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第12回 世界バレエフェスティバル プログラムA [バレエ]2009-08-02 [バレエ アーカイブス]

7月の歌舞伎座で玉三郎と海老蔵の主演する『海神別荘』を観ていて、世界バレエフェスティバルに玉三郎が出演した時のことを思い出した。METのガラでバレエダンサーに混じって『鷺娘』を踊ったことはあっても、一応バレエというか日本舞踊とは違ったパフォーマンスを披露したのだった。ジョルジュ・ドンとの共演という特別枠だったとはいえ、Aプロではラフマニノフの音楽にのせ、自分自身が振付けた『紫陽花』のソロは天女のようだった。あのときのテイストが一連の鏡花物に受け継がれているの違いない。

 そのときのBプロではドンとの共同振付で『デス・フォー・ライフ』が踊られた。さらにガラでは、再び『紫陽花』が踊られ、ドンはサプライズで封印したはずの『ボレロ』を踊った。ガラ公演恒例の特別パフォーマンスでは、玉三郎が男装の麗人の紫の燕尾服にオールバックのヘアスタイルで、マリシア・ハイデと「二人でお茶を」を踊ったりした。公演は延々と続き終わったのは23時を過ぎていた。実に丸6時間もの公演だったのだ。あの時が初めてのガラ公演だったのだが、たった一回のガラ公演は毎回凄まじいチケットの争奪戦になる。幸いなことに、それ以降、毎回ガラ公演のチケットは手に入れることができている。

 今年もAプロ、Bプロ、ガラ、オマージュ・ア・ベジャールの公演にでかける。一番の楽しみは、たぶん最後になるかもしれないジル・ロマンの『アダージェット』とルグリ&イレールの『さすらう若者の歌』である。特に『アダージェット』は感動的な作品で毎回号泣してしまうのだが、いまいましいのは『愛陀姫』の最後に流れた「アダージェット」は、この作品を観て感動したからだ田中伝左衛門が語っていた。信じられない感性の持ち主ではある。

 さて今夏の第12回には、大物が初出演している。このところ新国立劇場への出演が多いザハロワである。カーテンコールでも一番優遇されていたようだし、別格の扱いだといってもよいくらいだ。世界バレエフェスティバルの常連たちと共演しているので、以前から興味があったのかもしれない。綺羅星のごとく輝くばかりのスターダンサーのなかにあっても、その存在感はなかなかのものだった。

 それでは、ザハロワとウヴァーロの『白鳥の湖~黒鳥のパ・ド・ドゥ』が一番よかったかというと話は別である。第一部、第二部に比べ、スターダンサーが勢揃いし、男女の性愛の形をさまざまに提示した第三部が見ごたえがあったが、圧倒的な感動をもたらしてくれたのはルグリとデュポンが踊った『椿姫』第1幕のパ・ド・ドゥである。ノイマイヤー振付の名作ではあるが、主役がいいとこうまで感動させられるものかと、ただただ驚くばかりだった。

 主役ふたりの心の動き、そしてお互いに理解しあおうとしない状況を相手役が踊っているのを、お互いに見ない=相手を理解していないを素晴らしい技術と演技で表現していて見事だった。ほぼ何もない空間に、濃密な劇世界を構築していく様は、一流ダンサーだからこそで、たぶん彼らの全幕は観る機会はないと思うが、至芸ともいうべきん舞台に接することができたことを喜びたい。

 同じくジル・ロマンとモンテカルロ・バレエ団のコピエテルスの踊ったマイヨー振付の『フォーブ』にも感動した。「牧神の午後」にのせて狂おしいまでに性の賛歌を歌いあげてみせた。サイボーグのようなコピエテルスと狂気を秘めた無垢な魂を持ったようなロマンは他のダンサーでは絶対にだせない摩訶不思議な世界を描いてみせた。

 そして『カジミールの色』と題されたビゴンゼッティ振付作品をヴィシニョーワとマラーホフが踊った。派手さはなく、ひたすら抑制された動きのなかで精神的な世界を描いていて、世界バレエフェスティバルという舞台にのせようとするだけあって、彼らの現在、進むべき方向といったようなものまで示唆していて興味深かった。

 この公演にはマクミラン振り付けの『マノン』寝室のパ・ド・ドゥは欠かせないが、これまでもさまざまなペアによって踊られてきた。コジョカルとコレーラ、ヴィニニョーワとマラーホフ、フェリとマラーホフ、ギエムとコープ、ルディエールとルグリと実力と人気のあるペアしか踊れない。今回はセミオノワとフォーゲルが、その上演の歴史に名前を刻むことになった。前回は同じくマクミランの『ロミオとジュリエット』のバルコニーのパ・ド・ドゥを踊っており、二人の相性のよさが発揮された演目となった。

 第三部の後半の4演目は、ロシア出身のバレリーナの競演となった。それぞれ違った学校で学んだダンサーたちだが、名誉あるトリの『ドン・キホーテ』はオシポワとサラファーノフの初出場ペアで、若さと驚異的なテクニックを次々に繰り出して客席をどよめかせた。これも世界バレエフェスティバルの特徴であり、楽しみでもある。開幕もコチェトコワとシムキンの初出場ペアが定番の『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』で同じく客席をわかせた。どちらも『パリの炎』、『海賊』など派手な演目を踊ることになっており、今回の台風の目になると思えた。

 スターたちが古典作品を踊る中におあって、やはり異彩を放つのは現代作品を踊る古参?のダンサーたちである。もっとも興味深かったのは、照明で区切られた狭い空間の中で同じ動きを繰り返していったギエムとル・リッシュの『クリティカル・マス』は、傑出したダンサーだからこそ実現できる緊迫感にあふれたもので、ほとばしる熱い感情よりも、不毛な現代人の抱える問題を浮かび上がらせていたと思う。普段着?を着て裸足で踊っていたのも異色である。

