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六月大歌舞伎・初日雑感  新橋演舞場 6月2日の【劇場の天使】 [歌舞伎]

東銀座の地下鉄の駅を降りると歌舞伎座の工事現場が覗けた。ほぼ更地になっていたが、下手側にはすでに巨大な鉄骨の骨組みができつつあった。工事は順調のようである。東劇には、仁左衛門のシネマ歌舞伎『女殺油地獄』の大看板。国立劇場で見損なった仁左衛門をようやく観ることができるのが嬉しい。

さて人気の歌舞伎役者とそうでない役者の違いは何だろう?それは登場しただけで劇場の空気を変えるような力を持った役者とそうでない者の差なのだと思う。役者の「華」とは、まさしくその場の空気を温め、観客の期待を一身に集め、そうした期待を裏切らない役者のことだと思う。

そうした意味で今月の一番の見ものは仁左衛門・千之助による『連獅子』に間違いがない。開幕前の胸の高鳴りと高揚感は久しぶりだったし、その舞台成果は想像を遥かに超えて奇跡のような時間を過ごすことができた。その大きな原動力となったのは、千之助の仔獅子である。まだ11歳のはずなのに、超絶技巧を次々と繰り出しては観客を唸らせる。しかも観客の視線を釘づけにする鮮やかな毛振り。なんなのだろうこの恐るべき少年は…。

例えていうならば、全盛期の富十郎が少年になって蘇ったかのような衝撃を受けた。上手い、上手すぎる。間が良すぎる。教えも教えたり、覚えも覚えたり。当代の人気役者である祖父との共演を自ら望んだというが、仁左衛門の相手役として不足がないばかりか圧倒する局面もあり、末恐ろしい気がした。

初日ゆえ、多少の失敗はあったものの、いささかな疵ともならなかった。新潟の市山流の振り付けということで二畳台は二つの上にもうひとつ重ねて三つ出すものだった。とにかく後シテの登場の前に、あんなに緊迫感があったのは初めてかもしれない。愛之助と錦之助の「宗論」も上品にまとまっていてよかった。とにかく歌舞伎ファンは必見の舞台。単なるジジバカ演目なんかではない絶対に観るべし。

それ以外の演目の寸評は以下の通り。

「頼朝の死」は、時蔵の尼御台がとにかく素晴らしい。それに影響されてか染五郎の頼家、孝太郎の小周防、重保の愛之助も、それなりに健闘しているのだが、時蔵との年代の差は、そのまま芸の差になってしまったようで、観客の空気を揺り動かす力が不足していたと思う。

「梶原平三誉石切」は、吉右衛門を中心に播磨屋一門に、段四郎と芝雀が加わった格好で安心して観られるものの。感動や興奮といった高揚感には乏しい。吉右衛門はけっして「華」に乏しい人ではないはずだが。こうした機嫌のよい役を安定感を持って演じられる貴重な存在ではある。それに続く世代では三津五郎ぐらいしか思い浮かばないのが、歌舞伎の将来に不安を感じる。そんな中で又五郎の襲名が決まった歌昇と父の名前を継ぐ種太郎が気迫のこもった演技を見せて抜きん出ていた。

昼の部も夜の部も、若手中心の芝居、吉右衛門の芝居、そして舞踊が最後という変則版。特に昼の部は季節感に欠けるのも仕方ないとはいえ、もう少しなんとかならないものだろうか。

「吹雪峠」は上演時間30分の小品で吹雪に襲われた小屋の中での男女三人だけの芝居で、染五郎、愛之助、芝雀の出演。台詞が入っていないのか、明瞭さに欠けていたので、さっぱり盛り上がらずに終わった。なんだかよくわからない芝居だった。

「夏祭浪花鑑」は、吉右衛門の団七に仁左衛門の徳兵衛という異色の顔合わせなのだが、序幕があまり盛り上がらなかったのが意外だった。昭和53年6月に初めてこの芝居を観たのも同じ配役、同じ劇場だったはずで、それ以来なのだが、初日ゆえか上手く噛み合っていなかったようである。どちらも芝居巧者なので、日に日によくなっていくのは明白なのだが。

時蔵、芝雀、福助と次代を担うべき女形が揃ったが、福助はお辰一役である。とにかく神妙に演じていて崩れることがなかったのがよかった。三者三様の持ち味で勝負となったが、案外福助が一番だったかもしれない。

「かさね」は染五郎と時蔵というコンビ。敢えて言うなら色気不足といったところで、もっとドロドロとした艶っぽさが欲しい気がした。高齢の役者が見せる大人の芸とは大きな差があるし、若さで勝負できるような年齢でないところが辛いところかもしれない。

