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ウエストサイド物語 劇団四季 [ミュージカル]2007-11-01 [ミュージカル アーカイブス]

 1970年代に高校生だった天使。いつか日生劇場で劇団四季の「ウエストサイド物語」と「ジーザス・クライスト=スーパースター」を観るのが夢だった。特に「ウエストサイド物語」は田舎の映画館でリバイバル上映を初めて観た時からナマの舞台にふれるのが望みだった。

 たぶんもっと上の世代では、例の指を鳴らしたり、片足をピンと上げるポーズを誰にもみられない深夜に自分の部屋でこっそり挑戦したのではないだろうか。その「ウエストサイド物語」が劇団四季に帰ってきた。スター性を持った俳優の相次ぐ退団と劇団代表夫人出演のストレートプレイ偏重に本当は辟易としているのだが浜松町の劇場へでかけた。まず浅草で歌舞伎を観てから水上バスに乗って日の出桟橋へ。日の出桟橋からお台場海浜公園というコース。帰りは竹芝桟橋まで「ゆりかもめ」という観光地に来たようで楽しかった。

 さて四季劇場「秋」は舞台間口が約10メートルほど。日生劇場の16.5メートルに比べるとかなり狭い。ただ劇団四季の劇場に出かけるたびに思うのだがブロードウエイの古いミュージカル劇場もけっして大きくない。むしろ同じくらい。オーケストラピットの奥行きが浅いだけに、客席から舞台が非常に近くて観やすい。ひょっとして劇団四季は「ウエストサイド物語」の上演を念頭に置いて設計したのではと思えるくらいピッタリのサイズだったと思う。日生劇場以上の奥行きと高さで舞台空間に広がりが出て作品にとっては幸いした。

 レナード・バーンスタインの作曲でクラシックの演奏会でも組曲が演奏されたりするが本来は劇場音楽である。オーケストラピットには弦楽器のパートが各1名づつ。木管楽器は一人の奏者が最低5本の楽器を持ち替えて演奏していた。パーカション奏者に至っては何種類の楽器を操っていたのか解らないほど。少し低めのオーケストラピットで第一プルトの奏者以外は、皆小型のモニターを譜面台の横に置いて演奏していた。フルオーケストラのような迫力はもちろん無いが、劇団四季お得意のカラオケ上演に比べればよほど良いと思った。

 舞台間口が狭いおかげで、舞台装置に無駄な空間がない緊密な空間になったのが何より。特に有名な5重唱の場面など迫力が増していたように思う。各ダンスナンバーもフォーメションに工夫を凝らして狭い舞台でも効果が減じないように奥行きを上手く使っていてこれもよかった。

 残念だったのはプリンシパル級のダンサーの技術は素晴らしいのに、それについて行けないダンサーも散見されたこと。必死なのはわかるけれど素人にもわかるような振りのズレはマズイだろうと思った。特に「クール」でアクションを演じていた西尾健治の足のひっぱり方は凄かった。せっかくの名場面が台無し。もの凄いテクニックが必要なのはわかるが、もっとキチンと踊れる人はいなかったのだろうか。

 目を惹いたダンサーは、やはりリフの松島勇気とベルナルドの加藤敬二で何を踊っても華があり観客の視線を一身に集めてしまう。だから体育館の場面のダンス合戦はとっても楽しめた。

 初演から50年の作品だけに、ダンサーと歌手、俳優の持ち場がくっきりと別れているような所があって、一人アニタだけはすべてに及第点を得なければならないので難しい役柄だと思う。立川真理、保坂知寿、前田美波里など歴代のアニタの中では、今回の団こと葉は相当に高いレベルのアニタだったと思う。ダンス、歌は当然だが、ドラッグストアでジェット団に強姦され、「マリア」が死んだと嘘をつく演技と台詞の素晴らしさは歴代最高だったかもしれない。ところで、ドラッグストアの場面でアニタが強姦されたのだとばかり思っていたら、そう思っていない観客がけっこういることに気がついた。さすがに50年前の作品だけにそのものズバリはできないわけで、振付で上手く表現していると思うのだが、そう脳内変換しないと、悲劇を招く原因となる嘘の底知れない悲しみといったものが表現できないと思うのだけれど…。

 大事な主役二人だがトニーを演じた鈴木涼太は中音域はともかく、低音は響かないし、ファルセットで弱音を出す高音の部分はまったく延びがなく声楽的には全く失望させられた。高音を強く出すのは誰にもできるわけで、オペラのテノールのようにデリケートな高音を出すときの醍醐味を味合わせてくれなければトニーなど演じる資格がない。致命的だったのは彼に全く華がないこと。その他大勢の中にソリストが埋もれてしまっては駄目だろう。

 笠松はるのマリアは可憐な少女というイメージがなくて残念。歌も一生懸命歌ってますという感じで余裕がなかった。芝居がそこそこ上手いので最終場面などはマリアの悲しみがズシリと伝わってきて手応え十分だったので今後に期待というところだろうか。

 この「ウエストサイド物語」は全編が名場面の連続なのだが、今回は映画には登場しない「サムフエア」が特に晴らしい場面となった。50年前にバーンスタインが理想の世界として書いた世界が半世紀経っても実現に至っていないばかりでなく、ますます悪い方向へ進んでいるのだと思うと、こみあげてくるものを押さえることができなかった。舞台は寛容の世界を描いているのに現実の世界は逆になっているというのを音楽とダンスで見事に描いているのを再認識さられた。この音楽が最後に流れるのも意味のないことではないというのが、余計に感動を深くした。この作品が長く愛されるのもこの部分があるからかもしれない。

 大人達は劇団外部からやって来た中堅クラスで支えられていた。シュランクの牧野公昭など骨太でなかなか良い演技。ドックの緒方愛香も悪くはないがトニーにとっては父親的な存在であって欲しかった。でなければ自分の店が不良少年に占領されてしまうことに対するフツフツとした何かがあっても良いのかも。立ち位置が不明瞭なので共感できない役作りだった。

2007年10月30日(火)18:30 開演

The Jets
リフ:松島勇気  グラジェラ:柴田桃子
トニー:鈴木涼太 ヴェルマ:上延綾
アクション:西尾健治 クラリス:駅田郁美
A-ラブ:大塚道人  ポーリン:ソンインミ
ベイビー・ジョーン:厂原時也 ミニー:荒木舞
スノーボーイ:丹下博喜 エニイ・ボディズ:石倉康子
ビッグ・ディール:萩原隆匡
ディーゼル:朱涛
ジーター:青羽剛

The Sharks
マリア:笠松はる ベルナルド:加藤敬二
アニタ:団こと葉 チノ:横山清崇
ロザリア:鈴木由佳乃 ペペ:水原俊
コンスェーロ:加藤久美子 インディオ:神谷凌
テレシタ:泉春花 アンクシャス:徳永義満
フランシスカ:大口朋子 ファノ:内御堂真
エステラ:榊原央絵 ニブルス:佐藤雅昭
マルガリータ:室井優
 
The Adults
ドック:緒方愛香 クラプキ:荒木勝
シュランク:牧野公昭 グラッド・ハンド:青羽剛

ソプラノ・ソロ:小泉詠子
コンダクター:平田英夫

2007-11-01 22:10
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