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モーリス・ベジャール・バレエ団 2008年日本公演 「ボレロ」ほか [バレエ]2008-06-12 [バレエ アーカイブス]


2008年6月11日(火)19:00 開演 会場:東京文化会館

これが死か SERAIT-CE LA MORT?
ジュリアン・ファヴロー
カテリーナ・シャルキナ
カトリーヌ・ズアナバール
エリザベット・ロス
カルリーヌ・マリオン

イーゴリと私たち IGOR ET NOUS
シェフ:ジル・ロマン
パ・ド・カトル: カテリーナ・シャルキナ、カルリーヌ・マリオン
       ダリア・イワノワ、エミリー・デルベ
パ・ド・トロワ: ティエリー・デバル、ジュリアン・ファヴロー、ダフニ・モイアッシ
パ・ド・ドゥ: マーティン・ヴェデル、カトリーヌ・ズアナバール

祈りとダンス LA PRIÉRE ET LA DANCE
ルーミー: 男性全員
3つのバラ: ルイザ・ディアス=ゴンザレス、エリザベット・ロス、ダリア・イワノワ
炎: ダヴィッド・クピンスキー
デュオ: カテリーナ・シャルキナ、ジュリアン・ファヴロー
ゴレスタン:男性全員
パ・ド・ドゥ: ヨハン・クラプソン、アレッサンドロ・スキアッタレッラ
パ・ド・トロワ:ジュリアーノ・カルドーネ、エティエンヌ・ベシャール、ニール・ジャンセン 、
        アルトゥール・ルーアルティ
パ・ド・カトル:ガブリエル・バレネンゴア、ティエリー・デバル
       マーティン・ヴェデル、エクトール・ナヴァロ
ソロ 1: 那須野 圭右
ソロ 2: ドメニコ・ ルブレ

ボレロ BOLÉRO
カトリーヌ・ズアナバール

ティエリー・デバル、アレッサンドロ・スキアッタレッラ、
ジュリアン・ファヴロー、マーティン・ヴェデル、
エクトール・ナヴァロ、ヴァランタン・ルヴァラン、
バティスト・ガオン、ガブリエル・バレネンゴア、
須野 圭右、オクタヴィオ・デ・ラ・ローサ、
アドリアン・シセロン、ヨハン・クラプソン、
エティエンヌ・ベシャール、ダヴィッド・クピンスキー、
ジュリアーノ・カルドーネ、ニール・ジャンセン、
シャルル・フェルー、アルトゥール・ルーアルティ

 東京の初日となった10日の公演では、モーリス・ベジャールの追悼の意味をこめてジル・ロマンによる「アダージェット」が上演されたという。偉大な振付家を失ってバレエ団はどうなるのか大いに不安を抱いたが、まずはジル・ロマンを中心にベジャールの作品が継承されていくようなのでひと安心である。その一方で、振付家の厳しく目がなくなると、また直接に薫陶を受けたダンサーがいなくなると、どうなってしまうのかという心配も感じることになった公演となった。

 「これが死か」は、エリザベス・シュワルツコップの歌うリヒャルト・シュトラウスの「四つの最後の歌」にあわせて、男性ダンサーと四人の女性ダンサーによって踊られる。ある時は手をつなぎ、静止したかと思えば動きだす。密着したかと思えば離れをくり返していく。全員が手をつないでポーズするとマティスの「ダンス」を連想したりした…。

 やがて男は白いレオタードの女と踊り、最後にお互いに肩に両手をかけながら床に横たわる場面のあまりの美しさに心震える思いだった。男を踊ったのはジュリアン・ファヴローである。なんとすべての演目に出演。かつてのベジャールが愛した?美少年ダンサーの面影は残ってはいるものの「老けた…」というのが正直な感想。それでも時々、ハッとするほど美しい横顔をのぞかせて嬉しがらせた。対する女性ダンサーはカテリーナ・シャルキナ、カトリーヌ・ズアナバール、エリザベット・ロス、カルリーヌ・マリオンという優雅さと鋭さを併せ持った最強?メンバーだったかもしれない。35分ほどの作品だが、アッという間に終わってしまったという感じで堪能した。

 つづく「イーゴリと私たち」は、リハーサル中のストラビンスキーの肉声を使ってのダンスというベジャールの意志を継いでジル・ロマンが完成させた作品だとか。ジル・ロマンが指揮者で黒と白の衣裳をつけたダンサーが音楽といったところだろうか。いかにもベジャールらしい振付があちらこちらに見られて嬉しかった。「これが死か」に続いて踊るジュリアン・ファヴローだけが汗まみれだったのは気の毒だった。

 そして「祈りとダンス」と題されたさまざまな作品から集められたアンソロジーといった感じの作品。白いスカート状の衣裳を着けた男性ダンサーが、旋回したり跳躍したりして全員で踊る迫力。「ディオニソス」から同じく男性陣が赤い衣裳を着けて踊る部分が強烈な印象を残した。ここでもジュリアン・ファヴローが主要な役を踊って存在感があった。しかしながら最も素晴らしいダンスを披露したのは、「三つのバラ」のパートを踊ったエリザベット・ロスである。はっきり言ってルックスは男装の麗人みたいで、美しいとは言い難い人なのだが、そのダンスの瞬発力のあるダンスには目を見張るものがあった。足を上げるだけでも、他のダンサーとは全くスピードが違うし、しかも足に表情や意志があるのが感じられるのである。ダンスでこれだけ多くの事を思い出させる人も珍しい。前日は「ボレロ」のメロディを踊ったらしいが、確かにベジャールが大役を任せるにふさわしい技量を持った人だと納得させた。とにかく踊りの次元が全く違うのである。驚いた。

 休憩をはさんで「ボレロ」である。メロディはキューバ出身のカトリーヌ・ズアナバールという女性ダンサー。天使は観る機会がいくらもあったのに、ジョルジュ・ドンとシルヴィ・ギエムの「ボレロ」以外は観ていない。もうギエムは「ボレロ」を封印してしまったし…。追悼だからと自分に言い聞かせて観ることにした。来年の公演でギエムは封印を解くらしいけれど…。だから特別なダンサーだけが踊るものと思っていたから、求心力の足りないダンサーの「ボレロ」は正直なところ、何を観ても物足りない。後半になるにつれ、疲れたのかダンスにキレがなくなっていくのがわかるようなダンサーには踊って欲しくないのである。最後に赤い円卓の上に押し寄せるのは舞台上のダンサーだけではない、何千という観客の魂をも吸い寄せることのできるようなダンサーでなければ、凡庸な作品になってしまうのだと痛感させられた。90年代になって人気の「ボレロ」の上演を制限するようになったのも無理がないことだと思った。

