坂東三津五郎さん死去 [歌舞伎]
医療に詳しい友人からは、一般論としてすい臓がん摘出手術を受け、昨年4月に舞台復帰を果たした後、再び療養に専念していると伝えられていることは何を意味するかと聞かされていた。でも、三津五郎は別。絶対に別と信じていた。勘三郎に続き、親友の三津五郎まで死んでたまるかと思っていた。別の筋からは元気でいるという噂も聞いていたし、必ず舞台に復帰してくれるものだと信じていた。祈っていた。彼の死が歌舞伎界にとって、どれほどの損失であるか、もう想像することもできない。悲しいを通り越して言葉も出てこない。
何故、芝居の神様は、こんな酷い仕打ちをなさるのか。
渡辺保さんの近著『身体は幻』から三津五郎の「娘道成寺」について書かれた部分を採録して追悼としたい。あの素晴しい「京鹿子娘道成寺」を再び観ることのできない観客は不幸である。
ご承知の通り「娘道成寺」は歌舞伎舞踊屈指の人気曲であり、最近は何度も出る。にもかかわらず三津五郎の「娘道成寺」は久しぶりに本格的な「道成寺」を見たという感じがした。たしかに三津五郎の「道成寺」は坂東流独自のものであって、ほかの人、たとえば今日一般的な。九代目団十郎ー六代目菊五郎ー歌右衛門梅幸という系譜とは振付そのものが違う。しかし、それ以上に踊りの質が違うのである。
どう違うのか。その違いはおよそ三点ある。
その三点を渡辺先生は、三津五郎の「道成寺」がほかの人のそれと全く違うところをといい、三津五郎の芸を言い表わして考えさせる。興味のある方は是非読まれることをおすすめしたい。三津五郎は「遠くを見ている」と表現された。重い言葉だが、今となっては悲しい言葉となってしまった。
勘三郎と多くの舞台に立った三津五郎だが、コクーン歌舞伎や平成中村座への出演はなかったのではないだろうか。主に歌舞伎座の八月納涼歌舞伎での共演が印象に残っている。常に脚光を浴びる勘三郎と違って、地味な存在とも思われたが、歌舞伎にはなくてはならない人だった。
ご冥福を心からお祈りしたい。
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「残念」の一言ですね。昨年8月、歌舞伎座での「たぬき」は、いったん死んだとはいえ、生き返った大店の主人の寂しさ、悲しさを見事に表現していました。今でも忘れられません。
また、NHK朝の連続テレビ小説「おていちゃん」では、歌舞伎役者になったとはいえ、歌舞伎を捨てて映画へ移ったお兄さんを演じました。これが一番印象に残っています。
by 畑山千恵子 (2015-02-25 23:17)