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タンホイザー 神奈川県民ホール・びわ湖ホール・東京二期会・京都市交響楽団・神奈川フィルハーモニー管弦楽団共同制作公演 [オペラ]

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朝いつものようにひと泳ぎしてから『タンホイザー』を観るために2時間以上かけて横浜の神奈川県民ホールまで出かけた。千葉市にも千葉県文化会館というホールがあるが、千葉城跡の丘陵の地形を利用した建物は明らかに上野にある東京文化会館の影響を受けている。一方の神奈川の方は、1973年にできたNHKホールの影響を受けているらしく、舞台や客席の形状は小型NHKホールといった趣がある。舞台の大きさはほぼ同じでも客席がコンパクトなだけに舞台が本当は身近に感じられるはずなのだが、舞台前端とオペラカーテンまでの距離が2メール以上もあって演技スペースが奥まってしまって臨場感が意外に乏しいのが残念なホールである。それでも横浜港が一望できるホワイエがあったりしてオペラを愉しむホールとしては良い環境にある。みなとみらい線の開通によって交通の便が格段に便利になったのも遠方から訪れるにはありがたいことである。

昨年は東日本大震災の直後ということもあって『アイーダ』は中止になってしまったが、びわ湖ホールと東京二期会との共同制作の大作オペラの上演が続いている。来年は『椿姫』が決定している。今年は神奈川フィルハーモニー管弦楽団と京都市交響楽団も主催者に加わっての開催となったようである。二期会も主催者だがダブルキャストの各役には、藤原歌劇団や関西出身の声楽家も含まれており、適材適所の原則が守られているようである。大規模な演目でしかも関西と関東の二箇所で上演という事で制作費用が相当かかるのは想像できるが、入場料は低めに設定されていて多くの観客を集めているのも納得させられた。

今回の演出は新国立劇場でもお馴染みのミヒャエル・ハンペがサンディエゴ・オペラで上演したものをそっくりレンタルしたものらしい。したがって流行の読み替え演出などではなく、ワーグナーの音楽に寄り添ったオーソドックスなもので、これも横浜の観客の好みにあっていたようだった。舞台装置はギュンター・シュナイダー・ジームセンのものを原典にしているらしく紗幕を使った第一幕と第三幕は、下手から上手にかけて昇っていく丘のような装置。ヴェーヌスベルクの場面では半裸のダンサー達が官能的なポーズを繰り返す背景が、森に一瞬に変わるという舞台ならではの魔法のような空間が生まれた。

聖と俗を同じ装置で表現し、写実と具象を照明の力で使い分けるという秀逸なアイディアに溢れたものだった。その一方で第二幕は、観客の想像するような「歌の殿堂」を舞台上に載せてみたという印象。舞台奥のアーチのある2階建の回廊を中央にシンメトリーな半円形の舞台装置はMETのオットー・シェンク演出にそっくりというか同じもののように感じた。もちろんMETの方が豪華版で今回の方がシンプルだが基本的なコンセプトは変わらないようだった。演出家が違っても同じような装置になるという事があるのか、ト書通りに製作すると似てしまうのかもしれない。

さて沼尻竜典が指揮する神奈川フィルは特に序曲で顕著だったが、細部にまで目を光らせて音楽世界を丁寧に紡ぎあげるという肉食系というよりも草食系的なワーグナーの演奏だった。血湧き肉躍る、あるいは溢れるほどの官能美を求める聴衆には物足りなく感じたかもしれないが、日本人らしいともいえるアプローチで心地よく最後まで聴くことができた。

歌手陣も充実していて、タイトルロールの福井敬は、歌唱、演技のすべてにおいて文句のつけようのない出来で素晴らしかった。対するエリーザベトの安藤赴美子も圧倒的な歌唱と清楚な演技で完璧。二人が高水準だったためにヴォルフラムの黒田博には物足りなく思う部分が少なからずあって、さらなる奮起を望みたくなった。「夕星の歌」など不完全燃焼で悪くはないが大満足には至らなかった。