 カトリーヌ・ズアナバールのメロディは強靱な肉体を駆使するギエムとは対極にあるような役作りで面白くは観たが、天使の趣味ではなかったといったところだろうか。普段はメロディ以外は目に入らないのだが、またまたジュリアン・ファヴローばかり観ていたような気がする。それにしてもカーテンコール時に気がついたのだが、エキストラの日本男性陣のベジャールの趣味とはあまりにかけ離れたルックスにがっかり。泣きたくなった。ベジャールがいて目を光らせていれば、こんな無残な光景は目にすることがなかたであろう。特に若いイケメンばかりだと思ったら、どうみてもオヤジがいた。しかもメタボ一歩手前の身体の線が見事に崩れてしまった悲惨なプロポーション。昔と違って上半身裸なので、一目瞭然。悲しくて悲しくて、早々に劇場を後にした。これからベジャールの作品は誰が守っていくというのだろうか?大いに心配になってきた。

2008-06-12 23:09
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美女と野獣 英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 2008年日本公演 初日 [バレエ]2008-01-07 [バレエ アーカイブス]

 東京文化会館の玄関には門松が立っていた。初めて見たけれど、なるほどまだ松の内なのである。以前はサドラーズ・ウエールズ・ロイヤルバレエ団といっていた英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の13年ぶりの来日公演。初日を飾ったのは2003年12月1日に本拠地で初演されたバレエ団のデビット・ビントリーの振付による新作『美女と野獣』である。初日にキャスティングされていたエリシャ・ウイルスが負傷したため、急遽二日目に踊る予定だった佐久間奈緒がベルを踊ることになった。彼女にとっては故郷に錦を飾るという結果になって感激も一入だったことだろうと思う。

 ジャン・コクトーの映画や最近ではディズニーのアニメやミュージカルで有名な作品である。コクトーの映画やアニメはもちろん、ブロードウエイでの公演や劇団四季の舞台なども観ている。クリスマスシーズン向けの作品とはいえ、さすがに演劇の国のバレエらしく、マイムを多く取り入れ、音楽は途切れることなく、振付も連続していて拍手のタイミングすら存在しない古典バレエとは一線を画す構成の内容だった。それにお子様向けとは簡単に言えないような暗いムードが独特。ディズニーのような明るさは皆無といってよい。最後はいくらなんでもスモーク焚きすぎのような感じがしたけれど。

 舞台奥にドアのある森の装置を基本として、観音開きの左右の壁の内側と外側を交互にみせることで野獣の屋敷と森を表現して、ベルの家をリボン状の布の吊物によって上下させることで素早い舞台転換を可能にしていた。さらに幻惑的な照明の力によって、魔法のように色々なものが登場したり消えたりと、さすがに21世紀に誕生したバレエの新作と感心させられた。

 幕が上がるとプロローグでベルが書斎の見上げるような書棚から一冊の本を取り出そうとしている静止したポーズから始まる。そこから現実と夢が混ざりあったように物語が展開。王子や狐を変身させる不思議な力を持った木こりが登場。杖を持っているので片眼だったら指環のヴォータンみたいだった。

 快調な滑り出しにみえた物語も第1幕の第1場は登場人物の説明的な部分が多くて少し退屈させられた。バレエの物語につきものの意地悪な姉二人。さらに豚の鼻を持った金貸しといった面白そうなキャラクターが出てくる割には、最後まで活躍の場が少なくて、笑いの部分は最小限にとどまった感じ。徹底的な悪役が登場しない舞台だけに彼らがもっと活躍してくれないと、ベルが意地悪されて野獣の館に約束の時間までに戻れないという肝心の所がはっきりしなくなってしまった。もっとも前半の退屈を最小限に抑えようということであれば肯けない処理ではないのだが…。

 俄然面白くなるのは、ベルの父親が野獣の館に迷い込み、一輪のバラを手折ることで野獣の逆鱗に触れる第1幕第2場のあたりから。一気呵成に物語が進展し、ベルがカラス達に導かれて野獣の館に連れられていくまでを目まぐるしいほどのスピードでみせていく。特にカラスたちの振付が秀逸で、人数は決して多くないのに迫力とヴォリューム感があって楽しめた。

 25分と長めの休憩が終わり、第2幕となると野獣たちの舞踏会から始まって、もっと速度は増して、王子と結ばれるハッピーエンドまでアッという間に終わってしまった。まるで絵本を次々にめくっていくような具合である。休憩を入れて2時間少々とお子様でも耐えられる長さという命題があったにしても、もう少し深みが欲しいように思った。ベルと野獣がお互いに惹かれあうまでが、あっけなくて単に物語の筋を通しただけに終わったのが惜しかった。そのあたりが不明瞭なので野獣が王子の姿に戻ってから、ベルが王子に心を寄せるまでが引き立たないのである。

 それでもソリスト達はそれぞれ好演していて、佐久間奈緒も初恋に揺れ動く少女の心情をよく表現していたと思う。野獣役のイアン・マッケイも仮面に着ぐるみという姿で、よく野獣の満たされない心を表現していた。また日本人のソリスト雌狐の平田桃子、カラスの山本康介も日本の観客にその実力をしめして多くの拍手を集めていた。

2008年1月6日(日) 17時開演 東京文化会館


音楽: グレン・ビュアー
振付:デヴィッド・ビントリー
装置・衣裳:フィリップ・プロウズ
照明: マーク・ジョナサン

ベル: 佐久間奈緒
野獣:イアン・マッケイ
ベルの父親(商人): デヴィッド・モース
ベルの姉 フィエール: ヴィクトリア・マール
ベルの姉 ヴァニテ: シルヴィア・ヒメネス
ムッシュー・コション: ドミニク・アントヌッチ
ワイルド・ガール: アンブラ・ヴァッロ
雌狐: 平田桃子
カラス:山本康介
木こり: ジョナサン・ペイン
差し押さえ執行官: ジェームズ・グランディ
収税吏:ジョナサン・ペイン
祖母: マリオン・テイト

◇タイムテーブル◇
第1幕 休憩 第2幕
17:00 - 17:55 25分 18:20 - 19:10

2008-01-07 00:00
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くるみ割り人形 新国立劇場 千秋楽 [バレエ]2007-12-25 [バレエ アーカイブス]

 12月25日のクリスマス公演。開演前から、劇場周辺の飲食店にはちょっと着飾った感じのお子様がチラホラ。中には七五三?かと思うようなドレスをお召しのお嬢様もいて、オペラの公演とはまったく違った雰囲気の劇場になってた。中にはロビーで踊りだしてしまう子もいて、いつもながらの年末のバレエ公演の風景。入口では花王提供のアイマスクがプレゼント?され、ロビーにはお子様向けのメイクコーナーが…。ほとんどがネイルに何か描いてもらう感じなのだが、最初はお客がいなかったからか、20年前のお嬢様もずうずうしく念入りにやっていた。さすがに40年前お嬢様?の天使の出る幕はなかったので、遠くから眺めるだけだったが幕間も大盛況。新国立劇場もなかなかお嬢様方のハートを掴む術を心得ていて感心。

