ミュージカル・CHICAGO 米倉涼子凱旋公演初日 赤坂ACTシアター [ミュージカル]
かつて市川染五郎(現・松本幸四郎)がブロードウェイの『ラ・マンチャの男』の主演した時も、各国のセルバンテス・ドン・キホーテ役を集めて上演するというロングラン公演でのイベントでの出演だった。米倉涼子のブロードウェイ版『CHICAGO』への出演もそうしたイベントの一環だったらしく、意地悪な見方をすれば、現地の主なキャストが夏休み?を取る間に割り込んだ形とも言えなくない。しかも、8月から9月にかけての来日公演の前宣伝としては絶妙のタイミングである。
オペラの世界でも佐藤しのぶが今秋来日するソフィア国立歌劇場の『トスカ』のタイトルロールを演じたりする訳で観客動員のためなら、なんでもありはミュージカルの世界に限ったことではない。NYの観光客相手?に16年も上演している『CHICAGO』の上演の質が初演通りに維持されていないとしても、いやしくもプロとして世界の檜舞台に立つからには、米倉涼子に英語、芝居、歌唱、ダンスなど、それ相当の実力がなければ実現しないはずである。たとえツアー版の上演とはいえ、相手役はブロードウェイ公演と同じなので、果たして米倉涼子は無事に演じきることができるのかと興味本位で初日の舞台にでかけてみた。
劇場前にはレッドカーペットが敷かれたスペースがあり、セレブ?なゲストがインタビューを受けていたようだったが興味がないので素通り。劇場の中は初日とあって、芸能人から贈られた花のスタンドでロビーは埋まっていて花屋が開けそうな勢いで驚く。
舞台の周囲は黄金に輝く額縁。舞台上には同じく黄金の額縁で縁どられたオーケストラというかジャズバンドが陣取っていて、その左右と真ん中にいる指揮者のお隣にも通路があって役者が出入りするという黒一色のスタイリッシュな舞台装置。というか役者が座って舞台をみつめるときに座る椅子以外は道具らしい道具はないシンプルさ。照明の力を借り、役者のナレーションと歌とダンスで芝居が進んでいくというブレヒト劇みたいな構成だった。もっともブレヒト劇のような堅苦しさはなく、半裸のような薄物のモノトーンの衣裳をつけた役者達が、お色気と毒をいっぱい含んだ芝居を展開していくので最後まで退屈しなかったのは何よりだった。
米倉涼子は東京の初日だからか、最初は少々硬さがあったり、マイクで拾う歌声に雑音が混てしまうなどのアクシデントもあったが、プロ意識の高い共演者に支えられて最後まで破綻なく演じきっていた。英語の台詞、歌唱、ダンスも無難にこなして見事だった。それは米倉涼子の努力の賜物であるのは間違いがないが、ヴェルマ役のアムラ=フェイ・ライト、ビリー・フリン役のトニー・ヤズベックなど、ブロードウェイ版と同じ共演者によって米倉自身が輝いていたように思う。それだからか、第1幕の長台詞や後半の米倉一人でのナンバーなどは、周囲の助けがない分、彼女の輝きは消え失せて残念な結果に終わった部分もあったのも事実である。
台詞には、「5000ドルなんてどうして作るのよ!」といった日本語が混じったり、「赤毛のコーラスガールだったの」が「日本のコーラスガールだったの」といった米倉に合わせて変更された部分もあった。日本語の台詞には少なからず客席にいた外国人向けなのか、その部分だけ英語が縦書きで字幕表示されるという演出?もあった。
舞台端とオーケストラのひな壇までのわずかな奥行の舞台で、フォッシースタイルのダンスや芝居が繰り広げられるので、狭い舞台ならではの想像力の翼が広がったのは何よりだった。共演者では主役級の三人が上手いのは当然として、看守ママ・モートン役のケシア・ルイス=エヴァンズの歌の迫力や、エイモス役のロン・オーバックの哀感をにじませる歌が印象に残ったが、一番のサプライズは華麗なコロラテューラのテクニックを披露したメアリー・サンシャイン役を演じたD・ミッシーチの正体を知ったとき…。
第二幕の開始時やカーテンコールでは出演者を紹介する小粋な演出が洒落ていた。送り出しの音楽が始まっても初日だからか席を立つ人はほとんどいなくて、音楽が終わって場内が明るくなっても拍手が鳴り止まないのでもう一度幕が上がったが、案外あっさりと初日のカーテンコールが終了したのも確かにブロードウェイっぽい。最後はスタンディング・オベーションになったが、これは米倉の努力と共演者の好演に向けて正当なものだと思った。
毎度のことながら休憩時間のトイレの大混雑には閉口。今年の夏の来日ミュージカルのなかでは一番楽しめたし、観客の年齢が高めなのも大人のミュージカルだったかた当然で良い傾向だと思った。代役の関係者が多数客席にいたからか、なかなかノリがよい客席だったのは平均年齢の高さから見て異例なことだった。大人の気分に浸りたいならご覧になることをおすすめしたいです。
ボブ・フォッシー
脚本、オリジナル版の演出、振付
ウォルター・ボビー
演出
ジョン・カンダー
作曲
フレッド・エップ
脚本、作詞
アン・ラインキング
振付
キャスト
米倉涼子[ロキシー・ハート]
