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第12回世界バレエフェスティバル 特別プロ <オマージュ・ア・ベジャール> [バレエ]2009-08-18 [バレエ アーカイブス]

 第12回世界バレエフェスティバルも特別プロの「オマージュ・ア・ベジャール」と名づけられた公演で終了である。もっとも特別プロとはいうものの実質は東京バレエ団の創立45周年記念公演の一環なのだともいえる。日本のバレエ団で、ベジャールの振付作品を唯一上演できる団体であり、「ザ・カブキ」「M」などオリジナル作品を世界初演した縁もあって、ジル・ロマン、エリザベット・ロス、マニュエル・ルグリ、ローラン・イレールらのゲストを迎えベジャール作品を集中的に上演してくれたのは嬉しい出来事である。

 前半と後半に分かれたプログラムになっていて、前半は「ルーミー」「鳥」など、東京バレエ団初演の作品を含んだベジャール作品のアンソロジー集といった趣で、ベジャール自身もたびたび過去の作品を集めてひとつの作品にする手法を使っていたが、今回はジル・ロマンがすべての舞台を支配し、采配するという形式で上演された。

 幕が上がると、シャンソンが流れる中、舞台中央に男が横たわっている。ジル・ロマン自身なのだともいえるし、またベジャールが彼の身体を借りて蘇ったのだと思えないこともない。彼は下手に設けられた黒い箱に腰かけて舞台を注視することで舞台が進んでいくことになる。

 最初の作品は「ルーミー」で、モーリス・ベジャール・バレエ団によって日本初演されているのだが、今回東京バレエ団のレパートリーとなるく初上演された。白いスカートのような衣裳をひるがえしてのジャンプや回転は、一糸乱れぬ見事さで美しかった。男性ダンサーが活躍する場面が多いのはベジャールのバレエ作品の特徴だったりするが、美青年が集められた?モーリス・ベジャール・バレエ団に負けず劣らず、東京バレエ団も美しいダンサーが集められているようには思えた。もう少し同性愛というか少年愛的な香りが立ちのぼってくれば完璧であろう。

 つづいては「ザ・カブキ」から由良之助のソロである。もう23年前になる日本初演以来、久しぶりに観る「ザ・カブキ」となった。仇討ちの決行を誓う大事な場面らしい。初演のときはエリック・ヴ=アンの由良之助で観ているのだが、困ったことにあまり記憶にない。歌舞伎ファンから観ても、バレエファンから観ても、かなり微妙な作品だったように思う。果たして後生大事にレパートリーとして持っている価値があるのかどうか…。黛俊郎の音楽は不思議にあっているように思え新鮮に響いた。

 後藤晴雄の由良之助からは、このバレエに最も必要とされるはずの情熱はあまり感じられず、なんとか最後まで踊り通してくれと祈るような気持だった。早くからベジャール作品の重要な作品に起用されているベジャールのお気に入り?のダンサーだったようだが、兄弟で踊っていて後藤和雄というダンサーもいたはずだが、最近は見かけないがどうしてしまったのだろう?

 ルーミに出演していたダンサーも衣裳を変えずにそのまま出演していて、全速力で疾走していくようなスピード感があり、前の作品のつながりとしては効果的だったと思う。

 ベジャールの晩年の大傑作「バレエ・フォー・ライフ」から、最も成功していたパートである「ボーン・トゥ・ラブ・ユー」がエリザベット・ロスによって踊られた。「ボーン・トゥ・ラブ・ユー」は、日本でCMに起用され人気が再燃する前に作品に使われたので、ベジャールには先見の明があったということだろうか。

 ロスが素晴らしいのは、作品への愛着、敬愛の念、直接ベジャールから指導を受けた誇り、それを守っていく責任といったものが感じられ、ダンス全体から情熱が満ちあふれていたことである。短かったけど観客には強烈な印象を残したに違いない。ベールを剥ぎ取るという演技でジル・ロマンも参加していて、ベジャール自身も愛着のあった作品に華を添えた。

 「鳥」は椅子を持った黒い衣裳の女性ダンサーと男性ソロで踊られる作品で、1982年の来日公演「エロス・タナトス」がテレビ放送されたのを観ている。懐かしやパトリス・トゥーロンが踊っていたそうな。今日の男性ソロは高岸直樹がのびのびと踊っていて、歳を感じさせなかったのはお手柄だった。デビュー当時は、ジャニーズ系?といわれた彼も芸術監督補で貫禄がでてきたということだろうか。

 そしてジル・ロマンが上半身裸で椅子を持って登場。舞台中央に置くと、マーラーの交響曲第五番第4楽章「アダージェット」が流れはじめた。以前なら曲が始まっただけで涙がポロポロと条件反射のようにこぼれ嗚咽をこらえきれなかったものだが、こちらに過剰な思い入れがなくなったからか、それともベジャールの不在が響いたのか、なかなか作品の中に入っていけなかった。これが最後の「アダージェット」になるかもしれないのに、どうしてしまったのか?