 今回のこの公演。主役を踊るのは全幕の主役デビューという堀口純と冨川祐樹のフレッシュコンビ。世界的なバレリーナの公演と並んでの若手の起用は、バレエ団としてはなかなか真っ当な選択。いつまでも主役を手放さない(手放せない?)還暦バレリーナの某バレエ団の一連公演から比べればズッとまし。必死で踊るのが客席にまで伝わってきて、別の意味で感動を呼んだ。体力的にも、技術的にも、課題は多かったが、何事も最初の一歩がなければ進まないわけで、バレエ研修所出身のソリストの誕生は喜ばしいこと。

 同じオーケストラを使うにしても、新国立劇場だけあって、東京フィルハーモニーがオーケストラピットに入って、やはり民間のバレエ団の公演とは音楽の充実度が違っていた。序曲から最終幕まで緩みのない音楽が奏せられていたと思う。渡邊一正の指揮は、ソリストのダンスのテンポに合わせるため、遅くなってしまう場面もあったが、バレエの伴奏といったレベルをはるかに越えていて満足。

 さて第1幕の前半は、ドロッセルマイヤーの活躍など本当は面白い場面が盛り沢山なのだが、いまひとつ盛り上がりに欠けていたように思う。コールドバレエに埋もれてしまうようなオーラ皆無のマーシャを踊った堀口が主な原因だと思うのだが、退屈の極み。これがヴィシニョーワだったら…。とか想像せずにいられないのは仕方がない。お隣のお座りのお坊ちゃまは、場面毎にストーリーが繋がっていかないのがご不満のようでママに抗議していた。

 ぐっと面白くなるのは、ねずみの王様とくるみ割り人形の闘いになる後半からだった。ここでの発見は王子を演じた冨川に意外にも気品があったこと。この味はなかなか貴重だと思った。雪の精たちは、見事に揃っていて美しいし、大いに盛り上がって満足。お隣のおぼちゃまもここからは退屈していなかった模様。

 お待ちかねの第2幕のディヴェルティスマンは、なかなかレベルが高く楽しめた。特に東洋の優美さ、中国の目の覚めるような跳躍、トレパックの躍動感、パ・ド・トロワの雅など、お隣のお子様は「イッツ・ア・スモール・ワールドみたい」と素直な感想をママに耳打ちしていて感心。ちゃんと観るところは観ているみたいである。

 肝心のパ・ド・ドゥは、息切れしたしまったり不安定な部分もなくはなかったが、初登場としては合格点で今後に期待したい。最後はマーシャが夢から覚めてくるみ割り人形を捧げる場面で幕となった。終わって外に出れば、そろそろクリスマスイルミネーションが輝きを増す頃で、お子様達には楽しいクリスマスになったことと思う。

2007年12月25日 14時開演 16時5分終演予定

【マーシャ】堀口 純
【王子】冨川祐樹
【ドロッセルマイヤー】ゲンナーディ・イリイン
【シュタリバウム】貝川鐵夫
【シュタリバウム夫人】湯川麻美子
【フランツ】大和雅美
【道化】吉本泰久
【人形】小野絢子
【黒人】マイレン・トレウバエフ
【ねずみの王様】市川 透
【くるみ割り人形】八幡顕光
【スペイン】西川貴子、市川 透
【東洋】楠元郁子
【中国】西山裕子、福田圭吾
【トレパック】遠藤睦子 本島美和 貝川鐵夫
【パ・ド・トロワ】高橋有里 さいとう美帆 グレゴリー・バリノフ
【ばらのワルツ】
寺島ひろみ 真忠久美子 川村真樹 厚木三杏
中村 誠 陳 秀介 江本 拓 マイレン・トレウバエフ

2007-12-25 23:24
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シルヴィ・ギエム 進化する伝説 〈Bプロ〉 東京文化会館 初日 [バレエ]2007-12-14 [バレエ アーカイブス]

 ただいまシルヴィ・ギエムは全国縦断公演中。Bプロの初日を観て大きな衝撃を受け、20日の大阪フェスティバルホールへ駆けつけるべきかどうか迷っている。もちろん「TWO」を観るためである。たぶん次回の世界バレエフェスティバルでも踊るだろうけれど、神の領域へ踏み込んだような“今”のシルヴィ・ギエムを心に深く刻みつけておきたい気がする。しかもチケットは残っているようだし…。今週末は京都へ顔見世を観に行くので、さすがに1週間のうちに関西まで往復は無理かな?残念、残念。でも…。

 東京バレエ団の「カルメン」は、このところ抱き合わせの演目として何度も登場するし、カルメンが斉藤友佳里、エスカミーリョが高岸直樹ということで、あまり食指の動かない演目だった。思った通り、斉藤はカルメンとしては鋭さ妖艶さが足りなく思えたし、高岸にいたっては身体が重そうで観ていて辛かった。唯一の救いはホセを踊った大嶋正樹。首藤の持ち役を継いだ逸材だけのことはあると思っていたら、12日の「シンフォニー・イン・D」で大けがをしてしまったらしい。

東京バレエ団のHPでは、

東京バレエ団 大嶋正樹の怪我について
12月11日(火) <シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2007>「進化する伝説」公演におきまして、「シンフォニー・イン・D」の上演中に、東京バレエ団プリンシパル大嶋正樹が舞台上で怪我をしたため、途中降板いたしました。

公演中の怪我ということもあり、観客の皆様からお問い合わせ、ご心配をいただいておりますが、大嶋は左脛骨骨折と診断され、現在入院治療中です。復帰の時期は現時点では未定であり、今後の<シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2007>の全国縦断公演には大嶋正樹は出演することができなくなりました。よって、12月15日(土)の神奈川県民ホールでの「カルメン」のホセは、大嶋に代わり木村和夫が出演いたします。何卒ご了承ください。

といたって深刻な状況らしい。残念である。

 休憩後、待ちに待った「椿姫」(第3幕よりパ・ド・ドゥ)である。ニコラ・ル・リッシュとの息もあい、狂おしく、切なく、そして肉体の結びつきも美しく表現していて素晴らしい。そして、ここでもギエムの肉体に積み重ねられた「時」が、並のダンサーとは次元のことなる深い感動を呼び起こした。ギエム自身は、同じ題材の「マルグリットとアルマン」をすでに踊っているが、ノイマイヤーが振付した「椿姫」を完璧なまでに演じてみせて全幕での上演が待たれる。たぶん無理だろうが…。それにしても新国の「椿姫」の時代錯誤ぶりと創造力のなさを今さらながら思い知らされる。30年前の作品の方が、瑞々しい感覚にあふれているとは、どうなんだろう。あまりに違いすぎる。

 続いてキリアンの「シンフォニー・イン・D」である。目の前のお席で、それまで退屈そうにしていたお嬢ちゃんが、この演目だけはキャ、キャと喜んで観ていた。子供は正直である。面白いものには、正直に反応する。何度も観ているはずなのに、次は何が起きるのかとハラハラ、ドキドキしながら楽しみながら観られたのが何より。軽々と演じ、踊っているように見えたが、翌日の公演で大嶋正樹が大怪我をしてしまったくらいなので、実は踊るのは困難な作品だったということか。苦しくてもニコニコと踊っているダンサーたちは偉い!

