SSブログ

五月文楽公演 鎌倉三代記 増補大江山 国立劇場 [文楽]2008-05-18 [文楽アーカイブス]

 文楽を観る度に、自分のなかで舞台に向かう熱が冷めていくのを感じる。ちょうど世代交代の時期でもあるので、若手中堅の頑張りはあるものの、技芸のレベルの低下は仕方がない。一朝一夕で芸が成熟するはずもなく、ここは辛抱して見守り続けるしかないのだと達観はしている。それでも心を動かされる舞台がだんだん減ってきているのは悲しい。

 そして最も憂れいているのは観客のことである。国立劇場の文楽公演は大変人気があってチケットをとるのが難しい。「あぜくら会」の会員であっても予約日に手にいれられないこともある。それでも以前は「どうしても観たい」という気持さえあれば、当日券で観ることは可能だった。客席最後列の通路にパイプ椅子が並んで、最低でも36席補助席の当日券が出た。もちろん消防法違反である。コンプライアンスが声高に叫ばれる昨今であるから、当然のように当日売りの補助席は廃止。わずかに車椅子スペースに3席のみが用意される。それも車椅子の方がおられれば発売されない。
 
 前売り券を買えばいいと言われても、当日にならないと予定が立たない観客もいる。天使もその一人で、今回も第2部は急に仕事になって見逃すことになり、チケットが無駄になった。以前なら当日券に並んでもという気持があったが、手に入れられるかどうかわからないものに長時間並ぶ情熱は失せてしまっている。「どうしても住大夫を聴きたい」と素直に思えなくなっているからである。

 今日も第1部、第2部とも完売だった。熱心な観客とはいうものの、普通の人が気軽に観に行けるような雰囲気がないのが天使には大いに不満である。みな肩に力が入りすぎなのである。序幕からそんなに気合を入れては最後までもたないと思うのだが、若手の舞台を軽く聞き流すということができないらしい。人間が4時間以上も集中できるわけもなく、大半の観客は途中から居眠りをしている。それを誤魔化す?ためなのか最後は、どんなものでも盛大な拍手で幕である。

 そうかと思えば、まったく無反応な観客もいる。笑いもしないし、拍手するわけでもない不気味というか、何しに劇場へ足を運んだのか謎としか思えない観客がいる。他の観客のちょっとした物音に激しく反応し抗議する観客もいて、クラシックの聴衆より怖い感じだったりもする。高尚な古典芸能を鑑賞?しているといった「気取り」のある客席がどうも好きになれない。新しい観客が増える余地が非常に少ない現状で文楽に未来はあるのか?文楽マニア?、文楽エリート?といった鼻持ちならない観客の存在にうんざりさせられる。そんなに感動できるような舞台でもないのに、どうしてそんなに熱狂的な拍手できるのか?さっきまで居眠りしてたのに…。観客の反応が嘘くさいのである。何をやっても大喝采なら芸など伸びるわけがない。ある意味、一番レベルの低い観客は文楽の客かもしれない。
 
 それでも文楽の客席にいることの幸福感に浸りたくてでかける。しかしながら、一番印象に残ったのが幕間の弁当時間だったのだからがっかりである。この季節は、外の床几?に出て弁当を広げるのだが、何故か足元に雀が寄ってきた。人に慣れすぎな雀で、試しにごはん粒を投げてみると、アッという間に雀が集まってきた。どうも弁当をわけてやる心優しい観客が多いようで、餌付けされた雀を初めて観た。もっとも野生動物に餌を与えることはよくないことなので、それ以上与えなかったけれども。

 「鎌倉三代記」は、「三浦之助母別れの段」の人間国宝・綱大夫が病気休演で千歳大夫が「入墨の段」に続いて語った。元気だけなのが取り柄のような始大夫から始まって、咲大夫まで、心を激しく揺すぶるような感動にはついにお目にかかれずじまいに終わった。もちろん手を抜いているわけではなく、自分の持てるものをすべて出し切っているとは信じたいが、一生懸命さだけでは足りないのである。芸の難しさ怖さであるのであろう。淡々と舞台が進んでいるという印象ばかりでドラマが浮かんでこないのが不満である。特に一番ドラマチックなはずの「三浦之助母別れの段」が一向に盛り上がらないので、逆にドラマの持つ綻びがクローズアップされてしまって楽しめない。理屈ぬきで感心させられる芸がなければ文楽を観ることは苦痛でしかなくなる。抜擢ともいえる千歳大夫のさらなる精進に期待したいというか、そこにしか望みを託せないのが苦しい。

 人形陣も勘十郎、玉女、和生ら次代を担う中堅が主な役を遣った。経験と時間がまだまだ必要で、これまた長い目で見守るしかないのだが「頑張れ」と祈りにも似た気持ちで舞台を眺めるしかないのが辛い。

 「増補大江山」は人間国宝の三味線の寛治が出演なのが目玉。舞台の要となっているのがよくわかって音楽的に安定したのが何より。見た目本位に楽しめる演目でかしこまって観るような演目ではないのだが、相変わらず客席が固い雰囲気なのには閉口した。玉也と清之助というさらに次の世代の舞台で、見た目本位に遣っていたのがむしろ好ましく思えた。

2008-05-18 05:20
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。