SSブログ

大つごもり 寒菊寒牡丹 初春新派公演  花柳章太郎没後五十年追悼 三越劇場 [演劇]

pl_ot150102_l.jpg

ホームグランドだった新橋演舞場を満員にした勘三郎の追善興行から2ヶ月。現在の劇団新派のホームグランドは三越劇場である。初春公演は没後50年になる花柳章太郎の追悼公演である。新派の女形芸を継承し、人間国宝であり、文化功労者であった花柳章太郎。絵も嗜んだこともあって、ロビーには舞台写真とともに自筆の日本画が飾られていた。最後の出演作品となった『大つもごり』と『寒菊寒牡丹』を上演するのは追悼にふさわしかった。

三越劇場は、舞台の間口、高さ、奥行とも十分になく、回り舞台を備えた劇場での上演を前提にしたような作品ではハンディがあるが、緞帳ラインの前に前舞台、下手に仮設の花道。それとは別に下手と上手に入退場のできる通路が設けられていた。樋口一葉の小説を久保田万太郎が脚色・演出し、昭和25年1月新橋演舞場で初演。芝白金の資産家の屋敷での出来事を一杯道具で、照明とわずかな装置の移動で台所と茶の間を使い分けた工夫が見事だった。条件に恵まれなければアイディアで勝負というのがよい。

文学座あたりでも上演が困難になってきている現代、もう新派でしか上演できない芝居である。波乃久里子が一世一代でおみねを演じるということで、今後はなかなか観られないかもしれない。三越劇場という小さな劇場で久里子の芸を堪能できるという贅沢。年齢層は少々高い観客も美しい日本語、現代では想像しにくい奉公人の悲哀、そして道楽息子によって助けられるおみねの命を捨てようとする覚悟など、表面的な台詞だけではわからない想いが交錯して、観客席に伝わってくるのがよかった。

次の『寒菊寒牡丹』も新橋の花柳界を舞台に、芝居の世界を知り抜いた川口松太郎と花柳章太郎というコンビで上演したなら最強の新派の演目だったのだろう。母子と名乗れない芸者。その母の弟が殺人事件を過去に起こしていて、せっかくの縁談を壊さないようにと腐心するという泣かせるであろう物語。劇中に月之助らも参加しての口上があり、全員で手締めもあった。

「大つもごり」同様に美しく明瞭で自然な日本語が聞こえてきて大満足。特に浅野を演じた鈴木章生。姿が明治の資産家らしく、口跡もよくて、いかにも新派人。劇団四季のような「美しい日本語」と称して、不自然な日本語を撒き散らす連中とは大違いである。

二本とも天使には許容範囲の芝居だが、もっと若い観客層にアピールしていかないと将来の見通しは暗いかもしれない。歌舞伎俳優の若手を積極的に起用していくのもいいかもしれない。今売り出し中の尾上松也など、新派にも縁のあることだし、勉強させたらいいと思う。もちろん菊之助、海老蔵といった世代が起用できればなおいいのだが。



見どころ

稀代の名優・花柳章太郎を偲ぶ名舞台!

花柳章太郎(明治27年―昭和40年)は、稀代の名優、不世出の女方と称される新派俳優。
女方としての芸を追及し、数々の代表作を残す。幅広い芸域で長らく観客を魅了し続けた。
『鶴八鶴次郎』『京舞』『佃の渡し』『遊女夕霧』『螢』などの代表作で「花柳十種」が選定されるなど、
日本演劇界に残した足跡は計り知れない。
重要無形文化財保持者(人間国宝)、文化功労者。
昭和40年1月新橋演舞場、昼の部に『大つごもり』、夜の部に『寒菊寒牡丹』へ出演したのが、
最後の舞台となる。没後50年を数える。


一、大つごもり

樋口一葉の短編小説をもとに描かれた新派屈指の名作であり、「花柳十種」のひとつ。
波乃久里子が一世一代で、定評のあるみねを勤めます。

◆あらすじ◆
明治も中頃、東京の白金台町。
資産家山村家の女中みねは、健気な働き者の奉公人である。
幼い頃、両親に死別し伯父夫婦に育てられたみねは、病を患っている伯父の借金返済の為、
金の工面を請け負っていた。そして約束の大晦日、大つごもりの午後。
奉公先の奥様あやに前借りを願い出てはいるものの、まだ金の工面ができずにいるところへ、
道楽息子の石之助が久しぶりに姿を現す。
先妻の息子石之助とは折り合いが悪いあやは機嫌を損ね、みねの話を立て切ってしまう。
部屋には失意のどん底に落とされたみねと酔いつぶれた石之助。
目の前には金の入った懸け硯。万事窮したみねは夢とも現とも知らず、懸け硯に手をかけ……。

一、大つごもり
原作 樋  口 一  葉              
脚色 久保田 万太郎
演出  齋  藤 雅  文


みね: 波  乃 久里子
山村あや: 水  谷 八重子
山村嘉兵衛: 立  松 昭  二
宇太郎: 田  口    守
しん: 青  柳 喜伊子
山村石之助 :市  川 月乃助

15:00~16:00

幕間 25分

二、寒菊寒牡丹

昭和初期、新橋花柳界に生きる人間模様──
花柳章太郎に書き下ろされた妻吉を現代に受け継ぐ水谷八重子はじめ、
新派一丸となってお届けします。

◆あらすじ◆
売れっ子芸者の菊葉が、若き実業家の浅野に正妻として迎えられることになり、
築地の香楽亭では集まった芸者たちが騒いでいる。
しかし、当の菊葉はというと浅野がやって来ても変わらぬ態度。
そんな菊葉のことを陰から心配そうに見守る姉さん芸者の妻吉は、
浅野の妻になることを気楽に考えている菊葉に、死ぬ気になって辛抱するよう強く諭すのだった。
その夜遅く、菊葉と妻吉は二人きりで別れの盃を交わす。
堅気になる前の最後の夜に、菊葉は妻吉の口からどうしても聞いておきたいことがあった……
妻吉こそ、自分の本当の母親であるという真実を……。
しかし、妻吉にはそのことを告げられない理由があった。妻吉には木彫師の磯吉という弟がいて……。

作 : 川  口 松太郎
演出:成  瀬 芳  一

若葉屋の妻吉:水  谷 八重子
菊松葉の菊葉(トリプルキャスト): 瀬  戸 摩  純、 石  原 舞  子、 鴫  原    桂
浅野:鈴  木 章  生
ラシャメンお新:山  吹 恭  子
お栄:波  乃 久里子
木彫師太田磯吉 :勝  野    洋
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。