 「TWO」に関しては、もう書いてしまったので、特に書かないが、あのギエムの魂が空間を切り裂いていくような感覚があった舞台に今でも震えがくるほど感動している。こんなに感動が長引くのも珍しい。

 そして「PUSH」である。今回の一連の公演では二度目だが、「TWO」の後だけに、Aプロ初日より感動は深かった。二人の気持ちのが、寄り添ったり離れたりと、身体の接触よりも、心の動きが伝わってきて、さらに深い世界へ観客を導いてくれたような気がする。二人で踊り込んでいくうちに、どんどん進化していくのではないだろうか。ここでは「愛」が主役。「椿姫」のように、具象的でなく抽象的な表現で、感情の揺れを綴っていくのは見事だった。永遠に終わりがこないのではないか…。と思った途端に終わったのは、観客の心を読み切った演出家の勝利といったところだろうか。

2007年12月10日(月)、11日(火)6:30 pm 会場:東京文化会館

カルメン

振付:アルベルト・アロンソ
音楽:ジョルジュ・ビゼー/ロディオン・シチェドリン

カルメン:
ホセ:
エスカミリオ:
ツニガ:
運命(牛):
女性ソリスト:
斎藤友佳理(10日)/上野水香(11日)
大嶋正樹(10日)/木村和夫(11日)
高岸直樹(10日)/後藤晴雄(11日)
後藤晴雄(10日)/平野玲(11日)
奈良春夏(10日)/高木綾(11日)
小出領子‐高村順子(10日)/
長谷川智佳子‐西村真由美(11日)

ほか、東京バレエ団

椿姫 第3幕よりパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー  音楽:フレデリック・ショパン

シルヴィ・ギエム  ニコラ・ルリッシュ

ピアノ:高岸浩子

シンフォニー・イン・D
振付:イリ・キリアン  音楽:ヨーゼフ・ハイドン

井脇幸江‐長谷川智佳子‐西村真由美‐乾友子‐佐伯知香‐高木綾‐田中結子‐阪井麻美(10日)/
井脇幸江‐小出領子‐高村順子‐奈良春夏‐森志織‐田中結子‐前川美智子‐吉川留衣(11日)
中島周‐高橋竜太‐古川和則‐平野玲‐松下裕次‐野辺誠治‐小笠原亮‐宮本祐宜(10日)/
大嶋正樹‐中島周‐松下裕次‐鈴木淳矢‐氷室友‐長瀬直義‐横内国弘‐梅澤紘貴(11日)

Two
振付:ラッセル・マリファント  音楽:アンディ・カウトン

シルヴィ・ギエム

Push
振付:ラッセル・マリファント  音楽:アンディ・カウトン

シルヴィ・ギエム  ラッセル・マリファント

※音楽は特別録音によるテープを使用いたします。

カルメン 休憩 椿姫 – シンフォニー・イン・D – Two 休憩 Push
18:30 - 19:15 15分 19:30 - 20:15 20分 20:35 - 21:05

2007-12-14 23:53
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シルヴィ・ギエムのTWO 伝説の舞台へ! [バレエ]2007-12-11 [バレエ アーカイブス]

 もう昨日のことになるのに、忘れられない強烈な印象を残したシルヴィ・ギエムの「TWO」。Bプロで2回(追記:東京では)踊られるだけで、11日の公演も終わった頃だろうけれど、ここ数年で一番凄い物を観てしまったという感じ…。昼は国立劇場で歌舞伎、その他の演目についても書かなければと思うのだが、当分の間、書くのは無理かもしれない。圧倒された。

 2004年の日本ツアーで初めて観て、第11回の世界バレエフェスティバルでも踊られていて、実は今回の一連の公演でも一番楽しみにしていた演目である。しかも振付家のマリファントも来日しているので、よけいに密度の濃い舞台になったようである。運良く舞台に近い席がとれて、細かなところまでよく観られたが、こんなに細かく繊細な振付がなされていたとは初めて知った。普段は「ブラボー」なんて叫ばないのだが、終わった途端に自然と口から出てしまった。でも立ち上がれなかった。スタンディングオベーションしたくても、押さえつけ圧倒しようとする力を感じた。こんなことがあるんだ!不思議な経験だった。何度かのカーテンコールに夢中で拍手していたが、休憩になってロビーへ向かう階段を上りながら、後髪をひかれるというか、総毛立つというか、鳥肌がたつというか、物凄いオーラが舞台方向から襲ってきた。もう舞台には深紅のオペラカーテンが降りているというのに…。まだ客席にはギエムの凄まじいまでの集中力が漂っているようだった。

 おかげでロビーのソファに倒れこんでしまって、しばらく動くことができなかった。感動とか興奮を突き抜けて、とてつもないモノに触れてしまったような想い。もし舞踊の神様がいたならば、間違いなくギエムの所に降臨していたと思う。天の岩戸の前で踊った天宇受賣命、または芸能の神である伎藝天かもししれない。とにかくしばらくの間、放心状態だった。ひょとしてこれが劇場の天使?永年の間、待ち望んでいた劇場の天使が舞い降りてきたのかも…。

 マリファント振付の「TWO」はわずか1メートル四方の空間にギエムが立つ。ゆるやかな音楽にあわせ、身体を折り、手をゆっくり身体に絡ませていく。手がまるで別の生き物のように。ダンスとはいいながら、跳躍も回転も封じられてしまいギエムにも挑戦しがいのある演目だったに違いない。

 やがてテンポの早い音楽に変わると、手の先だけに当たる照明、足の先に当たる照明の効果のおかげで、手や足先が、まるで光りの矢のようになってギエムの周囲を自由に動き回るように見えた。とても人間業とは思えない、そして単なる趣向だけに終わらずに、心の奥底まで響き、伝わってくるものがあった。人間とは何か?自分とは何か?そんな重くて深い問いをつきつけられたような気がした。心が粒だち、ざわざわとさざ波が立って、いてもたってもいられないような気になってきた。

 10日と11日の両日、東京文化会館に集った観客は世界一幸福な人であったかもしれない。もし次に彼女の「TWO」を観る機会があったなら、万難を排してギエムのもとに駆けつけるべし。ギエムの伝説の舞台になるのではあるまいか。うん?気がつけば、12月20日の大阪フェスティバルホールはBプロじゃないか!本気で大阪へ行くべきかどうか迷っています。


2007-12-11 22:06
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シルヴィ・ギエム、進化する伝説〈Aプロ〉 シルヴィ・ギエム・オンステージ2007 東京バレエ団全国縦断公演 [バレエ]2007-12-08 [バレエ アーカイブス]

 東京文化会館のホワイエには、子猫を口元にしたベジャールの巨大なポートレートが…。白い花で飾られた写真パネルの隣には、彼が晩年によく口ずさんでいたボードレールの「旅」という詩が献呈されていた。

おお、「死」よ、老船長よ

時は来た!

