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近頃河原の達引 口上 十種香 奥庭狐火 文楽九月公演・第1部  [文楽]2008-09-09 [文楽アーカイブス]

 今回の公演で最も感動したのは「口上」での蓑助だった。泣かされた。上演された他の演目よりも心を揺さぶられた。今まで忘れていたけれど、蓑助は脳卒中で倒れて、長いリハビリの末に舞台に戻った人だったのだ。普段は変わらずに人形を遣っているけれど、そこに至までにどれだけの努力を積み重ねてきたのか…。いまだ不自由な言葉しか話せないのに、愛弟子の襲名披露口上に発した振り絞るような言葉。儀礼ばった口上でこんなに感動するとは予想していなかっただけに涙が止まらなくなった。

 古式にのっとってなのか、清之助改め清十郎は一言も発さない。舞台下手から進行役の文字久大夫、勘十郎、蓑助、清十郎、住大夫、寛治。後列には同じく勘緑、蓑二郎、清三郎、清五郎が並んだ。住大夫、寛治と大幹部に続いて蓑助の言葉となった・「どうぞ、よろしくお願い申し上げます」といったような気がした。語尾が不明瞭で聴き取れないのだが、弟子の晴れの舞台に華を添えようという気持が嬉しい。それを引き取って兄弟子である勘十郎が口上を替わって
述べた。奥庭では八重垣姫の左手を出遣いで出て兄弟子の門出を祝った。麗しい、誠に麗しい。

 それに比べると「近頃河原の達引」は感心しない出来のように思えた。「そりゃ聞こえませぬ伝兵衛さん」で有名な演目で、「酒屋」とともに人気演目ではある。「四条河原の段」は、伝兵衛が横淵官左衛門を殺す場面。松香大夫に清友
。今回は襲名があるので「十種香」がメインとはいえ、朝から世話物というのも気が乗らない。

 「人の落ち目を見捨てるを、廓の恥辱とするわいな」などと女の心意気が天晴れなのだけれど、住大夫と錦糸ではそうした見事な言葉が上手く伝わってこないような気がした。文楽の大夫の最長老で第一人者のはずなのに、相性が悪いのか、あまり感心する舞台に出会ったことがない。それは綱大夫にも言えることで、飛ぶ鳥を落とすような勢いがあった頃に比べ、衰えが進んだようでお俊の可憐でありながらシンのつよい性格が十全に描かれていないような気がした。筋立てはよく理解できたし、手応えもありながら感動に至らないもどかしさが残った。

 清十郎の襲名は「十種香」と「奥庭」である。嶋大夫が「十種香」を語り、狐火では寛治が三味線という豪華版である。人形も勝頼に蓑助、濡衣に文雀、謙信に勘十郎と現在望みうる最高の配役を得た。新清十郎の八重垣姫は、悪くはないけれど全体に輪郭がぼやけた感じで明解さが足りないように思った。もっともっと自己主張して派手に決めてもよいのではないだろうか。「奥庭」も瑠璃灯が下がった古風な演出であったが、もう少し怪しげな雰囲気が欲しい気がした。

 なにはともあれ、文楽は着実に世代交代の時期を迎えたようである。これからは新清十郎をはじめ、勘十郎、玉女、和生といった人たちが活躍していくことだろう。清十郎にして40年以上の修業をしているという。それでも観客を満足させる域に達しないとは、芸道修業の奥深さをまざまざと感じさせれれた。

2008-09-09 23:21
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