RYOKO YONEKURA / Roxie Hart
アムラ=フェイ・ライト[ヴェルマ・ケリー]
AMRA-FAYE WRIGHT / Velma Kelly
トニー・ヤズベック[ビリー・フリン]
TONY YAZBECK / Billy Flynn
ロン・オーバック[エイモス・ハート]
RON ORBACH / Amos Hart
ケシア・ルイス=エヴァンズ[看守ママ・モートン]
KECIA LEWIS-EVANS / Matron “Mama” Morton
D・ミッシーチ[メアリー・サンシャイン]
D. MICCICHE / Mary Sunshine
シャミーカ・ベン[ゴー・トゥ・ヘル・キティ]
SHAMICKA BENN / Go-to-Hell-Kitty
レイチェル・ビッカートン
[ジューン/看守ママ・モートン代役]
RACHEL BICKERTON/ June, Matron “Mama” Morton u/s
レニー・ダニエル[陪審員/エイモス・ハート代役]
LENNY DANIEL / The Jury, Amos Hart u/s
P・グロフト[ドクター/裁判所書記官/メアリー・サンシャイン代役]
P. GROFT / The Doctor, Court Clerk,Mary Sunshine u/s
ダニエル・グティエレス[廷吏]
DANIEL GUTIERREZ / The Bailiff
ブレント・ハウザー[フレッド・ケイスリー/ビリー・フリン代役]
BRENT HEUSER / Fred Casely, Billy Flynn u/s
マーラ・マクレイノルズ[アンサンブル]
MARLA McREYNOLDS / Ensemble
シリア・メレンディ[モナ]
CELIA MERENDI / Mona
ジル・ニクラス[リズ]
JILL NICKLAUS / Liz
ニーナ・オードマン[ハニャック]
NINA ORDMAN / Hunyak
アダム・ペルグリン[ハリー/ハリソン]
ADAM PELLEGRINE / Harry, Harrison
スティーヴン・ソフィア[ダンス・キャプテン/アンサンブル]
STEVEN SOFIA / Dance Captain, Ensemble
ジェイソンド・トーマス[アーロン]
JASOND THOMAS / Aaron
メラニー・ウォルドロン[アニー/ヴェルマ・ケリー代役]
MELANIE WALDRON / Annie, Velma Kelly u/s
コルト・アダム・ワイス[スウィング]
COLT ADAM WEISS / Swing
コリー・ライト[フォガティ巡査部長/裁判官]
COREY WRIGHT / Sergeant Fogarty, Judge
楽曲
第1幕
OVERTURE「オーバーチュア」 The Band
ALL THAT JAZZ「オール・ザット・ジャズ」Velma & Company
FUNNY HONEY「ファニー・ハニー」 Roxie
CELL BLOCK TANGO「監獄タンゴ」Velma & Girls
WHEN YOU'RE GOOD TO MAMA「ウェン・ユーアー・グッド・トゥ・ママ」Mama Morton
TAP DANCE「タップ・ダンス」Roxie、Amos、Boys
ALL I CARE ABOUT「オール・アイ・ケア・アバウト」Billy & Girls
A LITTLE BIT OF GOOD「ア・リトル・ビット・オヴ・グッド」Mary Sunshine
WE BOTH REACHED FOR THE GUN「ウィ・ボース・リーチト・フォー・ザ・ガン」
Billy、Roxie、Mary Sunshine、Company
ROXIE「ロキシー」Roxie & Boys
I CAN'T DO IT ALONE「アイ・キャント・ドゥ・イット・アローン」Velma
MY OWN BEST FRIEND「マイ・オウン・べスト・フレンド」Roxie& Velma
第2幕
ENTR'ACTE「エントラクト」The Band
I KNOW A GIRL「アイ・ノウ・ア・ガール」 Velma
ME AND MY BABY「ミー・アンド・マイ・べイビー」Roxie & Boys
MISTER CELLOPHANE「ミスター・セロファン」Amos
WHEN VELMA TAKES THE STAND「ウェン・ヴェルマ・テイクス・ザ・スタンド」Velma & Boys
RAZZLE DAZZLE「ラズル・ダズル」Billy & Company
CLASS「クラス」Velma & Mama Morton
NOWADAYS「ナウアデイズ」Roxie & Velma
HOT HONEY RAG「ホット・ハニー・ラグ」Roxie & Velma
FINALE「フィナーレ」Company
上演時間
第1幕 19:00〜20:10
休憩 20分
第2幕 20:30〜21:20
コメント 0