それ以外の歌手陣も悪くはないのだが、第一幕のフィナーレや第二幕の『歌合戦』など、男声ソリストは歌唱も演技も少々単調に過ぎたよう思う。ヴェーヌスの小山由美も大胆な衣裳と演技は良いのだが、聴かせどころをカットされていることもあるのか主役二人の水準までは今一歩という印象が残った。第三幕では傾斜した舞台から特別に設けられた切り穴に迫り下がるのだが、位置を示す印が大きく書かれていたのが興醒めだったのと、スモークと照明の具合で殆ど見えなくて、下手にそのままはけても問題なかったように思えた。

ソリストで意外な発見は、牧童を演じた森季子という歌手。びわ湖ホール声楽アンサンブルのメンバーらしいが落ち着いた歌唱と彼女が描き出した春の訪れの喜びが素直に伝わってきて、日頃の研鑚の成果がでたのだと感じた。合唱は女声陣が健闘。男声陣には第二幕で熱心に歌い演技するメンバーと、今ひとつ乗り切れていないメンバーの差がくっきりと出たのが印象的。年に数回しかないチャンスと張り切ったのと、お仕事と割り切って醒めているのが観客に伝わってしまってはプロとしてどうかと思った。演技としては集団で同じような動きをするだけで複雑さがないだけに、余計に悪目立ちするのである。

全編を通して感動があったのは、やはり第三幕で緑の葉で飾られた奇跡の杖を真ん中に一同が敬意を表す終幕の部分で、第一幕の後半や第二幕の単調さを吹き飛ばす名演となったと思う。これだけの規模のオペラを毎年のように上演しているのは「凄い」のひと言。無料で配布されるプログラムは配役のほかに読み物も充実して48ページという贅沢さ。しかも協賛の連名だけで広告が一切ないのも潔い。

第三幕以外は幕が完全に閉まるまで拍手がおきなかったが序曲の後の拍手は必要だったかどうか。音楽の流れを止めてしまったように思うが確信的に拍手をした人がいたので関係者だったのかもしれない。カーテンコールは、舞台前の紗幕が取り払われ合唱団が舞台に勢揃い。幕が閉まって幕前にバレエダンサーたち。続いてソリストが順番に登場。最後に指揮者。全員が手を繋いで幕前に登場といった具合。それにしても幕前にあんなにスペースが余っているのは珍しい劇場である。舞台の周辺がダークな色調で統一されているのは良いが舞台脇の照明室?のガラス窓にオーケストラピットの光が映りこむのはまるで駄目。18時過ぎに終演なので、多くの観客が中華街へ繰出したろうが、こちらは寄り道せずに真っ直ぐに帰ってきた。

2012年3月25日(日) 14時開演 神奈川県民ホール 上演時間約4時間(30分休憩2回含)

指  揮:沼尻竜典
演  出:ミヒャエル・ハンペ

舞台装置・映像デザイン:ギュンター・シュナイダー=ジームセン、
            ジェームス・ムルダー、
            アレクサンダー・シュナイダー=ジームセン
衣裳デザイン: ​​ウォルター・マホーニー
照  明: マリー・バレット
音  響: 小野隆浩(びわ湖ホール)
舞台監督: 八木清市
タンホイザー舞台装置製作: サンディエゴ・オペラ・シーニック・スタジオ

ヘルマン:妻屋秀和
タンホイザー:福井 敬
エリーザベト:安藤赴美子
ヴェーヌス:小山由美
ヴァルフラム:黒田 博
ヴァルター: 松浦 健
ハインリヒ: 二塚直紀※※
ビテロルフ: 萩原 潤
ラインマル: 山下浩司
牧   童: 森 季子※
4人の小姓(全日出演):​​ 岩川亮子※、栗原未和※、田中千佳子※、本田華奈子※

合唱:​​ びわ湖ホール声楽アンサンブル 二期会合唱団​
管弦楽: 神奈川フィルハーモニー管弦楽団(びわ湖公演:京都市交響楽団)

※びわ湖ホール声楽アンサンブル ※※びわ湖ホール声楽アンサンブル・ソロ登録メンバー
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