錨をあげよう!

    -ボードレール-

シルヴィ・ギエムとも東京バレエ団とも特別に親密な関係にあったベジャールの死を悼んでのことだと思う。自分の席へ着くまで涙が止まらなくて困った。NBSの佐々木氏も杖を手にしていて少々ショック!いつの間にか「時」は流れていっているようである。14時開演で16時過ぎには終演。都美術館へ行ってボストン美術館展を観て、西洋美術館の前庭のイルミネーションを見物して、東京文化会館の楽屋口をのぞいてビックリ。もう終演から1時間半以上も経過しているのに、サインをもらおうと大行列があった。しかもサインするかしないかわからないというのに。楽屋口から出てきた中年の白人女性が「彼女はマッサージ中なのよ」と教えてくれた。さすがに身体のケアが最優先のようである。サインをもらうつもりもなく楽屋口を離れたが、2時間近く待ってサインはもらえたのだろうか?

「白鳥の湖 第2幕より」前回の世界バレエフェスティバルのガラ公演でのみ踊ったギエムのオデット。幸運にもチケットが手に入った2300名の観客に感動を与えた舞台だった。そのとき天使はこう書いている。

古典の全幕を踊らなくなったシルヴィ・ギエムの「白鳥の湖 第2幕より」も最後になったでしょう。かつてはキューバのヴィエングセイ・ヴァルデスとロメロ・フロメタのように超絶技巧を駆使したこともあったが、今日のギエムの踊りは全く違う次元のものだった。痛ましいほどの美しさ、儚げで傷つきやすい美しさ、踊り手とは何と深い境地まで観客を導いてくれることでしょう。心底感動しました。

 ギエムが登場した途端、その鍛え上げられ、無駄な部分が削ぎ落とされたような肉体に、まず感動してしまった。この境地に至るまでどれほどの努力を重ねたことだろう。パリ・オペラ座バレエ学校公演は別にして、1985年にヌレエフと踊って日本デビューを飾った記念碑的作品である。残念ながら天使はその時の舞台を観ていないが、今日の客席には少なからず彼女をズッと見つめ続けた観客がいたように思う。ガラ公演の時と同様に、あるいはそれ以上に彼女のダンサーとしての歴史を刻み込んだような肉体でしか表現できない深さに感嘆させられた。彼女とともに歩んだ「時」を誇りに思いたい。

 20分のいささか短い演目が終わると15分の休憩。東京バレエ団によるイリ・キリアン振付による「ステピング・ストーンズ」最初は鋭さが足りないのではと懸念されたダンサー達も踊り進むにつれ熱を帯びてきて好演。丸い穴が開いたような三角定規状の天井?が上下し、照明が工夫されていて面白かった。バレエには珍しく、横の動きが多くて新鮮。こんなに素晴らしいレパートリーを持ちながら上演の機会がなかなか無いとは残念である。

 そして同じイリ・キリアン振付の「優しい嘘」かつて世界バレエフェスティバルでも披露された演目である。短いが研ぎ澄まされた鋭さ、表現の深さは、東京バレエ団のソリスト達の比ではない。白鳥の湖につづいてニコラ・ル・リッシュの好サポートもあって高水準の舞台となった。大満足である。

 さらに最後は今回の目玉である振付をしたマリファントと共演した「Push」である。2005年の最後のボレロと題された公演でもマッシモ・ムッルと踊っている。そのときの感想は以下の通り。その時も2回観たらしいからギエムお気に入りの演目に違いない。

 「PUSH」は二回目なのに初めて観るかのように、とっても新鮮に感じた。随所に新しい発見があり刺激的な演目となった。緩慢に動いているようにみせて、人間技とも思えないようなスピード感に満ちた動きが挿入されていたりと一瞬たりとも目が離せない。絡み合っては離れ、離れては絡み合うギエムの姿に感じたのは、恐ろしいほどの「孤独」である。身体は接触していても心は乖離してしまっている…。そんな二人にみえた。それが間違いなのか正解なのか?そんなことを追求することなどバレエではまったく無意味である。謎解きはいらない。自分自身で何を感じたかが一番大切なことだと思う。永遠に続くかと思われたバレエも終わりを迎えて、心の奥底からジワリとこみ上げてくるものがあった。ギエムの「孤独」は自分自身の「孤独」でもあると思えてならなかった。二人の間に必ずあると思っている「絆」の脆くて失いやすいことを身体を使って表現してくれたに違いない。

 そして今回は、照明の力もあったのか二人が囚われ人のように思えてならなかった。それは何か?「時」ではないのか?そんな想いが駆けめぐっていた。月曜日に大好きな「TWO」とともにもう一度見ることができる。もっともっと作品の中に沈んでみたい。強い強い願いである。

2007年12月8日(土)、9日(日) 2:00 pm 会場:東京文化会館

白鳥の湖 第2幕より  14:00~14:20

振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ、アレクサンドル・ゴールスキー、イーゴリ・スミルノフ
音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー


オデット:
ジークフリート王子:
白鳥たち:
シルヴィ・ギエム
ニコラ・ル・リッシュ
佐伯知香‐森志織‐福田ゆかり‐阪井麻美)
西村真由美‐高木綾‐奈良春夏


ほか、東京バレエ団

休憩15分


ステッピング・ストーンズ 14:35~15:05(2演目 途中4分舞台転換)
振付:イリ・キリアン  音楽:ジョン・ケージ、アントン・ウェーベルン

井脇幸江‐小出領子‐長谷川智佳子‐奈良春夏

木村和夫‐後藤晴雄‐中島周‐平野玲

優しい嘘
振付:イリ・キリアン  音楽:クラウディオ・モンテヴェルディ、カルロ・ジェズアルド、グレゴリオ聖歌

シルヴィ・ギエム  ニコラ・ルリッシュ

休憩20分


Push 15:25~15:55
振付:ラッセル・マリファント  音楽:アンディ・カウトン

シルヴィ・ギエム  ラッセル・マリファント


2007-12-08 23:59
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モーリス・ベジャールの死 [バレエ]2007-11-23 [バレエ アーカイブス]

 モーリス・ベジャールが亡くなった。 エロスとタナトス。愛と死。そんな言葉が似合う人だった。

「春の祭典」「ボレロ」…「バレエ・フォー・ライフ」などの傑作。ときとして勘違いとしか思えないような作品もあったけれど、やはり20世紀を代表する偉大な振付家だった。

 高校の演劇部の部室にあった演劇雑誌で「春の祭典」の写真を観たのが最初の出会い。最後の有名な場面。「いつかは観たい…」と思ったけれど、実際に観るまでには10年以上もかかってしまって…。

 忘れられないのは「バレエ・フォー・ライフ」日本初演の横浜での初日。カ-テンコールに登場したベジャールに場内はスタンディング・オベーションで応えた。全員が一斉に。今時の「なんちゃってスタオベ」とは違い、感動に包まれたからこそ自然に発生した反応だった。その頃、スタオベ自体が珍しかった。

