劇団四季 ウエストサイド物語 全国公演 [ミュージカル]2009-04-24 [ミュージカル アーカイブス]
今月から劇団四季の『ウエストサイド物語』の全国ツアーが首都圏を手始めにスタートしたが、天使の住む街にもやってきた。劇団四季ということで、小さなお子様連れのお客様も多かったが、さすがに子供向きではなかったようで、天使の後ろの席のご家族連れは第一幕で帰ってしまった。
何かと不便な全国公演なので仕方がないが、舞台の上手と下手にPA用のスピーカーと舞台のモニター用?のスピーカー、さらに照明用のタワーが立っていて、とっても無粋。さらに舞台転換のたびに大轟音が響き渡り興ざめ。それにPAの音が調整が上手くないのか音源のせいなのか、奥行感がなくて薄っぺらすぎてバーンスタインの音楽が台無し。パーカッションの躍動感や緊張感など皆無。さすがに東京公演では生オケだったので、その落差に唖然とさせられた。それでも奥行きのない舞台をうまく使って、専用劇場同様に上演したのは見事だったとは思う。舞台端ぎりぎりまで演じるエリアとして使うので、けっこう迫力があったのは何よりだった。
50年前に初演された舞台なのだけれど、昨日見た映画「ミルク」に影響されたせいか、この作品に新しい発見があった。保守的なブロードウエイの観客に向けて、SEXに対する拒否反応を和らげる巧妙な伏線がはられていたのに気がついた。ベルナルドの死の後に、トニーはマリアの部屋を訪れてベッドをともにする。今回の演出にはないが、今まではトニーが上半身裸ということもあった。今ならなんでもないことだが、初演当時は未婚の男女がSEXをしたのでは道徳的に大いに問題ありなのだと思い当たった。
それに先立つ婚礼衣裳店で、二人がほぼ結婚式と同様の所作と誓いの言葉を述べる。単なる洋品店でもよかったはずなのに、婚礼関係の店にしたのは、こういう意味が隠されていたのかと30年以上も見ているはずなのに、初めて気がついた。観客の前で結婚式を挙げたので、SEXしてもOKだったのである。
毎回何かしら発見があるのは名作であり古典となった証拠であろう。今回も新しい感動があった。その一番の功労者はマリアを演じた花田えりかである。久野綾希子にはじまり、野村玲子、保坂知寿らに引き継がれてきた劇団四季の娘役としては大きな役である。可憐な容姿を強調するためなのか、ちょっと変わった幼い感じの語尾が今回も受け継がれていて苦笑するしかないが、歴代のマリアの中では、最も安定した歌唱力を持った女優である。最高音も無理なく伸びるし、全音域に対してムラなく響かせられるマリアは初めてだった。特に光ったのはアニタに自分のトニーへの愛を切々と訴え、彼女の理解を得ようとするナンバーをこれだけ説得力を持って歌いあげたマリアを知らない。芝居も上手し、すべてが揃ったヒロインといいたいとことろだが、容姿に恵まれていないのが娘役としては苦しい。
その他の配役は、残念ながら加藤敬二や松原勇気が出演した東京公演とはレベルが落ちるのは仕方がない。それでも、メインの役を演じるものが、あきらかにアンサンブルよりダンス力が落ちてみえては駄目だと思う。冒頭の有名なダンスシーンに緊迫感や迫力が足りないと感じたのは、主にリフの田邊真也とベルナルドの萩原隆匡の非力さによる。特にリフの田邊は、最大の見せ場のクールのナンバーなど、やっと踊っているというレベルで、バックダンサーが切れ味のよいダンスを軽々と披露しているのとは大差があった。
