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吉田玉男の命日 [エッセイ]2007-09-24 [エッセイ アーカイブス]

 恒例の文楽の九月公演は、最初から9月24日の千秋楽に観ることに決めていた。なぜなら故・吉田玉男の命日だからである。昨年の9月24日に吉田玉男は87歳で亡くなった。第二部は吉田玉男一周忌追善で「菅原伝授手習鑑」の上演である。上演前には平河天満宮にお詣りした。  

 菅丞相を遣ったのは吉田玉女。玉男の弟子だから玉女。「男」→「女」という安易な命名な人だとばかり思っていたが、今回の舞台は全く別人のよう。特に丞相名残の段で上手の一間から登場した際、彼が遣う菅丞相をジッと観ていたら涙が溢れてきた。その時はそれだけだったけれど、幕が閉まってから廊下を通り、ロビーを抜け、半蔵門駅まで向かう道で涙が止まらなくなった。

 文楽で泣いてしまったのは何年ぶりだろう。珍しすぎて思い出せない。はっきり言ってもう感性がすり切れてしまったような観客で、いつも舞台を斜めに観ているようなへそ曲がりなのである。舞台を観ているときならともかく、何故終わってから…。ちょっと自分でも不可解。後から感動が湧いてくるような舞台だった。今年、綱大夫と清治が人間国宝になったけれど、初めて文楽を観た頃に玉男は人間国宝になったのである。文楽を見始めてほぼ30年。文楽を観ることは玉男を観ることでもあったのだ。初めて文楽に連れて行ってくれた人も亡くなってしまった。生きている限り文楽を観続けたいと心から願った夜だった。


2007-09-24 23:12
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