 終演後、中華街には繰り出さずに、ニューグランドのイタリアンで食事をしていると、NBSの関係者とともにベジャールが現れた。思わず起ち上がって静かな拍手。嬉しそうに微笑んでくれたベジャールの瞳の美しさは今も忘れられない。あの人の心の奥底まで入り込んでしまいそうな神秘的な目。そして美少年といることが誰よりも似合った人。

ああ、どうぞ安らかに。歌右衛門、猿之助、玉三郎とも親しかった彼は輪廻転生を信じていたみたいだから、きっと東洋のどこかで生まれる変わるのかもしれない。なにしろ前世は江戸時代の歌舞伎役者だったらしいので…。

 ありがとう。本当にありがとう。あなたのおかげで、どんなに豊かな人生になったことでしょう。ご冥福を心からお祈りいたします。


2007-11-23 01:16
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牧阿佐美の椿姫 新国立劇場 [バレエ]2007-11-05 [バレエ アーカイブス]

「牧阿佐美の椿姫」と正式に題名に謳われているようである。そこで気がつくべきだったんだけれど…。新国立劇場の2007/2008バレエシーズンの新制作の初日にでかける。お目当ては、もちろんザハロワである。彼女がいなければ成立しないような舞台ではなかったろうか。

 それにしても原作者のアレクサンドル・デュマ・フィスが活躍した時代のベルリオ-ズの音楽が全編に流れるという趣向だが場面は全部ヴェルディの「椿姫」と同じ。ヒロインはマルグリットなのかヴィオレッタなのか途中から混乱した。この物語がオペラを知らない人にも理解できたかどうかが疑問。同じく同時代の画家モネの作品をモチーフした舞台美術など美しくはあった。演出家・振付家の意図したことは判る。でも毒がなさすぎで表面的な美しさだけが強調されてしまって、あまりに保守的な演出と振付で、とても21世紀に生まれた作品だとは思えなかった。

 いろいろな音楽をつぎはぎして作品をしあげるのはバレエの常套手段ではある。だが本当にベルリオーズでよかったのかどうか。ほとんどヴェルディのオペラをなぞっただけの物語の展開である。何故ヴェルディでは駄目なのか?単なるBGMのようになってしまって音楽、バレエ双方にとって不幸な出会いになってしまったと思う。

 25分の休憩時間を含めて全体が2時間の上演時間という短さ。そこにマルグリットの物語をバレエで展開しようというのだから、勢い凝縮したというか場面場面をしっかり造ったというよりも照明の力を借りて小器用にまとめたという感じである。

 それにしても牧阿佐美はいつからプティパになってしまったんだろう?第2幕の冒頭は何とディヴェルティスマンが挿入されているのである。事前にプログラムを読んでいなかったので、ただただ驚くというか呆れたというか。21世紀に生まれた作品。しかも「椿姫」に何故ソリストやコール・ド・バレエの見せ場が必要なのか理解に苦しむ。それもひらめきの無い振付で、もう少し観ている方にも余裕が感じられるような目まぐるしいものではないものをお願いしたかった。舞踏会という設定なのでありなのかもしれないが、もっと作品の主題に肉薄するような毒があってもよかったのではないだろうか。

 結局、正味1時間足らずの中に物語を展開するのでオペラのダイジェスト版のようになってしまって楽しめなかった。ひたすらザハロワのダンスを追っていた。とにかく美しくしなやかなバレエである。盛り沢山な割には内容が空虚な振付が多く芝居がしづらかっただろうと同情する。

 唯一感心したのは、アルマンの父に高級娼婦であるということを叱責される?場面。舞台奥にアルマンの父。手前にマルグリットが座り、その間をマルグリットの過去の男達が通り過ぎるという場面。マルグリットの過去が露わになる秀逸で後の伏線にもなる工夫で、そこだけは感心した。それ以外は……。

 後は表現においてオペラに完全に負けたバレエとなってしまったようである。マルグリットの過去、現在、未来など大胆に表現したり、アルマンの親子関係を強調するなど、方法はいくらもあるだろうにオペラの二番煎じというのはいただけなかった。もっと人間と正面から深く向き合うべきである。そうすれば、こんあ駄作バレエはできあがらなかったと思う。世界に向けて新制作を発信など10年早い。今はまだまだ基礎固めの時期ではないのだろうか。芸術監督としては有名バレエ作品の改訂演出ではなく、自分の名を冠した新作を出したかったのであろう。これだけの規模の作品は民間では難しいのは確かである。でもお金のかかる新制作はご自分のバレエ団でどうぞとおすすめしたい。わずかしかない今シーズンのバレエ演目に加えたい作品は他にいくらでもあるではないか。

スタッフ
【演出・振付】牧 阿佐美
【音楽】エクトール・ベルリオーズ
【編曲・指揮】エルマノ・フローリオ
【舞台装置・衣裳】ルイザ・スピナテッリ
【照明】沢田 祐二
【舞台監督】森岡 肇
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【シリーズ協賛】花王株式会社/コスモ石油株式会社
【主催】文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場


キャスト

【マルグリット・ゴーティエ】
スヴェトラーナ・ザハロワ
【アルマン・デュヴァル】
デニス・マトヴィエンコ
【デュヴァル卿(アルマンの父)】
ゲンナーディ・イリイン
【伯爵】
ロバート・テューズリー
【プリュダンス】
西川貴子
【ガストン】
イルギス・ガリムーリン

2007-11-05 02:02
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Bプロ マリインスキーバレエ&ボリショイ・バレエ 合同ガラ公演 [バレエ]2007-09-02 [バレエ アーカイブス]

 会場で配布しているプログラムにはマリインスキー&ボリショイとなっていた。Aプロはボリショイ&マリインスキーと登場順なので、歌舞伎と同じように順列に気を配った結果かと思わず感心してしまった。和気藹々の催しかと思ったらけっこう火花が散っていたようである。カーテンコールはやはりロパートキナが中心で、その隣にアレクサンドロワとそれぞれの団体の大看板と看板スターが揃った。でも全然二人は視線をあわせないのである。しかも指揮者を呼びにいく順番をアレクサンドロワが間違って、ロパートキナの前を遮ってしまったときのロパートキナが顔は微笑んでいるけれど目が笑っていなかった。口元が動いていたから何か言っていたのかもしれない。アレクサンドロワも何か言い返していたから険悪な空気が流れた模様…。こわ~い。

 今回の公演で感心したのは東京ニューシティ管弦楽団。過酷なスケジュールにもかかわらず健闘していたように思う。劇場自体の響きも良いし好印象。舞台の間口は文化会館や簡易保険ホールに比べればひとまわり狭いけれど、奥行きは一番あるのでいつもと違った感じで新鮮だった。視覚的にも身切れる席があるにはせよなかなか観やすい劇場だということに改めて気づかされた。今シーズンの開幕を飾るのが貸し劇場というのも???なのだけれど条件の良い劇場でバレエが楽しめるなら文句は無いけれど…。