もちろんアンサンブルにも力量の差があるのだが、高度なテクニック、スピードが必要なナンバーでは、それが如実に現れるのである。技術が今ひとつだけに、一流のダンサーが持っているような芸術的な香気など望むべくもなかった。最もがっかりしたのは、男性の役ではトニーの 阿久津陽一郎で、歌唱はソツないのだが、感動を与えるまでの圧倒的な歌唱力はなく、高音の伸びなど物足りないし、元不良少年という影や兄貴分としての貫禄もない。ちょっと役違いなのだと思う。女性役では、アニタの増本藍は、歌や演技はともかく、ダンス力と色気に乏しいのが致命的だった。全体的に見回しても個性的な出演者が少ないのと、外国人キャストからなのか、劇団四季のバリバリの開口で台詞を発するので、その不自然さに閉口させられた。
けっして劇団四季の提供するレベルとしては、キャストのバラツキもあって高いものではなかったが、作品の持つ力のおかげで、新しい感動を生んでいた。それはトニーの死を受け入れるマリアの芝居の深さで、日本人が演じるにふさわしい思い入れがこちらにまで伝わってきて、タップリとった間の具合のよさが光っていた。大人の役では、クラプキンの牧野公昭が印象に残った。土地柄か外国人の観客もいたが、どのように受け止めたのか興味がある。
【ジェット団】
リフ 田邊真也
トニー 阿久津陽一郎
アクション 西尾健治
A-ラブ 大塚道人
ベイビー・ジョーン 大空卓鵬
スノーボーイ 澤村明仁
ビッグ・ディール 鎌滝健太
ディーゼル キム スホ
ジーター 川口雄二
グラジェラ 高倉恵美
ヴェルマ 恒川 愛
クラリス 須田綾乃
ポーリン 蒼井 蘭
エニイ・ボディズ 木内志奈
【シャーク団】
マリア 花田えりか
アニタ 増本 藍
ロザリア 鈴木由佳乃
コンスェーロ 加藤久美子
テレシタ 高橋亜衣
フランシスカ 大口朋子
エステラ 原田真由子
ベルナルド 萩原隆匡
チノ 畠山典之
ぺぺ 水原 俊
インディオ 新庄真一
アンクシャス 龍澤虎太郎
ファノ 内御堂 真
ニブルス 斎藤洋一郎
【おとなたち】
ドック 山口嘉三
シュランク 勅使瓦武志
クラプキ 牧野公昭
グラッド・ハンド 川口雄二
2009-04-24 23:11
何かと不便な全国公演なので仕方がないが、舞台の上手と下手にPA用のスピーカーと舞台のモニター用?のスピーカー、さらに照明用のタワーが立っていて、とっても無粋。さらに舞台転換のたびに大轟音が響き渡り興ざめ。それにPAの音が調整が上手くないのか音源のせいなのか、奥行感がなくて薄っぺらすぎてバーンスタインの音楽が台無し。パーカッションの躍動感や緊張感など皆無。さすがに東京公演では生オケだったので、その落差に唖然とさせられた。それでも奥行きのない舞台をうまく使って、専用劇場同様に上演したのは見事だったとは思う。舞台端ぎりぎりまで演じるエリアとして使うので、けっこう迫力があったのは何よりだった。
50年前に初演された舞台なのだけれど、昨日見た映画「ミルク」に影響されたせいか、この作品に新しい発見があった。保守的なブロードウエイの観客に向けて、SEXに対する拒否反応を和らげる巧妙な伏線がはられていたのに気がついた。ベルナルドの死の後に、トニーはマリアの部屋を訪れてベッドをともにする。今回の演出にはないが、今まではトニーが上半身裸ということもあった。今ならなんでもないことだが、初演当時は未婚の男女がSEXをしたのでは道徳的に大いに問題ありなのだと思い当たった。
それに先立つ婚礼衣裳店で、二人がほぼ結婚式と同様の所作と誓いの言葉を述べる。単なる洋品店でもよかったはずなのに、婚礼関係の店にしたのは、こういう意味が隠されていたのかと30年以上も見ているはずなのに、初めて気がついた。観客の前で結婚式を挙げたので、SEXしてもOKだったのである。
