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仁左衛門の権太と吉右衛門の十兵衛 それぞれの初日 6月30日の劇場の天使 [歌舞伎]2009-06-30 [歌舞伎アーカイブス]

 今日は仕事を休んで歌舞伎見物の一日。もっとも歌舞伎座でも国立劇場でもなく、江戸川総合文化センターと北とぴあである。(社)全国公立文化施設協会 主催 東コースと中央コースが同じく都内で初日を迎えたのである。7月は歌舞伎公演が多くて、歌舞伎座、国立劇場、大阪松竹座、コクーン歌舞伎、それに2組の地方巡業と6班体制である。特に大阪松竹座が菊五郎と菊之助の『NINAGAWA十二夜』になったおかげで、仁左衛門のいがみの権太を観ることができるようになった。仁左衛門が地方に出るのは襲名以来だという。

 さて江戸川総合文化センターの開演時間は14時と遅めだったので、午前中はチェロの練習と1,000メートル泳ぐノルマをこなす。このところ毎日泳いでいるせいで体重が4ヶ月で4キロ減った。このまま、あと1キロは減らしたいところである。それぞれ初日を迎えたわけで、どちらを先に観るか迷ったが、終演時間が遅く駅までの距離が遠い江戸川の仁左衛門の方を先に観ることにして、約45分の移動時間で北区の吉右衛門の「沼津」の開演5分前に滑り込んだ。

 公表されていた終演時間が17時15分の予定だったのが5分ほど早まり、タクシーに飛び乗って、新小岩の駅のホームに15分に立つことができたので間に合ったようなものでヒヤヒヤものだったが、どちらも義太夫狂言に定評のある第一人者同士であるだけに高水準の舞台を楽しむことができた。これから地方でご覧になる方は、大いに期待していいと思う。

 それぞれの感想は後日ということにして寸評を少々。どちらもクラシックのコンサートも開催できるような文化施設でありながら、定式幕があり、上手と下手に花道に使用できる脇舞台といか通路がある。江戸川の方が収容人員が多いだけに、長かったけれど仮設の鳥屋が設けられていた。

 コンサートホールでもあるので天井が高く、プロセニアムも高いのだが、その3分の1が黒幕で覆われていて、定式幕の割合も歌舞伎芝居にはちょうど良いように調整されているようだった。どちらも階段が多くて、観やすいかわりにお年寄りには危険な会場でもあった。上演中に、どちらの会場でも携帯電話の着信音が鳴り響き、とくに江戸川の方は、上演中にもかまわずに移動する人が多く閉口した。もっとも舞台上の熱演が、そうした悪条件をものともぜずに感動させてくれたのが何よりだった。

 『正札附根元草摺』は愛之助の五郎と孝太郎の舞鶴である。小柄な二人なので場内を圧するような迫力には欠けたが、歌舞伎味が横溢して近代的なホールを一気に歌舞伎の世界に誘う効果があったように思う。

 『義経千本桜』は地方公演でありながら「下市村茶店の場」「下市村釣瓶鮓屋の場」を続けて上演する丁寧さ。多少のカットがあるものの、仁左衛門のいがみの権太の好演で最後まで飽きることなく、集中力を欠くこともなく楽しめたのがよかった。小金吾の立ち回りから弥左衛門が刀を構える幕切れまでだしたので、後の物語の展開が理解しやすかったと思う。

 特筆したいのは、女房小せんと弥助の二役を演じた秀太郎の存在である。若葉の内侍の身替わりになる場面も吹き替えを使わずに自身で演じた。すぐに維盛に早替わりする必要があるのだが、口を布で覆われていて表情ひとつ変えることのできない不利な条件の中で、花道にかかり権太への想いを目だけで見事に表現した。本当に感動的な場面で泣かされた。

 仁左衛門は上方風の演じ方で、母親に甘えたり、自分の子供の巾着袋を頬に当てながら絶命したり、肉親への愛情を丁寧にみせて、実によく泣く権太だった。泣くのをごまかすためにいろいろするのが、泣かせるものの煩わしく思える部分もあって、好みの分かれるところかもしれない。鮓桶を間違える手順など合理的なのは、いかにも上方らしく感心した。

 一方の『沼津』は、吉右衛門の十兵衛、歌六の平作、芝雀のお米と播磨屋にゆかりのある役者によって演じられた。幕切れは涙で吉右衛門が霞んで見えなかったほどだが、ところどころ完成度が低いところも散見されて、芝居の出来からいえば江戸川の方に軍配が上がった格好になった。『沼津』は何故か沼津では上演されない。仁左衛門が沼津で公演する。そのかわりお隣の富士市で『沼津』が上演される。千本松原は沼津宿と吉原宿の間にあるので、ご当地といえなくもない。天使の故郷なのでよく知っているが、吉原の名前が何回もでてくるが、江戸の吉原もでてくる。観客が混乱しないかちょっと心配した。そういえば沼津の和菓子店では「平作最中」というのを売っていたのを思いだしたりした。

 『奴道成寺』は染五郎の演し物で、花形役者らしい華やかさがあったのがよかったが、肝心の三ツ面を落としてしまったり、目にもとまらぬ鮮やかさという風ではなかったのが残念だったが、地方公演では受けるのではないだろうか。

 一日の内に仁左衛門と吉右衛門の得意演目を楽しめて得した感じだが、どちらの芝居も街道沿いの茶店から始まるので、ちょっとしたデジャブのようだった。それにしてもハシゴをしたのが天使以外にも何人か発見して驚く。

2009-06-30 23:56
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