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坂東三津五郎丈の逝去にあたり 吉例寿曽我 毛谷村 関の扉 二月大歌舞伎・昼の部 [歌舞伎]

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天使が今月の歌舞伎座を観たのは初日の2月2日だった。病床にあったとはいえ、7日には三津五郎はテレビ収録もこなしていたというのだから、周囲の人もまさか亡くなるとは思っていなかったことだろう。心からご冥福をお祈りしたい。かつて2月の歌舞伎座は菊五郎劇団が登場する月だった。初めて三津五郎、当時の八十助を観たのも、その菊五郎劇団の公演だったはずだ。そんな想いをこめ、今月の歌舞伎座の昼の部を振り返ってみたい。本葬は25日午後3時から東京・青山葬儀所だというが、公演は26日まで続く。巳之助は当然だが、菊五郎も本葬には出席できるのが慰めになる。

再開場して2年目、華やかな正月興行が終わって、かつての歌舞伎座に戻ったような二月大歌舞伎である。昼の部の最初は、若手中堅クラスが活躍する芝居があり、その後は立役の大幹部がそれぞれ中心になっての演し物が続くという形態。大幹部同士の顔合わせはなく、周囲の役は気心の知れた一門で固める芝居が続くのである。

客席は空席が目立つ程ではないが満席ではなく、平日ならチケットを全席種買う事ができる。さらに季節にあった演目が並べば完璧という事で、今月は舞台に梅が咲き、雪景色に咲く桜もあり、久しぶりに早春に相応しい演目が並んだ。

2月3日は團十郎の命日である。團十郎が生きていて、この興行に参加していれば『毛谷村』の六助を菊五郎のお園で演じていたかもしれない。また『積恋雪関扉』ならば関兵衛か宗貞を演じていたかもしれない。夜の部ならば、熊谷も筆幸も演じていたのかもしれない。そんなことを思いながら初日の舞台を見つめていた。それに三津五郎が加わろうとは…。六助も関兵衛も三津五郎が演じ、次世代に繋いでいくべきものだったはずであるのに残念だ。

『吉例寿曽我』は、短い芝居の中に歌舞伎のエッセンスが詰まった演目である。「鶴ヶ岡石段の場」では立ち回りがあり、「がんどう返し」で石段から富士山を背景にした「大磯曲輪外の場」に舞台転換が観客の目の前で行われる。「対面」と同様に歌六の工藤と、歌昇・ 萬太郎の五郎十郎兄弟が登場する。大磯の虎の芝雀、化粧坂少将の梅枝、喜瀬川亀鶴の児太郎、朝比奈三郎の巳之助、秦野四郎国郷の国生、茶道珍斎の橘三郎と若手花形が揃って清新な顔ぶれでの芝居となった。

早春の開幕の芝居だが、紅梅と白梅、雪をいただいた富士山と、芝居にとっては縁起の良いものが揃い、ただただめでたい気持になるのが良い。この顔ぶれが10年後、20年後の歌舞伎を支える人たちになるのだと思うと大いなる楽しみを感じた。そうした中で巳之助の歩む道は、けっして平坦ではないだろうが、一歩でも二歩でも父親に近づけるよう努力を重ねてもらいたい。

『毛谷村』は菊五郎がお園ではなく六助を演じた。菊五郎劇団の財産演目にしたいという意向もあっての初役ということだった。かつて二月は菊五郎劇団の公演だった。共演を重ねた團十郎が亡くなり、三津五郎が病気とあっては、菊五郎劇団だけで歌舞伎座で興行をするのは現状では困難なのかもしれない。播磨屋と親類になったことで、かつてのような一座の意識は薄れたのかもしれないが、この演目だけは菊五郎を中心とした気心の知れた配役での上演である。その三津五郎が亡くなり、歌舞伎界の危機、さらには菊五郎劇団の危機でもある。

なんといっても菊五郎の持つ心根の優しさが、六助の役柄と重なって心の温かくなる芝居に仕上がっていたのは何よりだった。相手役を務める時蔵も経験のある役だけに安定感があった。弾正の團蔵、斧右衛門の左團次と少ない登場人物でも面白い芝居に仕上がっていたのは何より。菊五郎が初役で六助を演じようと思った心意気に一番心を動かされたのかもしれない。

『関の扉』 は、長い一幕の間、ずっと出ずっぱりの大役である。歌右衛門の墨染の相手役をした幸四郎が元気に踊る。もちろん三津五郎も演じたが、彼がいなくなって次に誰が演じるのかといえば、橋之助、海老蔵勘九郎に一気に飛んでしまうのだろうか。歌右衛門から継承されたものが、幸四郎に伝わり、三津五郎の世代を超えて伝えていくしかないのは、なんとも大きな負担になるだろうと思えた。いつまでも若々しく、あと10年は平気で弁慶を演じそうな幸四郎ではあるが、昼夜大活躍なのは、自らの歌舞伎への責任を果たそうという姿勢の現われとみた。なかな歌舞伎座に立とうとしない俳優もある中で、これまた心意気に心を動かされた。

風格、大きさ、そして大きく立派な顔とそろっている幸四郎が錦之助や菊之助を共演者に選んで踊るというもの、次世代へ繋いでいかなければならないという切迫した想いがあったのかもしれない。錦之助も菊之助も精一杯演じきったという感じで、清々しさがあったのが何より。ひと昔前なら、幸四郎と同年代の役者が出るのが当たり前といったようなものだが、こうして世代の違う役者が揃うのを観るのも楽しい。それが興行的に成功とは言い難いのは残念だが、これが現在の歌舞伎を象徴する姿なのだと感慨深く観た。菊之助らが中心にならなければならない時代は、もうすぐなのだ。「未来に顔を向けて進め」というしかなくなってしまったのだ。悲しいことだが。

昼の部

一、吉例寿曽我

鶴ヶ岡石段の場
大磯曲輪外の場

11:00-11:40
 
近江小藤太 又五郎
八幡三郎 錦之助
化粧坂少将 梅 枝
曽我五郎 歌 昇
曽我十郎 萬太郎
朝比奈三郎 巳之助
喜瀬川亀鶴 児太郎
秦野四郎国郷 国 生
茶道珍斎 橘三郎
大磯の虎 芝 雀
工藤祐経 歌 六

幕間     35分

二、彦山権現誓助剱
毛谷村

12:15-1:29
   
毛谷村六助 菊五郎
お園 時 蔵
微塵弾正実は京極内匠 團 蔵
お幸 東 蔵
杣斧右衛門 左團次

幕間     25分

三、積恋雪関扉

1:54-3:15
   
関守関兵衛実は大伴黒主 幸四郎
小野小町姫/傾城墨染実は小町桜の精 菊之助
良峯少将宗貞 錦之助

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