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沈黙  新国立劇場  [オペラ]

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新国立劇場のオペラ『沈黙』の前回の上演は中劇場だった。オーケストラピットに楽器が納まりきれなくて別室(B2階オーケストラリハーサル室)でオルガンや打楽器群が同時演奏されたものを中継するという奇妙な演奏形態だったのが話題になったりした。今回は大劇場へ会場を移したおかげで全部の楽器が納まった?ようである。

さて中劇場での初演時は天使にとって特別な思い出がある。2012年5月24日にお亡くなりになった畑中良輔先生と最後にお目にかかったのがオペラ『沈黙』の会場だったのである。たぶん先生にとっても最後のオペラではなかったろうか。1階ロビーの奥のバーカウンターの裏のスペースで、車椅子に腰掛けた先生と二人きりになる瞬間があった。その時に交わした先生との会話の内容は明かせないが、一生の宝となる言葉をいただいた。終演後に再びお目かかった時、「ありがとうございました」という言葉が自然に出た。不思議だった。

オペラを観終わってから、自宅に戻り、チェロの弦を全部新しいものに替えに行った。そして映画を観に行ったのだが自宅にFAXが届いていた。天使が所属する教会員の最長老だったFさんがお亡くなりになった知らせだった。礼拝では常に天使の後ろにいて励ましつづけてくれた人である。老人介護施設に入所する日に、天使に温かい言葉をかけてくれた優しい人だった。施設に面会に行くと、認知症が進んだのか天使の顔を見ても誰なのか思い出せないようだった。それならといつも後ろ姿をみていたのだからと後ろを向くと天使のことを思い出してくれた。とんだ『一本刀土俵入り』だが、天使の受洗を誰よりも喜んでくれた。聖書を朗読し、讃美歌を歌い、一緒に祈った。二度目の訪問ではよく眠っていたので会わずに帰った。そして今度の日曜日に訪ねようとしていたところである。

「イエスは言われた。
『わたしは、よみがえりです。いのちです。わたしを信じる者は、死んでも生きるのです。」」

(ヨハネ 11:25)

今回のオペラ『沈黙』は本当に素晴しく感動的な上演だった。もし不満を感じる人がいたとしたら、幕切れのもっとも大切な場面に音楽ばかりで歌唱がなかったことだろうか。主・イエスがロドリゴに向けて語りかけた原作の言葉が演出と音楽だけで表現していて感動的だったのだが、クリスチャンでなかったり、原作を読んでいないと理解できない場面だったかもしれない。

踏むがいい。
お前の足の痛さをこの私が一番よく知っている。
私はお前たちに踏まれるため、
この世に生まれ、
お前たちの痛さを分つため十字架を背負ったのだ。

激しかった音楽が優しいものに変わり、踏み絵を踏んだ小餅谷哲男のロドリゴが法悦の表情を浮かべるうちに静かに幕となる。光の十字架が現れ実に感動的な名場面となる。そこへ至るまでも緊張感が途絶えることなく続いて驚くべき劇的な音楽空間が出現した。それは指揮者の下野 竜也のひたむきな音楽作りとそれに応えた東京フィルハーモニー交響楽団の名演に支えられたことも大きいだろう。ほぼ全編歌いっぱなしのロドリゴの小餅谷 哲男とキチジローの星野 淳の熱演も忘れ難い。巨大な十字架と回り舞台だけのシンプルな舞台装置や繊細な照明が多場面を上手く構成し音楽を助けていた。一筋縄ではいかない合唱も巧みに歌った新国立劇場合唱団も忘れ難い。日本人だけでもここまで完成度の高い舞台を創れるのかと感心した。終演後は、あまりに感動してしまってしばらく拍手ができなかった。天使にしては珍しいことであるが。

スタッフ

【指揮】下野 竜也
【演出】宮田 慶子
【美術】池田 ともゆき
【衣裳】半田 悦子
【照明】川口 雅弘

キャスト
【ロドリゴ】小餅谷 哲男
【フェレイラ】黒田 博
【ヴァニャリーノ】成田 博之
【キチジロー】星野 淳
【モキチ】吉田 浩之
【オハル】高橋 薫子
【おまつ】与田 朝子
【少年】山下 牧子
【じさま】大久保 眞(全日程)
【老人】大久保 光哉(全日程)
【チョウキチ】加茂下 稔(全日程)
【井上筑後守】島村 武男
【通辞】吉川 健一
【役人・番人】峰 茂樹(全日程)

【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

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