 自身が振付たルテスチュとマルティネスの『スカルラッティ・パ・ド・ドゥ』は、衣裳、照明、振り付けともの斬新さに溢れていたが、ピアノの生演奏は・・・。著しく完成度を殺ぐものだった。本来は、ピアニストとダンサーがそれぞれ刺激しあって、さらなる高みに観客を連れて行くような演目なのだろうなと感じた。ほかにもタマラ・ロホのソロ作品『エラ・エス・アグア』とノイマイヤー振付の『オテロ』をブシェとボァディンのハンブルグバレエ団のペアは、この公演だからこその演目だが、それ以上の価値は感じなかった。マーフィー版の『くるみ割り人形』はピクニック・パ・ドゥと題されていたが、来日公演の前宣伝からなのか、短いだけでよく判らない展開で終わってしまった。

 ロイヤル・バレエ団のラテン系のダンサー、ヌニュスとソアレスは『海賊』の驚異的な回転技で観客を驚かせた。『コッペリア』ではコジョカルが絶妙なバランスをみせた。『ディアナとアクティオン』では、カレーニョが同じくラテン系の存在感をしめしていた。

 サレンコとコンヴァリーナの『くるみ割り人形』、アイシュヴァルトとバランキエヴィッチの『ライモンダ』、上野水香とガニオの『ジゼル』は、悪くはないが、いささか平凡にみえてしまって損していたと思う。その中にあって、ガニオの存在感が光っていた。親子二代で世界バレエフェスティバルに賛歌というのは感慨深いものがあった。 

ロビーにはLEDを使ったLEDライトパネルが飾られ華やか。ダンサーの美しいポーズの写真が際立ってみえた。けっこうなお値段みたいである。こうしたイベントの基本?であるグッズ売り場にはTシャツなどが販売されていた。出演者の名前が書かれたエコバックを買い求める。プログラムやチラシ入れに重宝する。会場には宣伝をかねた小さな団扇が無料で置かれていた。今回はあまり暑くないので人気はなかったようだ。記念にひとついただいた。終演後は楽屋口の2台の大型バスに早くも人だかりが・・・。皆さんねしんだなあと感心する。毎度おなじみのトイレの大行列と混乱のないスムーズな流れにも感心。

8月2日(日)15:00開演  会場:東京文化会館
 
■第1部■ 15:00~16:10

「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」
振付:ジョージ・バランシン/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
マリア・コチェトコワ ダニール・シムキン

「くるみ割り人形」より "ピクニック・パ・ド・ドゥ"  
振付:グレアム・マーフィー/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
ルシンダ・ダン ロバート・カラン

「海賊」
振付:マリウス・プティパ/音楽:リッカルド・ドリゴ
マリアネラ・ヌニェス ティアゴ・ソアレス

「エラ・エス・アグア ‐ She is Water」
振付:ゴヨ・モンテロ/音楽:コミタス、クロノス・カルテット
タマラ・ロホ

「くるみ割り人形」
振付:レフ・イワーノフ/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
ヤーナ・サレンコ ズデネク・コンヴァリーナ

「コッペリア」
振付:アルテュール・サン=レオン/音楽:レオ・ドリーブ
アリーナ・コジョカル ヨハン・コボー

<休憩20分>

■第2部■ 16:30~17:45

「ジゼル」より第2幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー/音楽:アドルフ・アダン
上野水香 マチュー・ガニオ

「クリティカル・マス」
振付:ラッセル・マリファント/音楽:リチャード・イングリッシュ、アンディ・カウトン
シルヴィ・ギエム ニコラ・ル・リッシュ

「ライモンダ」より第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ/音楽:アレクサンドル・グラズノフ
マリア・アイシュヴァルト フィリップ・バランキエヴィッチ

「スカルラッティ・パ・ド・ドゥ」(「天井桟敷の人々」より)
振付:ジョゼ・マルティネス/音楽:ドメニコ・スカルラッティ
アニエス・ルテステュ ジョゼ・マルティネス

「ディアナとアクティオン」
振付:アグリッピーナ・ワガノワ/音楽:チェーザレ・プーニ
シオマラ・レイエス ホセ・カレーニョ

「オテロ」 
振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:アルヴォ・ペルト
エレーヌ・ブシェ ティアゴ・ボァディン

<休憩15分>

■第3部■ 18:00~19:15

「椿姫」より第1幕のパ・ド・ドゥ   
振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:フレデリック・ショパン
オレリー・デュポン マニュエル・ルグリ

「フォーヴ」  
振付:ジャン=クリストフ・マイヨー/音楽:クロード・ドビュッシー
ベルニス・コピエテルス ジル・ロマン

「白鳥の湖」より"黒鳥のパ・ド・ドゥ"
振付:マリウス・プティパ/音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー
スヴェトラーナ・ザハロワ アンドレイ・ウヴァーロフ

「カジミールの色」
振付:マウロ・ビゴンゼッティ/音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィチ
ディアナ・ヴィシニョーワ ウラジーミル・マラーホフ

「マノン」より"寝室のパ・ド・ドゥ"
振付:ケネス・マクミラン/音楽:ジュール・マスネ
ポリーナ・セミオノワ フリーデマン・フォーゲル

「ドン・キホーテ」
振付:マリウス・プティパ/音楽:レオン・ミンクス
ナターリヤ・オシポワ レオニード・サラファーノフ

指揮:ワレリー・オブジャニコフ  
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団  
ピアノ:高岸浩子

2009-08-02 22:03
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