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鶴八鶴次郎 京舞 十一月新派特別公演 新橋演舞場 [演劇]



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新橋演舞場に新派が帰ってきた。天使が松竹の劇場へ通い始めたのは初代水谷八重子の最晩年で、1月、3月、5月、9月、11月が新橋演舞場、10月が国立劇場での公演があり、東京では年間6ヶ月もの上演があったのである。古い新橋演舞場で水谷八重子を観るのになんとか間に合ったという感じである。

最近の新派は三越劇場で1月、8月、10月の年3回が恒例のようになっていて、大劇場公演としては、新橋演舞場に年1回登場するかしないかの状態である。三越劇場の公演であっても満席にすることは難しいような状態が続いている。今回は、十七代目と十八代目の中村勘三郎の追善興行ということで大劇場での公演が実現し、しかも興行成績も悪くなさそうなのは大きな喜びである。

上演時間は、初日は5時間半近くと長かったようだが、それでも『京舞』はカットした場面があるということだった。残念ながら天使は『京舞』の八重子の片山春子が100歳で舞い納める場面で劇場を後にしたのだが、それでも15時30分だったので、後の幕が20分で終わるとも思えないので、予定時間の15時50分を今もオーバーしているのかもしれない。

半日を劇場で過ごすことは、かつては普通だったし、逆に上演時間が短いと苦情もあったと聞いた。それが歌舞伎ですら上演時間が休憩を含めて4時間半に収めるのが普通である。観客も長い芝居を望んでいないようである。笑わせて泣かせて、主演者が平等に幕切れをとり、春夏秋冬の季節感を巧みに取り入れ、観客の心理を読み取り、脇役に至るまで演じ甲斐のあるように書き込み、さらに舞台転換まで考慮するという商業演劇のお手本のような両作品である。ゲスト次第で動員がかなうなら、仁左衛門、吉右衛門、菊五郎、玉三郎らを昔のように客演してもらい、新派を今一度見直させたいと願うものである。

『鶴八鶴次郎』は、勘九郎が勘三郎の台詞回しや声までそっくりで驚かせる。七之助の鶴八も女優の中に入って遜色のない美貌があり、兄弟はもっと早く久里子と共演するべきだったと思う。番頭佐平の柄本明は、劇中口上の中で演じるのが恐いというのが本音かと思うくらい、新派の世界の人として演じきれていない。どうしても勘三郎や藤山直美と共演していた頃の喜劇的な演技が観客のなかにも残っているので、泣かせるべき場面でも笑いが起ってしまうなど気の毒だった。興行元竹野の立松 昭二は、右手を負傷しているのか包帯を巻いていたようだが、安井昌二あたりが演じてもよいような役を継承できているは心強い。

幕切れは、ほろ苦い終わり方で、後味はけっしてよくないのだが、基本的に新派は泣かせる芝居なので、近頃の笑える芝居、笑わせようとする芝居とは、向いている方向が全く違うのだと思ったほうがよい。比較するべき東宝系の商業演劇が絶滅状態なので仕方がないのだが。

『京舞』は国立劇場で勘三郎病気休演で八重子が急遽代役に立った役である。十七代目の勘三郎は亡くなってしまうのだが、なんとか継承され今に上演が続いているのは嬉しいことである。八重子も九里子も年齢を重ねてしまって、今後演じ続けられていくのかどうか微妙だと思うのだが、芝居の出来を見る限りでは安心していいのではないだろうか。

休憩後は「手打ち式」で始まり、劇中の追善口上へと続いた。毎日ゲストが替わるが、天使の観た日は永島敏行だった。なかで 近藤正臣が勘三郎と共演した『あわ雪豆腐』のエピソードを披露する。天使は、この芝居を昭和57年の東京宝塚劇場で観ている。劇場の真向かいの千代田劇場で「たのきんトリオ」の映画が封切りされた初日で大混雑していて、ちょうど楽屋入りした山城新伍が驚いていたのを覚えている。

芝居の中身は、酒乱の殿様が家来に諭され、毎夜人夫の如く道路掃除に連れ出し、酒乱が直ったところで切腹の命令が下り、家来が最後に「あわ雪豆腐」を持ってきて涙ながらに殿様に食べさせるという話。そこで毎回勘三郎は本当に泣いていたという。近藤はうどんと言っていたが、「あわ雪豆腐でござます」と差し出したような気がするがどうだっただろう。

片山春子の水谷 八重子は、少々太り気味だったような気もするが、九里子とともに年齢を感じさせない演技で、新派と歌舞伎が混合の脇役を含めて新派の健在振りをしめした舞台となった。さて、次はいつ新派として新橋演舞場に戻ってくるのだろうか。正月の三越劇場の花柳章太郎没後五十年追悼は、ちょっと観てみたい気がする。

初春新派公演


  川口松太郎 作
   成瀬芳  一 演出
一、鶴八鶴次郎 四幕七場

鶴賀 鶴次郎 : 中村 勘九郎
鶴賀 鶴八 : 中村 七之助
興行元 竹野 : 立松 昭二
弟子 鶴子 : 瀬戸 摩純
番頭 佐平 : 柄本 明

11:00~12:40

幕間 30分


   北條秀  司 作
   大場正  昭 演出
   成瀬芳  一 演出
二、京     舞 三幕
   ─ 劇中追善ご挨拶申し上げます ─
   舞踊振付 井上八千代

片山 春子 : 水谷 八重子
杉浦 : 近藤 正臣
おきく : 高橋 よしこ
松本 佐多 : 伊藤 みどり
おまき : 青柳 喜伊子
まつ子 : 石原 舞子
片山 博通 : 中村 勘九郎
片山 愛子 : 波乃 久里子

第一幕 13:10~14:15

幕間 15分

京舞 第二幕、第三幕 14:30~15:50

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