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英国ロイヤル・オペラ日本公演「ドン・ジョヴァンニ」2015年9月17日NHKホール [オペラ]













5年ぶりの英国ロイヤル・オペラの日本公演である。来日公演にそれほど魅力を感じなくなったけれども、やはり歌劇場の存在としては大きいのでとりあえずチケットを買ってみたという感じである。この歌劇場に接したのは、1986年の来日公演が最初で9月から10月にかけて4演目の公演があった。

マーク・エルムラー指揮
マイケル・ジュリオット演出
『カルメン』
アグネス・バルツァ、ホセ・カレラス、ジノ・キリコ、ジョアンナ・ボロウスカ

ジャック・デラコット指揮
アンドレイ・シェルパン演出
『トゥーランドット』
オリヴィア・スタップ 、フランコ・ボニソルリ 、シンシア・ヘイマン

ジャック・デラコット指揮
イライジャ・モシンスキー演出
『サムソンとダリラ』
ジョン・ヴィッカーズ、ブルーナ・バグリオーニ、ジョナサン・サマーズ

ガブリエル・フェッロ指揮
ジョン・コプリー演出
『コシ・ファン・トゥッテ』
キリ・テ・カナワ、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター 、リリアン・ワトソン 、ジョン・エイラー 、ウィリアム・シメル 、ワルター・ベリー

当時は4演目が当たり前で大阪などでも公演があった。アグネス・バルツァとホセ・カレラスの『カルメン』、キリ・テ・カナワの『コシ・ファン・トゥッテ』などスター歌手が出演する演目が人気を集めたように思う。確か『サムソンとダリラ』では エレナ・オブラスツォワがキャンセル。1988年のメトロポリタンの『イル・トロヴァトーレ』も降板してしまった記憶がある。それにしても約30年前で、その頃は新国立劇場はなく、二期会や藤原歌劇団のオペラ公演だけが頼りという状態だったので、チケットもよく売れたのだろう。

今回もNHKホールと東京文化会館に分散しての二演目上演。それなりにスター歌手が揃ったので、よく知られた演目を選んだのだろうが、さすがにS席55,000円は今のご時勢では高額すぎたのか売れ行きは芳しくなかったようである。もっともWEBを通じて様々な手段をつかっての販促が功を奏したのか、ほぼ客席は馬っていたが、30年前の興奮といったものはなく、ごく日常の風景としてオペラ公演が受け入れられているようだった。

開幕前、幕前に総支配人と通訳の女性が登場。足元が暗かったのか大きな音を立てて女性が顔面から転倒。「誰かが降板?」「あの女性は大丈夫か」といったどよめきが起った。内容はドン・オッターヴィオの ローランド・ヴィラゾンがノドの調子が悪いけれど、観客のために歌います的なアナウンス。事実、調子がよくなさそうで、高音には張りや艶がなく、とりあえず似たような音を出しましたといった感じで何とか最後まで歌いとおし大きな拍手を受けていた。第二幕では調子を上げていたようなので最終日も歌ってくれるだろうと思う。歌が今ひとつでも、気持の入った歌唱と存在感で納得の役作りだった。

さて今回の目玉は、流行のプロジェクション・マッピングを使用した演出だろうか。すでに日本でも使われている手法なので目新しさはないが、舞台装置に映像を投影するのが基本なので、どのような工夫をもって上演するのか興味深かった。

基本の舞台となるのは通常の舞台の上に置かれた回り舞台を備えた床。その上に明るい灰色っぽい二階建ての立方体の建物。それを回転させる回り舞台。さらに上手と下手からも壁がスライドしてくるという大掛りな仕掛け。二階建ての立方体の中には、階段や小部屋、隠し壁?などがあるものの家具類は一切無し。ちょっとした「オトナのためのリカちゃんハウス」といった趣。しかし、足のある幽霊が徘徊しているので不気味な効果のある「ブラックなリカちゃんハウス」かも。二階の回廊には壁や固定の手摺がなく、映像が映し出されやすくなっていて、歌手達は腰の高さに張られたロープを命綱にして演技をするというものだった。

