ガラスの動物園 シス・カンパニー公演 Bunkamura シアターコクーン

初めて『ガラスの動物園』を観たのは、テレンス・ナップ演出による演劇集団「円」の公演で１９８１年６月の紀伊国屋ホールでの公演だった。母親のアマンダ役は文野 朋子だったと思う。当時は「円」の舞台をよく観ていて、シェイクスピア作品に娘役で出ていた立石凉子をよく覚えていて、清楚な女優というイメージだった。３０年ぶりに観たらすっかり母親役が板についていて驚いた。

繊細な台詞劇という理解でいた『ガラスの動物園』は、シス・カンパニー制作により今回は単なるパフォーマンスに成り下がっていて全く楽しめなかった。演出家によれば、作者自身の「ガラスの動物園は追憶の芝居であるので、従来の舞台の約束事に囚われず、非常に自由に演出して構わない」とあるのを力に、広い舞台を縦横に踊りまくる女性ダンサー８名を加えて、スタイリッシュな舞台を目指したかのようである。

舞台は遠近法を用いた灰色の閉ざされた空間。左右の柱とそれを結ぶ梁があって、その枠組みが舞台奥に向かって三つある。その柱の間にはドアのある壁がそれぞれ三箇所。舞台奥にはシンプルな窓があって、現在の作家を目指すトムの仕事用の机と椅子があって、タイプライターが置かれている。そのほかには、街灯があるだけで、必要に応じてダンサーたちによって食卓、ガラス細工を飾るテーブル、椅子、ソファ、蓄音機などが運びこまれる仕掛け。

ダンサーたちは、壁と一体化できるような？奇妙な衣装をつけていて、壁を通り抜けるような感覚で登場したりするので、なんとなくアメリカ版の「座敷わらし」という感じ。なかなか秀逸な振付がなされていて面白い存在だとは思った。

問題なのは肝心の役者たちで、ささやくような台詞、怒鳴りあうような台詞など、強弱が強調されるような部分になると、全く科白が聞き取れなくなるので困った。映像を主な活躍の場にしている主演者達だから仕方がないのかもしれないが、基礎訓練が不足しているのかもしれない。そうした中にあって、訪問者であるジム・オコーナーの鈴木浩介だけは、丁寧な演技と自然な朗誦術で安定。本当のアメリカの好青年に見えて好演。初めて見たが、今後の活躍が大いに期待できる人なのだと思う。

ローラの深津絵里は、特別な役柄だけに共感しずらいのだが、全く哀れさを感じることができないでイライラさせられた。トムの瑛太は表面的な演技やポーズに終始した感があって、この追憶の劇を通して彼は何を感じ、何を伝えたかったのか、まったく伝わってこなかった。特に幕切れのキレの悪さは致命的。すべての芝居が終わって、また冒頭の場面に戻ってトムがポーズ。そしてカーテンコールという段取りだったが、瑛太のファンは大喜びかもしれないが、なんとも締まらない終わり方になってしまって、作品の叙情は台無しになった。

シアターコクーンは、そんなに大きな劇場ではないと思っていたが、ダンサーの力をもってしても空間が埋めきれていないので芝居が拡散してしまった。鈴木浩介を除いて、出演俳優はすべて半径２メートルの範囲内だったら名優だったかもしれないが、存在感が希薄で舞台を超えて、彼らの心の動きが伝わってこなくて困った。

Bunkamuraの入口には、Swarovskiの店舗があって、クリスタルのアクセサリーなどが展示されており、動物の置物？などもあって、ちょっとした『クリスタルの動物園』のようである。もちろん舞台のガラスの動物園の動物たちは、貧しいローラでも手に入るであろう品物であってシンプルで壊れやすい。もっと素朴なアプローチの芝居の方がよかったかもしれいが、演出家はSwarovskiの方向へ舵を切ろうとしたようである。人気者が出ているおかげで、平日の昼公演だったが満員の盛況。幅広い年代の観客を集めていたが、単調な台詞劇についてゆけないで、眠ってしまう観客が多数発生していた模様。


作：テネシー・ウィリアムズ
演出：長塚圭史
翻訳：徐 賀世子

アマンダウィングフィールド：立石凉子
ローラ・ウィングフィールド：深津絵里
トム・ウィングフィールド：瑛太
ジム・オコーナー：鈴木浩介

企画・製作 シス・カンパニー 提携 Bunkamura

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