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マリウス・プティパ版『コッペリア』全幕  日本バレエ協会公演 東京文化会館 [バレエ]

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なぜ今さら日本バレエ協会が『コッペリア』を上演したいのかわからなかった。所詮は傑作とは言い難いバレエ作品で埋もれてしまったのではないだろうか。発表会に毛が生えたような生ぬるい舞台になるのではないかと懸念していた。今となっては、その不明を恥じるほかはない。1週間前、最先端のバレエ作品であるマイヨーの『LAC~ 白鳥の湖~』が上演された同じ場所で、マリウス・プティパ版が復元上演されるとは。バレエの持つ懐の深さに感じ入った。

今回の上演の成功は、復元振付を担当したセルゲイ・ヴィハレフと指導にあたったバレエ・ミストレスの鈴木未央の力によるところが大だったと思う。特に第1幕で踊られた「マズルカ」と「チャルダッシュ」は今後の語り草になるのではと思えるほど素晴しいものだった。所詮はコールドバレエが音楽に合わせて右手を上げて、はい左手といった気合いの入らない振付で、単なる時間稼ぎぐらいだろうという先入観は見事に打ち砕かれた。

オーディションで選ばれたダンサー達は、体型で選ばれたのか、見事に揃ったプロポーションを披露してくれた。しかも、ソリスト級の高い技術を持ったダンサーが混じっているのが素人目にもわかった。さらに振付のヴィハレフの厳しい指導があったに違いないないのだが、ダンサーが極限まで身体を曲げて全体を使って懸命に踊っているのである。しかも、指揮者のバクランのちょっと早めのテンポの豊な音楽性と躍動感に満ちた音楽のおかげで、ダンサーにもその音楽の精気が伝わったようで、今まで観た中で、最も充実しているコールドバレエだった。苦しい訓練を経て、この舞台に賭けるのだという気迫が伝わってきた。みな同じバレエ団ではないので、揃って稽古するのも困難だったはずである。大きな心からの拍手を贈りたい。

そしてコールド・バレエの水準が高いので、ソリストもそれに触発されたか、かなり踊りの部分が多く、主演者は負担が大きかったはずだが、見事に踊って観客を魅了した。第2幕は、スワニルダの下村由理恵は出ずっぱりで踊りとおさなければならないが、気力で乗り切ったという感じで大いに心を動かされた。このバレエは、王子や王女が登場する作品ではなく、一般庶民が主人公である。体系的に欧米人のダンサーと比べると見劣りする日本人ダンサーも演技力やダンス力で観客を納得させるバレエが提供できるので安心してみていられるのである。相手役のフランツの芳賀 望やコッペリウスのマシモ・アクリの活躍で、さらに舞台の完成度が上がったようである。

そして第三幕。「お金」でなんでも解決という物語は安易だが、この幕にこめられた願いや祈り、そうしたものが直接伝わってきて感動的な舞台になった。現在の世界情勢や日本国内の少年が少年を殺すような殺伐とした世界に、平和を象徴するパ・ド・ドゥで締めくくられる作品が上演されるというのは非常に意義深いことだと思った。バレエ協会の薄井会長はシベリアに抑留経験があるという。戦のあとは平和をというメッセージを薄井会長はバレエを通して表現したかったのではないだろうか。

衣裳や舞台装置はNBAバレエ団の協力があったようだが、奥行と高さのある東京文化会館の舞台に良く映えて効果的だった。ソリスト陣ではフォーリーの星野姫の美しい足と思いっきりのよいジャンプがきれいに決まっていて印象に残った。さらにアレクセイ・バクラン指揮による東京ニューシティ管弦楽団の演奏もバレエ音楽の枠を超えて躍動感と繊細さを調和させた名演だったと思う。

2015年3月7日(土) 18時開演 東京文化会館

音楽:レオ・ドリーブ ほか
演出・振付:アルトゥール・サン=レオン 
改訂振付:マリウス・プティパ
復元振付:セルゲイ・ヴィハレフ

指揮:アレクセイ・バクラン
演奏:東京ニューシティ管弦楽団

芸術監督:薄井憲二
バレエ・ミストレス:鈴木未央、伊藤範子、川喜多宣子
照明:シアター・ブレーン
舞台監督:森岡 肇
衣裳・装置協力:NBAバレエ団

出演:
【スワニルダ】下村由理恵
【フランツ】芳賀 望
【コッペリウス】マシモ・アクリ
【スワニルダの友人】
綾野 友美
伊地知真波
榎本 祥子
木下 真希
高橋 静香
寺坂 史織
平尾 麻実
山口 千尋

【マズルカ】(ソリスト)
中野亜矢子、小岩井香里
田中 英幸、長清智

【チャルダッシュ】(ソリスト)
安藤 明代
奥田 慎也

【曙】
平尾 麻実

【祈り】
大山 裕子

【仕事】(ソリスト)
鈴木久美子

【結婚】(ソリスト)
佐藤 優美
澤井 秀幸

【フォーリー】
星野 姫

【戦い】
沖田貴士(ソリスト)

市橋 万樹
宮川 新大
アオチャン
五十嵐耕司

【市  長 】
小原 孝司

【神  父】
柴田 英悟

【時の神様】
柴田 英悟

【領  主】
関口 武

バレエ史において貴重なプティパ版『コッペリア』の上演

バレエ『コッペリア』は1870年、パリ・オペラ座で初演されたコミカルなバレエです。この作品はその後かなり短くカットされて上演されていましたが、1884年、ロシアでマリウス・プティパの手によってある程度元の姿に戻されました。しかしこのプティパ版も失われてしまい、今世紀になってセルゲイ・ヴィハレフによって復元されたのが今回上演するプティパ版「コッペリア」です。今日一般に流布している「コッペリア」との違いを見る上でも興味の尽きない作品となっています。

あらすじ

舞台はポーランドのある町。この町にはコッペリウスというちょっと得体の知れない老人が住んでいましたが、いつの頃からか、コッペリウスの家の2階のベランダに妙齢の乙女が現れ、座って本を読む姿が見られるようになりました。青年フランツはスワニルダという恋人がいながらこの乙女が気になって仕方がなく、こっそりコッペリウスの家に忍び込もうとします。一方スワニルダも好奇心旺盛。落ちていた鍵を使ってコッペリウスの家に忍び込んでしまいます。そこでスワニルダが目にしたのは、予想もしていなかったものでした!

NBAバレエ団「コッペリア」公演より


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