をみせたというかんじである。実に爽快で清潔な踊りだと思った。カーテンコールでの、他のダンサーに金粉?をつけてshまわないように手を繋がないなど、ステージマナーも好印象だった。
主役三人のうち、ガムザッディを踊った奈良春夏は、斉藤、吉岡、上野に続く女性ダンサーなのだと思う。しかしながら好不調の違いがはっきり現われたようで、特に第1場の第2場では、他の場面と違って自分だけで踊る部分に情熱的なものが一切感じられずに平凡な出来に終始してしまったのは、初日の緊張感を差し引いても容認できないレベルだったと思う。それ以外の場面は健闘していただけに惜しい。
ミラノ・スカラ座からレンタルされた舞台美術と衣裳は、いかにも使い込まれたもののようで、日本でよくありがちな、さっき出来たばかりです感がなく色彩に落ち着きがあって好印象。ベンジャミン・ポープ指揮の東京シティフィルハーモニック管弦楽団は、最初は金管がブホブホ咆哮して心配されたが、大きな失敗もなく過もなく不可もなしといったところだった。
カーテンコールには、予想通りにナタリア・マカロワがアシスタントのオルガ・エヴレイエフとともに登場。芸術監督の飯田宗孝から、それぞれ赤とピンクの花束が贈られた。40年ぶりの来日で、実際に踊る姿を見る機会はついになかったが、伝説のバレリーナの姿を見られて感激。
帰りの電車では、会場で発売されていたダンスマガジンの最新号の「世界バレエフェスティバル」を読みふける。お隣にすわった外国人の女性は、なにやらコンサートのプログラムを読んでいた。ちょっとのぞくとサントリーホールでウィーンフィルを聴いてきたらしかった。伝説のタダンサーと世界一のオーケストラが同じ日に東京にいるというのも面白く思った。
東京バレエ団創立45周年記念公演VII
東京バレエ団初演
マカロワ版「ラ・バヤデール」(全3幕)
振付・演出:ナタリア・マカロワ(マリウス・プティパ版による)
振付指導:オルガ・エヴレイノフ
装置:ピエール・ルイジ・サマリターニ
衣裳:ヨランダ・ソナベント
◆主な配役◆
ニキヤ(神殿の舞姫):上野水香
ソロル(戦士):高岸直樹
ガムザッティ(ラジャの娘): 奈良春夏
ハイ・ブラーミン(大僧正): 後藤晴雄
ラジャ(国王):木村和夫
マグダヴェーヤ(苦行僧の長):横内国弘
アヤ(ガムザッティの召使):松浦真理絵
ソロルの友人:柄本弾
ブロンズ像:松下裕次
【第1幕】
侍女たちの踊り(ジャンベの踊り):矢島まい、川島麻実子
パ・ダクシオン:
高村順子、佐伯知香、岸本夏未、阪井麻美
西村真由美、乾友子、高木綾、渡辺理恵
柄本武尊、柄本弾
【第2幕】
影の王国(ヴァリエーション1):田中結子
影の王国(ヴァリエーション2):佐伯知香
影の王国(ヴァリエーション3):高木綾
指揮: ベンジャミン・ポープ
演奏: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽
◆上演時間◆
【第1幕】 18:30 ~ 19:35
休憩 20分
【第2幕】 19:55 ~ 20:35
休憩 20分
【第3幕】 20:55 ~ 21:15
2009-09-25 23:36
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