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ドリーミング 劇団四季 四季 [ミュージカル]2009-11-08 [ミュージカル アーカイブス]

 今日は夕方からゼミの担当教授の退官を記念したパーティーがあるので、その時間に間に合うようにと劇団四季のミュージカルを選択した。今、東京では「ライオンキング」「アイーダ」「コーラスライン」「ドリーミング」さらに3日後には「キャッツ」が横浜で開幕する。名古屋では「オペラ座の怪人」、京都では「美女と野獣」、大阪では「ウィキッド」、福岡では「ウエストサイド物語」、全国公演として「人間になりたがった猫」、「エルコスの祈り」、「アンデルセン」、さらに近日オープンする作品としては、「劇団四季 ソング&ダンス 55ステップス」、来年には「エビータ」、「サウンド・オブ・ミュージック」などが控えている。

 さすがに東京公演だけでも4公演とあっては、動員部分で勝ち組と負け組に分かれてしまったようである。勝ち組は、ロングランが始まったばかりの「アイーダ」。負け組の筆頭は、この「ドリーミング」ということらしい。かつて日生劇場で上演された「青い鳥」が、青山劇場のこけら落としの際に「ドリーミング」と改題されて大作ミュージカルとして生まれ変わった。ベースとなったのはオリジナルの岩谷時子=作詞、内藤法美=作曲のものだが、イルカや小椋 佳が楽曲を提供し、当時ヒットしていた「キャッツ」よりもダンスシーンのダンサーが多い!という不思議な惹句で大宣伝されて4ヶ月?ぐらいのロングランをしたはずである。

 キャストも日下武史、浜畑賢吉、市村正親、山口祐一郎、野村玲子、保坂知寿、志村幸美といったベストのキャスティングが実現した。大宣伝の甲斐あってか大ヒット。「キャッツ」を後援したフジテレビに対抗してか、「ドリーミング」はTBSが後援し、TBSでゴールデンタイムに舞台中継が放送されたりもした。天使はもちろんビデオを持っているのだが、YouTubeにも映像が出ているようである。

 その時の記憶では、「青い鳥をさがそう」というメインテーマ?と志村幸美の「いつの日か夜が明ける」の熱唱が印象深い。さらに当時の最新鋭の舞台機構を備えた青山劇場の回り舞台を備えたスタイディングステージや舞台全体が大迫りになっていて、さらに小迫りに分割するという日本初の機構を生かした演出がされた。

 今回の上演の特徴は、未来のこどもたちのナンバー「生まれるってどんなこと」が子役によって上演されたこと。チルチルミチルの兄妹が女優によって演じられたこと。上演時間、休憩時間が短縮され合計が2時間20分になったことである。聞くところによると子役をカーテンコールに出演させるには21時を過ぎることができないので、上演時間が2時間5分、休憩時間が15分に短縮されたらしい。

 おかで天使の大好きな「いつの日か夜が明ける」は、光の清が登場するときにだけ歌われ、本来の母の愛の場面での大人の鑑賞にも耐えうる感動的な歌唱はカット。しかもメインテーマもオリジナルの岩谷時子=作詞、内藤法美=作曲の「青い鳥」になってしまってガッカリ。確かに悪くない曲だけれど、リズムの刻み方など、やはり古い曲だなあと思う。元々切り貼りされた作品とはいえ、場面毎の音楽の傾向が変化してしまって落ち着きが悪い。

 最大の問題は、名場面の「生まれるってどんなこと」の子役の登用である。人間になって生まれる前の子供でもない不思議な存在なので、別に子役で演じる必要はないはずである。来年上演される「サウンド・オブ・ミュージック」や噂される映画「リトル・ダンサー」のミュージカル化の作品に備えての自前の子役養成だとしたら、何とも手回しのいいことではある。子役独特の演技が鼻につくし、恋人同士の別れの感情表現など子供には無理である。せっかくの「生まれるってどんなこと」が台無しだった。

 それに比べれば、子供のためのミュージカルで徹底的に鍛えられた女優による子供演技は、チルチルとミチルの兄妹で見事な成果を上げた。歌舞伎の女形が舞台で女性を演じて、実際の女性以上の存在に変身してしまう。ミュージカルでも、子供以上に子供を演じることのできる女優の技術は、本物の子供たちの演技を遙かに越えていて、今さらながら劇団四季の女優陣の子役演技のレベルの高さをみせつけた。今後も、間違ってもチルチルとミチルを子役が演じることのないようにお願いしたい。

 感動的な部分は、亡くなった人を追想する場面、母親の愛の深さを知る場面などなど、観客の情感に訴えるところで、何度も泣かされた。反対に退屈だったのは「森の怒り」のダンスナンバーで、環境破壊など今日的なテーマを内包していながら、単なるテクニック先行の振付で面白みがないし深さにも乏しかった。しかもテクニック的にも見るべきものは少ないし、レベルはけっして高くない。