 Aプロでは超絶技巧を繰り出し続けたマリインスキーが圧勝という感じだったが、Bプロは最後の「ドン・キホーテ」のアレクサンドロワとフィーリンの貫禄勝ちといったところだった。超絶技巧だけなら他のカップルの方が凄いのだけれど、バレエを観る楽しみはそれだけではないと教えてくれたような感じ。やはりバレエダンサーには存在感がないと味気ないものになってしまうのである。それこそロパートキナは別格な存在で全体の公演を支配していたように思う。

さて簡単な感想は以下の通り。

≪アルレキナーダ≫
<プティパ振付/ドリゴ音楽>
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ&アントン・コールサコフ


たぶんイタリアの即興喜劇をモチーフにした作品。プティパの埋もれた作品を上演というのが取り柄だろうか。

≪病める薔薇≫
<ローラン・プティ振付/グスタフ・マーラー音楽>
ウリヤーナ・ロパートキナ&イワン・コズロフ

これも期待の作品だった。プリセツカヤに選ばれたロパートキナなので絶対に感動できると期待値が高すぎたのか肩透かし。プティとの相性が悪いのか、ただただ退屈させられてしまった。観るべきものはロパートキナの美しい肢体だけとは…。これはマーラーの第5番のアダージェットなのだがテープ演奏でしょぼかったのも一因かも。どうしてもベジャールの方を思い出してしまう。

≪眠れる森の美女≫
<プティパ振付/チャイコフスキー音楽>
アリーナ・ソーモワ&アンドリアン・ファジェーエフ

ファジェーエフはともかく、ソーモワの印象は薄い。なんとか必死についていっていますという感じで楽しめなかった。裸舞台で踊っても光り輝くような華やかさが欲しいと思った。彼らには荷が重すぎた感じ。

≪ジゼル≫
<コラーリ振付/アダン音楽>
オレシア・ノーヴィコワ&ウラジーミル・シクリャローフ

Aプロのルンキナのジゼルは???だったけれど、こちらは可憐で清楚なジゼルでよい印象。でもアルブレヒトのシャクリャローフは不安定なテクニックで急ブレーキ。

≪イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド≫
<フォーサイス振付/ウィレムス音楽>
イリーナ・ゴールプ&イーゴリ・コールプ

なんだかとっても野暮ったい「イン・ザ・ミドル…」だった。もっと鋭角な感じが欲しいと思う。フォーサイスもロシア流だとこうなるのだろうか。

≪タリスマン≫
<プティパ振付/ドリゴ音楽>
エカテリーナ・オスモールキナ&ミハイル・ロブーヒン

相変わらずの超絶技巧だけれど、さすがにAプロから通すと食傷気味で損だったかも。

≪瀕死の白鳥≫
<フォーキン振付/サン=サーンス音楽>
ウリヤーナ・ロパートキナ

ロパートキナ流の「白鳥」で美しく精神性も深い。衣裳もちょっと変わった感じで傷ついたイメージが出ていてよかった。でも虚空に伸ばされた両腕の美しさに今回も魅了された。それに彼女自身の肉体の凄味…。なかなか観られない白鳥だと思う。

≪海賊≫
<プティパ振付/ドリゴ音楽>
ヴィクトリア・テリョーシキナ&レオニード・サラファーノフ

超絶技巧がさえまくりで興奮。Aプロでは気になったサラファーノフの広い額と短髪も気にならなかった。(アニメキャラかと思った)やはりガラの「海賊」はこうでなければ…。

休憩20分

≪ばらの精≫
<フォーキン振付/ウェーバー音楽>
ニーナ・カプツォーワ&イワン・ワシーリエフ

指揮者と衣裳が変わっただけでだいぶ印象が異なった。少女役のカプツォワーワの芝居が上手いのでばらの花を手にしただけで、薔薇の香りが一気に広がった感じ。もっとも直ぐにワシリーエフの汗のニオイに変わってしまったけれど…。もっと流麗なばらの精であって欲しかった。

≪白鳥の湖 「黒鳥のパ・ド・ドゥ」≫
<グリゴローヴィチ振付/チャイコフスキー音楽>
エカテリーナ・クリサノワ&ドミートリー・グダーノフ


なかなか見せる黒鳥ではあった。ただ色気というか艶に乏しかったのが玉に瑕といったところだろうか。なんだかドラマ性も足りないようで技巧に走りすぎだったと思う。ガラ公演だからこれどもいいのだろうが…。黒鳥の羽が一本落ちた。羽ってけっこうお高いものだから…。と見当違いな心配をしてしまった。


≪スパルタクス≫
<グリゴローヴィチ振付/ハチャトリアン音楽>
スヴェトラーナ・ルンキナ&ルスラン・スクヴォルツォフ


これぞボリショイという豪快なリフト!もっともルンキナの手はしっかりスクヴォルツォワの腕を掴んでいたけれど…。

≪ライモンダ≫アダージョ
<プティパ振付/グラズノフ音楽>
ネッリ・コバヒーゼ&アルテム・シュピレフスキー

アダージョだけなので、アッという間に終わってしまった。まあ音楽と二人が輝くように美しいかったので許す。世界一美しいウドの大木という人もいるけれどAプロは良かったような…。でもあれは作品がよかったのかな?

≪ミドル・デュエット≫
<ラトマンスキー振付/ハーノン音楽>
ナターリヤ・オシポワ&アンドレイ・メルクーリエフ

パーカションを多用したロシア・アヴァンギャルドな作曲家ハーノンの音楽。現在の芸術監督のラトマンスキーの振付。なんとなくクラシックで踊るフォーサイス作品という感じがしなくもないが、幕切れ直前の極限までの緊迫感、盛り上げ方、最後の観客の突き放し方は面白く観た。

≪ドン・キホーテ≫
<ゴールスキー振付/ミンクス音楽>
マリーヤ・アレクサンドロワ&セルゲイ・フィーリン

同じ演目でもマリインスキーとは衣裳も振付も微妙に違う。当たり前だけれど。それ以上にマリインスキー組とは決定的に存在感、貫禄が違った。超絶技巧で勝負ではないところがバレエらしくて好印象。カーテンコールではさらに技巧を凝らしてはいたけれど…。

 ということで終わってみれば、この夏のグループ公演としては上出来だった。ただ一緒に両団体が舞台に立つのに単なるパ・ド・ドゥ集だったのは残念といえば残念。時間的に無理だったのだろうが、他では観られない組み合わせなんていうのがあっても良かったかも。独りだけ二演目を踊ったロパートキナと将来の大物ダンサーの卵?たちのダンスに触れられたのが収穫というところだろうか。


2007-09-02 07:07
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Aプロ ボリショイ・バレエ&マリインスキー・バレエ ロシアバレエのスターたち [バレエ]2007-09-02 [バレエ アーカイブス]