 音楽が高まり、最後の盛り上がりをみせると、涙がひと筋流れたと思うと、後は…。涙があとからあとから止まらなくなった。さすがにこのままではロビーにも出られないので、化粧室に飛び込んで後はロビーで放心状態のまま過ごした。ベジャールのバレエは、物語性の強いモダンな作品だけれども、舞台上で繰り広げられるドラマをいかようにも解釈できる部分があって、これまでは自分に引き寄せて観ていたのだと思う。最愛の彼、その彼と食事をしていて偶然に出会ったベジャール。今回は、そんな思い出が一気に渦巻いて押し寄せたような気がした。

 たぶん生涯最後のジル・ロマンの「アダージェット」は、忘れられない思い出を残して終わった。切なさよりも爽やかな気分だったのは、バレエはダンサーと観客が同じ時間を共有しなければ何も生まれないのを悟ったからだと思う。一期一会というのは、再現が不可能な舞台芸術には常についてくる言葉だけれど、生きている舞台をこそ愛し続けたいと強く思った。

 休憩の後は、ジル・ロマンは登場しなくてベジャールの名作選という趣である。最初はベジャールから2000年に贈られたという「バクチⅢ」である。今から40年も前に世界初演された作品であるという。確かに従来のバレエの概念からは遠い作品で、いささか刺激的なポーズがくり返され、初演当時はかなり衝撃的で革新的な作品であったと思われた。木村和夫と吉岡美佳のペアは、技巧的にも表現においても高度な要求をされたであろう振付をよくこなしていたように思った。


 そしてマーラーの歌曲「さすらう若者の歌」にあわせて男性2名によって踊られる。ヌレエフが初演したものだが、ヌレエフがパリ・オペラ座で活躍した最後の時期にエトワールに昇進した二人が、キャリアの最後に踊ることになったのは興味深い。ともに一時代を築いたダンサーだけに表現力は申し分なく、この作品を二人で踊るのも最後なのだと思うと感慨深いものがあった。

 「アダージェット」と同じく過剰な思い入れで感動するよりも、作品の持つ力に魅せられたように感じた。だから手応えは十分で、感動は表層的なものではなく、終演後もいつまでも心に残る深いものとなった。イレールがルグリに手を引かれ、舞台奧へ歩き出しながら振り返った顔のなんともいえない表情が忘れられない。何を訴えていたのだろうか…。しばらく答えは出せそうもない。

 「ボレロ」はジョルジュ・ドンとシルヴィ・ギエムでしか観たことがない。世界バレエフェスティバルのガラ公演のドン最後の「ボレロ」とギエムが日本で最初に踊った「ボレロ」の感動はいまも色あせることがない。特にあの時のボレロの挑みかかるような「ボレロ」は、いままででいちばん感動したバレエだと断言できる。その後に踊られた彼女の「ボレロ」は、初上演を超えることはとうとうなかった。

 東京バレエ団による「ボレロ」を観る機会もあるにはあったが、どうしても食指が動かなかったのは、ギエムの記憶が鮮烈に残っているからである。上野水香は、世界バレエフェスティバルに初参加した。一流のダンサーが入れ替わり立ち替わり登場し、それぞれダンサーの実力を比較できるという破格の催しのなかにあって、「ジゼル」「黒鳥のパ・ド・ドゥ」「ドン・キホーテ」など、他のダンサーたちと圧倒的な差を見せつけられるという現実に直面したわけだが、ようやく「ボレロ」になって彼女の本領を発揮できたようである。カリスマダンサーが強烈なオーラを放って踊るソロよりも、アンサンブル重視?というか周囲とのバランスがとれた配役であるだけに、作品の持っている力だけで観客を熱狂させたような気がする。

 いつもはソロにどうしても集中してしまうのだが、今回はすべてのダンサーを視界に捕らえて全体のバランス、劇的な高揚など、小粒になったような気もしたが、この作品の別の面を発見したように思う。それでも最後には、興奮と感動があって、「ああ、観て良かった」と思えたのは何よりだった。

 通常の「ボレロ」のカーテンコールの後、カーテンコールには第一部の出演者も全員登場。ダンサー達が舞台の上部に手を差し伸べると、いささか小さめなモニターが降りてきて、カーテンコールに応えるベジャールの姿が映し出された。意外な登場の仕方だったので驚くやら感動するやら、たまらず立ち上がって拍手を贈った。何度もくり返されたカーテンコールが終わると、幕内から拍手が湧き起こった。今日はすべての千秋楽である。こうして3年に一度のバレエの祭典が終わりを告げた。

世界バレエフェスティバル 特別プロ
<オマージュ・ア・ベジャール>
2009年8月17日(月)
東京文化会館

振付:モーリスベジャール
構成:ジル・ロマン
振付指導:小林十市、那須野圭右

◆主な配役◆

<第一部>

「ルーミー」 音楽:クドシ・エルグネル
高橋竜太、平野玲、松下裕次、氷室友、長瀬直義、横内国弘、
小笠原亮、宮本祐宜、梅澤紘貴、中谷広貴、安田峻介、
柄本弾、佐々木源蔵、杉山優一、岡崎隼也、八木進

「ザ・カブキ」より由良之助のソロ 音楽:黛 敏郎
後藤晴雄

「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」 音楽:クイーン
エリザベット・ロス

「鳥」 音楽:マノス・ハジダキス
高岸直樹
高村順子、西村真由美、乾友子、佐伯知香、高木綾、奈良春夏、田中結子、
村上美香、岸本夏未、阪井麻美、矢島まい、渡辺理恵、川島麻実子、加茂雅子

「アダージェット」 音楽:グスタフ・マーラー
ジル・ロマン


<第二部>

「バクチIII」 音楽:インドの伝統音楽
シャクティ:吉岡美佳
シヴァ:木村和夫

「さすらう若者の歌」 音楽:グスタフ・マーラー
ローラン・イレール、マニュエル・ルグリ

「ボレロ」 音楽:モーリス・ラヴェル
上野水香
平野玲、松下裕次、長瀬直義、横内国弘

◆タイムテーブル◆

第一部 18:30-19:25
休憩 20分
第二部 19:45-20:25


2009-08-18 22:06
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