 古い演出なのに色あせて見えなかったのは第2幕の冒頭の「幸福の国」の場面である。たぶん金森 馨のアイディアが生かされているのではないかと思うが、モダンアートのようなデフォルメされた醜い?幸福の姿が異彩を放っていて、綺麗事ばかりが並んだような平凡な作品の中では、一番衝撃的でありながら芸術的な場面であったと思う。前後の場面とあまりに違いすぎるくらいはあるが名場面だと思う。

 チルチルの大徳朋子、ミチルの岸本美香は、本当に子供に見えて素晴らしい。光の精を歌った沼尾みゆきは、聴かせどころのナンバーが削除されてしまったので、実力が発揮されなかったのではないだろうか。母親チルと母の愛に加えて夜の女王を歌った白木美貴子は、歌唱力とも演技力ともに、このキャストの中では安定していた。かつて前進座の南座の公演で主役級に抜擢された舞台を観た記憶がある。前進座に誕生した久々の大型新人と期待された人である。

 やがて退団して、東宝ミュージカルに出演するようになり、とうとう劇団四季の舞台にも出るようななったのか思うと感慨深い。前進座でも子供向けの時代劇ミュージカルなどを上演するのだし、日本のミュージカル畑を全て体験している人として貴重な存在ではある。さて、それ以外に目立つ資質、才能を持った役者がいたかというと微妙である。スター主義の劇団ではないので難しいのかもしれないが、もっと自分の存在を舞台の上で主張してくれないと面白くなってくれないのだ。

 音程を外さず、正しい振付で踊り、開口で正しい発音で台詞を朗誦しようとも感動を生むとは限らないのである。方法だけでは駄目で、たぶん演出家が忌み嫌うような個性が必要なのだと思う。人畜無害を絵に描いたような劇団四季の男優や女優では無理なのかも。それにこんなに公演数が多くては、才能の分散化は避けられないハズである。

 スター主義の劇団ではないとはいえ、プリンシパル、ソリスト、コールドといったバレエ界の階級制度を導入するなど、自前のスターを養成するような制度つくりがあってもいいのではないだろうか。少なくとも自前の子役養成事業よりも、自前のスターづくり、役者としての最終目標が必要だし、役者のモチベーションを高める方法を考えるべきだと思う。

 上演時間は短くたものの、それを感じさせないほどカットは巧みだった。しかし、短期公演とはいえ、本拠地である東京でカラオケミュージカルはないと思った。全国でミュージカルを上演していても、その多くは本物の音楽を伴わない「偽物のミュージカル」だと自覚していない観客の増殖は恐ろしい現象である。そしてカラオケミュージカルに慣れてしまい当然と思う役者の増殖も同様である。
 
スタッフ
製作・演出:浅利慶太
脚色:劇団四季文芸部
振付:加藤敬二
音楽構成:鎮守めぐみ
作詞(五十音順):イルカ・岩谷時子・小椋 佳・林 光・劇団四季文芸部
作曲(五十音順):イルカ・小椋 佳・渋谷森久・鈴木邦彦・内藤法美・林 光・三木たかし・宮川彬良・宮川奏.
編曲:宮川彬良・寺嶋民哉.
照明:沢田祐二
美術:小林巨和
舞台美術:金森 馨・土屋茂昭・磯野宏夫・高橋常政・小林巨和
衣装:ローズマリー・バーコウ・高橋常政

キャスト
チルチル : 大徳朋子
ミチル : 岸本美香
犬のチロー : 田中彰孝
猫のチレット : 林 香純
パン : 白瀬英典
火 : 本城裕二
水 : 柏谷巴絵
牛乳 : 市村涼子
砂糖 : 塩地 仁
光/隣の娘 : 沼尾みゆき
ベリリューヌ/ベランゴー : 光川 愛
祖母 : 斉藤昭子
祖父/カシの大王/時の老人 : 田島亨祐
母親チル/夜の女王/母の愛 :白木美貴子
父親チル : 田代隆秀

【男性アンサンブル】
小林嘉之
小原哲夫
伊藤綾祐
深堀拓也
嶋野達也
加藤 迪
沢樹陽聖
文永 傑
亀山翔大
沖田 亘

【女性アンサンブル】
山中由貴
河内聡美
中村友香
細見佳代
海野愛理
脇野綾弓
猪爪明子
松尾千歳
加藤あゆ美
鈴木真理子
桜 小雪
木許由梨

【未来の子どもたち】
ジャン  : 相良飛鷹
ポリーヌ : 吉岡花絵
鼻風邪  : 中村浩大
恋人の男の子 : 相良飛鷹
恋人の女の子 : 吉岡花絵
惑星の王 : 山内瑞葵
弟 : 中村浩大
【子どもアンサンブル】
斉藤百南
小金丸陽菜乃
葦澤 咲
佐々木 玲
泉 里晏
松永さとり
木村 想
渡辺崇人

2009-11-08 23:11
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