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彦山権現誓助剣 平成24年2月文楽公演 第1部 国立劇場 [文楽]

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二月というのは興行にとっては難しい時期なのかもしれない。寒波に襲われ、受験シーズンなので学校の団体の予約はとれない等原因はいろいろとあろうが、平日の11時開演というハンディがあるにせよ六割の入りというのは数年前までチケットの入手が困難だった文楽では考えられないことである。民間であれば、WEBのチケットエージェントを通じて格安チケットを発売して売りさばくということもできようが、さすがに国立劇場には無理なので仕方がない。結局この日は住大夫の出演する第二部のみが「満員御礼」だったようである。

確かに義経千本桜の「すし屋」、菅原伝授手習鑑の「寺子屋」など、屈指の名場面と景事を上演する他の部と違って、知名度も華やかさも不足する演目では、売れ行きが芳しくないは観客の立場としては正直な反応である。貴重な時間とお金を費やすとしたら、やはり演目と出演者を選びたくなるのは人情である。

歌舞伎でも上演される「毛谷村」に「杉坂墓所」と「立浪館仇討ち」という前後の場面をつけるという国立劇場らしい上演形態だが中途半端だともいえる。歌舞伎でも最近では仁左衛門によって昨年の2月に大阪・松竹座で以下のような場割と配役で上演されている。三部制で細切れの通し上演にもならないならば、二部制に戻すことも考えてもよいのではないだろうか。最初は近松作品をそれぞれ上演するということで意味もあったように思うが、名場面集というだけなら、あまり意味はないように思える。

通し狂言
彦山権現誓助剱


序 幕 第一場 長門国住吉鳥居前の場
     第二場 同 社前の場
     第三場 同 郡城下馬場先の場
二幕目     長門国吉岡一味斎屋敷の場
三幕目 第一場 山城国眞葛ヶ原浪宅の場
     第二場 同 釜ヶ淵の場
四幕目 第一場 豊前国彦山杉坂墓所の場
     第二場 同 毛谷村六助住家の場
大 詰     豊前国小倉立浪主膳正本陣の場

毛谷村六助  仁左衛門
一味斎姉娘お園  孝太郎
京極内匠  愛之助
一味斎妻お幸 竹三郎
一味斎妹娘お菊  松 也
衣川弥三郎  薪 車
若党佐五平  猿 弥
吉岡一味斎/杣斧右衛門  彌十郎
衣川弥三左衛門  段四郎

『杉坂墓所の段』は、清介の三味線が第一音から気合の入った音を出して、一気に劇世界を構築して素晴らしい。英大夫は低音が響かないというか聞こえてこないで字幕頼りなのが残念だったが手堅い語りで満足させてくれた。語り進むうちに額にうっすらと汗をにじませ、優美な指を見台にかけ、あるいは拳を握っての姿は美しかった。

『毛谷村』の前半は咲甫大夫と清志郎。早春の空気を感じさせて上手い。後半は咲大夫と燕三。思いがけない展開にふりまわされる六助、さらにだまされたと知って怒りを露わにする六助を語り分けて万全。現在の文楽では最も安定した語りをする人でありながら、空席が目立っていたのが残念。文楽の面白さを感じたいなら、咲大夫を聴くのが一番だと思う。

三世野澤喜左衛門によって作曲された『立浪館仇討の段』が上演されるのは国立劇場では35年ぶりだとか。六助、お園、弾正、伝五右衛門をそれぞれ三輪大夫、南都大夫、津國大夫、文字栄大夫が語り分ける。それゆえ、上手い下手がはっきり分かってしまって気の毒な大夫もいた。普段はあまり出番がないからか、あまり目立たないが、文字栄大夫の非力は明らかで全体の足を引っ張っている。自殺した貴大夫を思い出させて聴いていて辛かった。極端なヴィブラートがかかってしまう音声障害があって引退した大夫もいたが、積み重ねた芸や技術、意欲だけではどうにもならない部分なのは気の毒としか言いようがない。日々の舞台を無事に務めることを祈るばかりである。

玉女の六助、和生のお園というコンビでの上演で安心して観てはいられるが、観客の視線を一身に集めるようなオーラを発するような人たちではないので、何をやっても平凡に見えてしまう。そうした中で強烈な個性を発揮していたのが玉輝の遣う弾正で、このところ何を遣っても面白く見せてくれて敵役などに存在感をみせてくれているのが頼もしい。今後はもっと活躍してくれそうな人である。

世代交代が進んだ部分と実力を発揮しつつある部分が渾然一体となっているが、今ひとつ迫力に欠けていて平凡な舞台になってしまうというような第一部は良くも悪しくも現在の文楽を象徴するような舞台であった。一番正直で見る目があったのは劇場へ足を運ばなかった文楽ファンなのかもしれない。

<第一部>11時開演

彦山権現誓助剣
    
    杉坂墓所の段
 
    口 希大夫 龍爾
    奧 英大夫 清介
   
    11 : 00 ~ 11 : 37

幕間 30分

    毛谷村の段
    
    中 咲甫大夫 清志郎

    切 咲大夫 燕三
    
    12 : 07 ~ 1 : 28

    立浪館仇討の段  三世野澤喜左衛門=作曲

    六助      三輪大夫
    お園      南都大夫
    弾正      津國大夫
    伝五右衛門  文字栄大夫

             團吾

    1 : 31 ~ 1 : 52

奴  大ぜい
近習 大ぜい
村人 大ぜい
供人 大ぜい
駕籠舁 大ぜい
轟伝五右衛門 清五郎
杣斧右衛門 文司
娘お園 和生
母お幸 勘彌
杣栗右衛門 紋秀
弟子軍八 勘介
弟子曽平次 玉彦
山賊 紋吉
門脇儀平 玉佳
一子弥三松 蓑紫郎
若党佐五平 勘市
斧右衛門の母 紋臣
京極内匠実は微塵弾正  玉輝
杣樫六 玉誉
杣槇蔵 玉翔
杣松兵衛 玉勢
毛谷村六助 玉女


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