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鑓の権三重帷子 2月文楽公演第一部 [文楽]2009-02-16 [文楽アーカイブス]

文楽中堅の実力 
 
つい数年前までは、玉男、文雀、蓑助、住大夫、寛治ら人間国宝を上手く配してバランスのよい?公演が続いていた文楽も玉男の死によって、人気が集中するのは住大夫の出演する演目になっているようである。日曜日の11時開演とはいえ、空席が目立つ客席というのも珍しい。第二部は「敵討襤褸錦」は全席売切の大盛況だというのに、けっして舞台成果は見劣りするものではなかっただけに残念だった。

 近松の姦通物の一つで、20年ほど前に文学座が水木洋子が脚色し、江守徹が演出した「近松女敵討」を杉村春子主演で、サンシャイン劇場で観た記憶がある。さらに篠田正浩監督、岩下志麻主演で映画「槍の権三」というのも観た。なんと権三は郷ひろみ!馬を駆るのを得意とする武士が、泰平の世であるため茶道を立身出世のきっかけにしようしたばっかりに、人妻との不倫を疑われ、主人公二人は妻敵討ちにあい、密告?した朋輩も卑怯者ということで討たれてしまうという救いのない物語。

 眼目の「数寄屋の段」を語るはずだった綱大夫が病気で休演。その前の場である「浅香市之進留守宅の段」を寛治の三味線で語った津駒大夫が続けて語るという活躍でなんとか上演を続けた。さすがに前場を語り終え、すぐに次の床に上がることができなかったのか、舞台転換後に妙な間が空いてしまったが、非常事態なので仕方がなかった。疲れもみせずに1時間10分を語り通したのは見事で敢闘賞ものだった。英大夫、呂勢大夫、千歳大夫など中堅クラスでも重用されている一人ではあるが、その実力を発揮する場を得て、日頃の精進の成果をしめせたのは何よりだった。

 さすがにおさゐの悶々とした想いを深く表現するまでには至らなかったが、現代人には理解できない倫理観を、なんとなく納得させてしまったのは、出演者一同の努力の賜物であると思う。その中でも傑出していたのは、
おさゐを遣った文雀で、人妻でありながら権三へ深層心理では心を寄せていて、お雪の乳母の言葉に憤慨し、深夜の茶室で権三の帯を解く暴挙に出たのも、真の台子の奥義を教える替わりに、権三の肉体を欲していたのかもと思わせる生々しさだった。人形であるはずなのに、妙に官能的で危うい雰囲気が漂っていたのも凄い。十二歳年上で江戸詰で留守の夫・市之進との閨房の語らいの物足りなさまでも感じさせて恐かった。権三は和生が遣い、蓑助が得意とした二枚目の役をよく継承していて見応えがあった。

 権三にしても、お雪とすでに懇ろであるらしかったりと綺麗事ばかりでなく矛盾している。だから形式ばかりの妻敵討で倫理観を守ろうとする武士の滑稽さというのも意味深く、敵討ちよりも、そうしたドロ沼に落ちていく男女の姿に見るべきものがあるという主張があったのか、理解しがたい結末となる後半はあっさりと物語が展開してくれたのも観客にはありがたかった。 

2009-02-16 23:51
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