毎回何かしら発見があるのは名作であり古典となった証拠であろう。今回も新しい感動があった。その一番の功労者はマリアを演じた花田えりかである。久野綾希子にはじまり、野村玲子、保坂知寿らに引き継がれてきた劇団四季の娘役としては大きな役である。可憐な容姿を強調するためなのか、ちょっと変わった幼い感じの語尾が今回も受け継がれていて苦笑するしかないが、歴代のマリアの中では、最も安定した歌唱力を持った女優である。最高音も無理なく伸びるし、全音域に対してムラなく響かせられるマリアは初めてだった。特に光ったのはアニタに自分のトニーへの愛を切々と訴え、彼女の理解を得ようとするナンバーをこれだけ説得力を持って歌いあげたマリアを知らない。芝居も上手し、すべてが揃ったヒロインといいたいとことろだが、容姿に恵まれていないのが娘役としては苦しい。
その他の配役は、残念ながら加藤敬二や松原勇気が出演した東京公演とはレベルが落ちるのは仕方がない。それでも、メインの役を演じるものが、あきらかにアンサンブルよりダンス力が落ちてみえては駄目だと思う。冒頭の有名なダンスシーンに緊迫感や迫力が足りないと感じたのは、主にリフの田邊真也とベルナルドの萩原隆匡の非力さによる。特にリフの田邊は、最大の見せ場のクールのナンバーなど、やっと踊っているというレベルで、バックダンサーが切れ味のよいダンスを軽々と披露しているのとは大差があった。
もちろんアンサンブルにも力量の差があるのだが、高度なテクニック、スピードが必要なナンバーでは、それが如実に現れるのである。技術が今ひとつだけに、一流のダンサーが持っているような芸術的な香気など望むべくもなかった。最もがっかりしたのは、男性の役ではトニーの 阿久津陽一郎で、歌唱はソツないのだが、感動を与えるまでの圧倒的な歌唱力はなく、高音の伸びなど物足りないし、元不良少年という影や兄貴分としての貫禄もない。ちょっと役違いなのだと思う。女性役では、アニタの増本藍は、歌や演技はともかく、ダンス力と色気に乏しいのが致命的だった。全体的に見回しても個性的な出演者が少ないのと、外国人キャストからなのか、劇団四季のバリバリの開口で台詞を発するので、その不自然さに閉口させられた。
けっして劇団四季の提供するレベルとしては、キャストのバラツキもあって高いものではなかったが、作品の持つ力のおかげで、新しい感動を生んでいた。それはトニーの死を受け入れるマリアの芝居の深さで、日本人が演じるにふさわしい思い入れがこちらにまで伝わってきて、タップリとった間の具合のよさが光っていた。大人の役では、クラプキンの牧野公昭が印象に残った。土地柄か外国人の観客もいたが、どのように受け止めたのか興味がある。
【ジェット団】
リフ 田邊真也
トニー 阿久津陽一郎
アクション 西尾健治
A-ラブ 大塚道人
ベイビー・ジョーン 大空卓鵬
スノーボーイ 澤村明仁
ビッグ・ディール 鎌滝健太
ディーゼル キム スホ
ジーター 川口雄二
グラジェラ 高倉恵美
ヴェルマ 恒川 愛
クラリス 須田綾乃
ポーリン 蒼井 蘭
エニイ・ボディズ 木内志奈
【シャーク団】
マリア 花田えりか
アニタ 増本 藍
ロザリア 鈴木由佳乃
コンスェーロ 加藤久美子
テレシタ 高橋亜衣
フランシスカ 大口朋子
エステラ 原田真由子
ベルナルド 萩原隆匡
チノ 畠山典之
ぺぺ 水原 俊
インディオ 新庄真一
アンクシャス 龍澤虎太郎
ファノ 内御堂 真
ニブルス 斎藤洋一郎
【おとなたち】
ドック 山口嘉三
シュランク 勅使瓦武志
クラプキ 牧野公昭
グラッド・ハンド 川口雄二
2009-04-24 23:11
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