今年の夏から秋にかけてのバレエのグループ公演、マラーホフは怪我のため来日が中止になったらしいが、招聘元各社が鎬を削っての集客合戦?になったのかも。フェリ、ルグリに続いて、ジャパンアーツ主催のロシアを代表するバレエ団の合同公演である。NBSがパリ・オペラ座、英国ロイヤルバレエ。ジャパンアーツがマリインスキー・バレエと受けも持ち、このところABTとボリショイを両社が分け合うという形だったが、ABTとボリショイもジャパンアーツが専属という形になったらしく、夢の合同公演が実現した。

 もっともプリンシパルが数名なのは、フェリやルグリの公演と変わらないのだが、指揮者がそれぞれ来日し、東京ニューシティー管弦楽団ながら生のオーケストラ演奏という豪華版?というか良心的な公演となった。それ故、経費がかかったのか装置らしい装置はなく、袖幕が黒か白に変わる程度で、「ばらの精」も窓の装置は全くなし、「ジゼル」は墓標なし、とないない尽くしだったがオーケストラの威力は抜群で、バレエを心から楽しめた。

 もっとも合同公演とは言いながら、紅白歌合戦ではないから、交互ではなくAプロは前半がボリショイ、後半がマリインスキー。Bプロはその逆という具合。やはり別格の存在感を示したのがロパートキナで圧倒的。ロパートキナとその仲間?たち公演でもよかったかも。ジャパンアーツの相変わらずの強行日程で9月1日は13時からAプロ、18時半からBプロ。天使はAプロ、Bプロを続けて観たのだが、マチネとソワレの間が2時間ほどあったので初台の街を散策。銭湯をみつけて汗を流して過ごしたり快適だった。新国立劇場の周辺は意外と庶民的な街だったのを再発見。

 真剣だったのかお遊びだったのか「ドン・キホーテ」が終わってから全ダンサーが登場。ロシアの曲?に合わせて各組がそれぞれの演目のサワリを披露するという珍妙な趣向。音楽に合わない振付も当然のように存在するわけで、プティパもフォーサイスも一緒に踊らせてしまうというセンスには、ちょっとついていけないものを感じてしまった。これではバレエが単なる見世物に成り下がったという感じ。お気楽な公演なのかミスも目立つというよりもテンコ盛だったのはどうしたことだろう。日本の観客を見くびっているということは無いと信じたいが…。

 以下簡単に各演目の感想を書きます。

≪エスメラルダ≫
<プティパ振付/ドリゴ音楽>
エカテリーナ・クリサノワ&ドミートリー・グダーノフ

ボリショイ組のトップバッター。よく言えば無難な出来にとどまったというところだろうか。

≪マグリットマニア≫
<ポーソホフ振付/ベートーヴェン音楽>
ネッリ・コバヒーゼ&アルテム・シュピレフスキー


マグリットの絵から生まれたバレエ。印象的な照明と二人が別れていく幕切れに切なさを感じた。パーカションをからませた音楽が新鮮。

≪海賊≫
<プティパ振付/ドリゴ音楽>
ニーナ・カプツォーワ&アンドレイ・メルクーリエフ

第1幕の奴隷の踊りなので衣裳、振付とも地味というか印象が薄くてボリショイには損な演目だと思った。


≪ジゼル≫
<コラーリ振付/アダン音楽>
スヴェトラーナ・ルンキナ&ルスラン・スクヴォルツォフ

まるで魂のない人形のようなルンキナのジゼル。空気のように舞うのは良いのだけれど、ジゼルの哀しさ健気さは一切伝わってこなかった。


≪ファラオの娘≫
<プティパ,ラコット振付/プーニ音楽>
マリーヤ・アレクサンドロワ&セルゲイ・フィーリン


ボリショイらしい演目で主役の二人が安定した美技を披露してくれて満足。


≪パリの炎≫
<ワイノーネン振付/アサフィエフ音楽>
ナターリヤ・オシポワ&イワン・ワシーリエフ




たぶんボリショイ期待の若手なのだと思う。躍動感溢れるバレエで、「パリの炎」に望まれる超絶技巧がすべて盛り込まれた感じで満足させてくれた。

休憩20分
                             


≪ばらの精≫
<フォーキン振付/ウェーバー音楽>
イリーナ・ゴールプ&イーゴリ・コールプ

窓の装置がないので面白さは半減。イーゴリ・コールプのばらの精はちょっと病的な感じで面白く観た。

≪ヴェニスの謝肉祭≫
<プティパ振付/プーニ音楽>
エフゲーニヤ・オブラスツォーワ&ウラジーミル・シクリャローフ

ニコニコ笑っているのが、実は歯を食いしばって必死なのが伝わってくる微妙な仕上がりだった。

≪3つのグノシエンヌ≫
<マネン振付/サティ音楽>
ウリヤーナ・ロパートキナ&イワン・コズロフ

今公演の白眉。サティのピアノ曲を見事に視覚化。ロパートキナの自信のある演目だということも納得。

≪ディアナとアクテオン≫
<ワガーノワ振付/ドリゴ音楽>
エカテリーナ・オスモールキナ&ミハイル・ロブーヒン

やるべき超絶技巧はすべて盛り込みましたよという感じで満足度は高かった。ロブーヒンは、これでお気に入りになったかも。

≪グラン・パ・クラシック≫
<グゾフスキー振付/オーベール音楽>
ヴィクトリア・テリョーシキナ&アントン・コールサコフ

こちらも超絶技巧のテンコ盛でアレよアレよという間に終わってしまう。もっともっと観ていたかった。

≪チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ≫
<バランシン振付/チャイコフスキー音楽>
アリーナ・ソーモワ&アンドリアン・ファジェーエフ

さらに超絶技巧の嵐なんだけれど、やはり最後はスタミナ切れになってしまったかも。

≪瀕死の白鳥≫
<フォーキン振付/サン=サーンス音楽>
ウリヤーナ・ロパートキナ

腕をグニャグニャしない白鳥で、こちらのほうが天使の好みである。天にむかってさしのべた腕のラインの美しかったこと震えた。それに比べ身体に刻印された痛々しいまでのダンサーの肉体が心を打った。カーテンコールでオペラカーテンに激突しそうになってビックリ!事故にならなくてよかった。

≪ドン・キホーテ≫
<ゴールスキー振付/ミンクス音楽>
オレシア・ノーヴィコワ&レオニード・サラファーノフ

こちらも超絶技巧が盛り沢山で、なんだか後半はスポーツ大会みたいになってしまったかも。サラファーノフの短髪と広い額が???終わってみれば怒濤の超絶技巧のオンパレードでマリインスキーバレエの圧勝という感じだった。3時間近い上演時間だったはずだが、アッという間に終わってしまった。

カーテンコールには芸術監督も登場、でも段取りが悪いのか今ひとつ統一感に欠けていたように思う。終わってみれば今後の成長が期待される若手のバレエを沢山観られたのがよかった。


2007-09-02 00:53
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