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歌舞伎よどこへ? [エッセイ]2009-12-27 [エッセイ アーカイブス]

 昨年から今年へかけて、中学、高校、大学の同窓会があった。さすがに三十年以上の歳月が流れると、学友とは没交渉で、誰が誰やらという状態だった。自己紹介の時間などがあり、歌舞伎を観るのが趣味などと話すと大いに不思議がられた。驚いたことに、中学の同級生には、今まで誰も歌舞伎を観たことのある人間がいなかった。高校、大学も同様である。一生歌舞伎に縁のないまま死んでしまう人が大多数なのだと改めて思い知らされた。

 天使は両親を二十年以上も前に一度だけ、歌舞伎座に招待したことがあって、せっかく一等席を奮発したのに、後日に同じく招待した帝国劇場の美空ひばり公演の方が、強く印象に残っていたようでガッカリしたものだった。それからは、上京の折には藤山寛美の松竹新喜劇へよく連れていった。おかげで寛美の至芸を数多く楽しめたのだが・・・。

 お正月のNHKといえば、歌舞伎ファンのお楽しみは歌舞伎の生中継だろう。来年も「こいつぁ春から~初芝居生中継~」としてNHK教育で2010年 1月 2日(土)午後7:00~10:00まで放送される。勘三郎の「京鹿子娘道成寺」「車引」などのほかに、演舞場、浅草公会堂の模様も紹介されるらしい。さらに、3日(日)のBS2では、12時10分から国立劇場の初春歌舞伎公演「旭輝黄金鯱(あさひにかがやく きんのしゃちほこ)」が、冒頭を除いて、ほぼ完全な形で生中継されるらしい。どちらの時間も天使は劇場にいるので、ライブで観ることはできないのだが、日頃の冷遇に比べ、お正月以外では考えられない待遇のよさではある。

 年に一度とはいえ、全国各地で東京の歌舞伎が楽しめるのだから、めでたいことではあるが、果たしてどれほどの人がこの番組を観るのだろうか。視聴率は限りなくゼロに近いに違いない。残念なことだが、これが現実だと思う。歌舞伎座や国立劇場へ多数のスタッフを派遣し、生中継をするとなると、どれだけ金がかかることか…。それで低視聴率では、泣きっ面に蜂である。それでもNHKが、なんとか歌舞伎の生中継を存続させていてくれることは喜ばしい限りである。

 来年は現在の歌舞伎座からの初春大歌舞伎の生中継が最後である。以前はもっと放送時間が長く、歌舞伎座の玄関で歌右衛門が折り目正しく「新年明けましておめでとう存じます」と挨拶をしたり、白鸚の「石切梶原」で、開幕前、大庭を演じる現・幸四郎の楽屋にカメラが潜入したりとか凝った演出があったように思う。お正月だから歌舞伎でも、一年に一度ぐらい観るかという観客の多い初春興行だが、果たしてテレビ中継が新しい観客を呼ぶことに役立っていたのかどうか…。副音声で解説がついていても、やはり難解で退屈なもの、素人には敷居の高い場所という先入観があるのだろうと思う。

 新しい観客を呼び込むために、さまざまな試みがなされたが、来年の正月は演舞場で猿之助が再創造した歌舞伎を受け継いで海老蔵が「伊達の十役」に挑戦する。大喜利 「垂帽子不器用娘」 も初演時同様に上演されるのも注目される。猿之助が体力・気力が最も充実していた時に初演された人気演目に再びふれることができるのも嬉しい。
 
 猿之助の復活狂言の継承は、勘三郎あたりが演じてくれるとピッタリだと思うのだが、平成中村座やら現代劇作家・演出家とのコラボとか勘三郎の興味は別方向なのが残念でならない。唯一、歌舞伎の新作を提供し続ける勘三郎の志は評価しても、結果をともなっていないのは歯がゆいし、歌舞伎での決定版ともいえる当たり役中の当たり役がないのも辛い。「歌舞伎よどこへ?」という問いかけは「勘三郎よどこへ?」という呼びかけと同じような気がしている。           

2009-12-27 23:17
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