最後に劇場でも本日発表になっていた8月と9月の公演情報は以下のとおり。

8月は「花形」という文字が入って三津五郎、勘三郎の出演はなし。興行も約3週間と伸びたようである。注目はG2による新作歌舞伎の上演になるだろうか。

9月の又五郎と歌昇の襲名披露のある秀山祭の演目が早くも発表。吉右衛門を中心とした座組なので、今月とあまり代わり映えのしない顔ぶれである。今月になってようやく仁左衛門を観ることができたが、勘三郎、玉三郎といった人気者がなかなか出てくれないので華に乏しい気がする。


新橋演舞場
八月花形歌舞伎
平成23年8月6日(土)~27日(土)

第一部  11時開演

一、花魁草(おいらんそう)
 お蝶  福 助
 幸太郎  獅 童
 米之助  勘太郎
 勘左衛門  彌十郎
 お栄  扇 雀

  伊達娘恋緋鹿子
二、櫓のお七(やぐらのおしち)
 八百屋お七  七之助

第二部  14時30分開演

  新作歌舞伎 G 2 作・演出
一、東雲烏恋真似琴(あけがらすこいのまねごと)
        橋之助
        扇 雀
        獅 童
        勘太郎
        七之助
        亀 蔵
        彌十郎
        福 助


二、夏 魂まつり(なつ たままつり)
        芝 翫
        福 助
        橋之助
        国 生
        宜 生

第三部 18時開演

一、宿の月(やどのつき)
 おつる  扇 雀
 亀太郎  橋之助


二、怪談乳房榎(かいだんちぶさのえのき)
    中村勘太郎四役早替りにて相勤め申し候

うわばみ三次/下男正助/菱川重信/三遊亭円朝  勘太郎
お関  七之助
磯貝浪江  獅 童


秀山祭九月大歌舞伎
中村歌 昇改め 三代目 中村又五郎襲名披露
中村種太郎改め 四代目 中村歌昇襲名披露
平成23年9月1日(木)~25日(日)

昼の部  11時開演

  再春菘種蒔
一、舌出三番叟(しただしさんばそう)
 三番叟       染五郎
 千歳  種太郎改め歌 昇


  恋飛脚大和往来
二、新口村(にのくちむら)
 忠兵衛       藤十郎
 梅川       福 助
 孫右衛門       歌 六


  菅原伝授手習鑑
三、寺子屋(てらこや)
 松王丸       吉右衛門
 千代       魁 春
 戸浪       芝 雀
 園生の前       福 助
 春藤玄蕃       段四郎
 武部源蔵  歌 昇改め又五郎


四、勢獅子(きおいじし)
 鳶頭鶴吉       梅 玉
 鳶頭雄吉  種太郎改め歌 昇
 鳶頭亀吉       松 緑


夜の部 16時30分開演

一、沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)
  二の丸乱戦の場
  城内山里糒倉の場
                  
淀君       芝 翫
豊臣秀頼  歌 昇改め又五郎
千姫       芝 雀
大住与左衛門       錦之助
正栄尼       東 蔵
大野修理之亮       梅 玉
氏家内膳       吉右衛門


二、歌 昇改め又五郎
  種太郎改め歌 昇 襲名披露口上
          幹部俳優出演


  菅原伝授手習鑑
三、車引(くるまびき)
梅王丸  歌 昇改め又五郎
松王丸       吉右衛門
杉王丸  種太郎改め歌 昇
藤原時平       歌 六
桜丸       藤十郎

  増補双級巴
四、石川五右衛門(いしかわごえもん)
    市川染五郎宙乗りにてつづら抜け相勤め申し候

石川五右衛門    染五郎
此下久吉       松 緑

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コメント 3

まる

「連獅子」単なるジジバカ演目にしかみえなかったけどな。
あれが上手くみえるのか~。
日本舞踊やったことないでしょ。
ジジがひどすぎたからそれに比べたらなんぼかマシって程度。
by まる (2011-06-04 22:55) 

まくうち弁当

初めまして。

6月の千之助君の批評を面白く読ませて頂きました。
うまい子だと驚愕してはおりましたが、以前、玉三郎さんが名指しで誉めていたのが印象的で、今月の連獅子はさぞやと思っておりました。

ところで、演舞場に玉三郎さんはしばらく、いえ下手したら二度と出ないでしょう。
東京在住者としては勘弁してほしいのですが、玉三郎さんの味方ですので、折れないでほしいとは思っています。
詳細は、いつの日にか。
また来月のご批評を楽しみにしております。
by まくうち弁当 (2011-06-18 00:09) 

まくうち弁当

うわあ~これ載るんですか。すみません管理者さん消して下さい。慣れない投稿なんかするもんじゃないですね失敬しました。すみませんちょっとまずいんで消して下さい。
by まくうち弁当 (2011-06-18 00:14) 

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