開幕と同時に次々と動きを伴った文字が現れる。どうもドン・ジョヴァンニが不適切な関係をもった女性の名前らしい。その後も3Dの奥行をもった画像が、回り舞台の回転にあわせて動いていくなど様々な動きをみせて技術的には大変面白いのだが、舞台面があまり変化しないのと説明的な部分もあって、観客の想像力を奪った面もあったと思う。

一番の問題は最後の「地獄落ち」で派手なマッピングの演出が施されるのかと思えば、中央の建物は動かすことが出来ないので、ドン。ジョヴァニが舞台中央に小さくうずくまるというもの。ホームレスや難民の姿をダブらせる狙いがあったのかもしれないが地味。それに伴い最後の六重唱は上手と下手に歌手が集まって歌うという変則版で、「ドン・ジョヴァンニ」を聴いたという満足感を殺ぐもので感心しない。

回り舞台を設置するというスペース上の問題があるにしろ、NHKホールの間口の広い舞台でモーツァルトを上演することに無理があったのではないだろうか。指揮者のパッパーノは指揮とフォルテピアノを弾くという大活躍なのだが、緻密で繊細な彼の奏でる音楽も巨大な劇場空間に拡散ぎみ。30年前ならいざ知らず、新国立劇場のようなモーツァルト・オペラに適した空間で聴く事を知ってしまった観客には辛い結果となった。オリジナルの舞台装置を持ち込んだのだろうが、20MもあるNHKホールの舞台では左右の空間が埋まりきらないので音楽同様に観客の意識が拡散してしまっていたと思う。モーツァルトを聴いたという喜びのない舞台上演だった。オーケストラピットにはモーツァルトのオペラの編成なので楽員は半分くらい?上手の空いたスペースには合唱団がはいっていた。オーケストラも苦労したことだろうと同情した。

歌手陣は、アナウンスのあったローランド・ヴィラゾンはともかく、いずれも好調だったのは何よりだった。現代は歌手に要求されるのは、声のほかに、ヴィジュアル面も重視される傾向がある。ルックスや背の高さなどもうちょっとという歌手がいないでもなかったが、中ではツェルリーナを歌った ユリア・レージネヴァが小柄ながら、恵まれた声と容姿で楽しませてくれた。総じてスマートに演じられすぎるなあと思っていたらオールヌードの女性が登場したりと驚きもあるにはあったが、一歩間違えば退屈の極みになりそうな危ない舞台だった。


英国ロイヤル・オペラ日本公演「ドン・ジョヴァンニ」
キャスト表 2015年9月17日 18:30開演 NHKホール

W.A.モーツァルト作曲
「ドン・ジョヴァンニ」
全2幕 

台本: ロレンツォ・ダ・ポンテ
指揮 アントニオ・パッパーノ
演出 カスパー・ホルテン
演出助手 エイミー・レーン

装置 エス・デヴリン
ビデオ・デザイン ルーク・ホールズ
衣裳 アニャ・ヴァン・クラフ
照明 ブルーノ・ポエト
振付 シーニュ・ファブリチウス
殺陣 ケイト・ウォーターズ
合唱監督 レナート・バルサドンナ
コンサートマスター ヴァスコ・ヴァシレフ

レポレロ アレックス・エスポージト
ドンナ・アンナ アルビナ・シャギムラトヴァ
ドン・ジョヴァンニ イルデブランド・ダルカンジェロ
騎士長(ドンナ・アンナの父) ライモンド・アチェト
ドン・オッターヴィオ(ドンナ・アンナの婚約者) ローランド・ヴィラゾン
ドンナ・エルヴィーラ ジョイス・ディドナート
ツェルリーナ ユリア・レージネヴァ
マゼット(ツェルリーナの夫) マシュー・ローズ
ドンナ・エルヴィーラの侍女 チャーリー・ブラックウッド

フォルテピアノ アントニオ・パッパーノ
ロイヤル・オペラ合唱団 / ロイヤル・オペラハウス管弦楽団

◆上演時間

第1幕 
18:30 - 20:10

休憩 30分

第2幕
20:40 -22:05

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