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オンディーヌ 浅利慶太 演出  劇団四季自由劇場 [演劇]

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劇団四季を追い出された?浅利慶太と野村玲子らが株式会社浅利演出事務所を創立して上演の運びとなったジャン・ジロドゥの名作『オンディーヌ』を観に自由劇場へでかけた。大塚家具のように創業者である父親と娘の現社長との争いほど奇妙ではないが、創立者であり、劇団四季の精神的な支柱であるはずの浅利慶太を外してしまうとは、芸術集団の看板を下ろし、経済優先の団体に成り下がったことを内外に知らしめたようなものである。色々と問題があっても、単なる海外ミュージカルの日本語上演と子供向け旧作ミュージカルの繰り返し集団に落ちてはならないと強く思う。

その浅利慶太が劇場の外に出て観客を出迎えていたのには驚いた。いや感動した。演劇青年が年齢を重ねて演劇老人になってしまったが、チケットを1枚1枚売り歩いた頃に戻り、自分のやりたい芝居を思う存分やって世に問うのだという姿勢が潔く、その志は高い。もっともプログラムを開いてちょっと考えは変わってしまう。プログラムに浅利自身が書いたと思われる詩?が掲載されていたからである。浪花節というか、お涙頂戴というか、そのウエットな感覚が気持悪い。少なくとも『オンディーヌ』は、日本的な湿った雰囲気の芝居ではないはずだ。もっと知的で挑戦的な文章だったら良かったのに。浅利慶太は、その昔、「喧嘩屋」ではなかったのか?ちょっと理解に苦しむ文章だった。同年代の演出家である蜷川幸雄は車椅子に座っても演出を続けているという。「浅利慶太、負けるな」と声援を送りたい。

儚さ、に生きる


こんな日が来ようとは、思ってもいなかった。
人生何が起こるかわからない。
まさに青天の霹靂。
絶望の谷底に突き落とされても、
裏切られ心に傷を負いながらも、
人は生きていかなければならない。
舞台の幕は開けなければならない。
俳優はスポットライトを浴びて
束の間花と咲き、
幕が降りるや露と消える。
儚さに生きる宿命にある。


さて、舞台は日生劇場で初演された演出を踏襲した金森馨の美術から自由劇場の舞台にあわせた土屋茂昭による新しいものに変更になったようだ。第2幕のトロイの木馬や火山が迫り上がりで登場するというスペクタクルはなくなった。その部分は、映像というかCGで代用。むしろ観客の想像力を刺激する方向の演出で成功していた。台本も休憩を2回とって、上演時間2時間40分という原作に手を入れてスリムにしたようである。物語の展開に支障がないように、よほど上手く削ったのか違和感はなかった。

二重の円形の張り出し舞台を基本として、舞台奥に置かれる舞台装置と円形舞台に置く小道具で変化をつけていく形式。開幕前には緞帳が下がり、序曲?にあわせて緞帳にブルーの照明があたり水界を表現し、そこに一筋の光りが差し込んで、オンディーヌが地上の世界に行くというのを表現していて上手い滑り出しだった。

第1幕は、天然の不思議ちゃん15歳の少女・オンディーヌと恋愛よりも食欲?という、美しいルックスだけれど、ちょっとお頭の悪い体育会系・騎士&二股かける典型的な登場人物?のハンスの出会いの場面である。台詞の裏に隠された意味が浮かび上がって見事だった。経験豊富な野村玲子が安定していたし、山口嘉三と斉藤昭子も脇を固めて手堅い芝居だった。劇団四季から参加の中村伝は、背の高さや顔はまあまあなのだが、姿勢が悪くてノーブルさがでないのでハンス役としては失格。劇団四季は午前中にバレエのレッスンがあるのではなかったのか?背中をもっと鍛えないと舞台に立てないのではないだろうか。

第2幕は、侍従の下村尊則に華があって、なかなかの存在感をしめして上出来。ベルタ役の坂本里咲も台詞にタップリと仕掛けをしてくれるし、広瀬彰勇の水界の王も日下武史を髣髴とさせる演技で、観客の想像力の翼が大きく広がり、非常に面白い場面となった。とにかく舞台が台詞劇には手頃な大きさで、巨大な空間を埋めるのが精一杯のような芝居ではなくなっているのが良かった。

第3幕も、徹底して台詞の力を引き出そうとする演出でぐいぐいと観客を引っ張るはずが、裁判官Ⅱを演じた岡田吉弘の台詞の再三のトチリと劇団四季のメソードには受け入れ難い旧式な癖のある台詞回しで、せっかくの詩的な世界が台無し。観客の想像力の翼は見事に墜ちてしまった。ああ、第2幕まで良かったのに。同じ劇団昴からの客演なのに裁判官Ⅰの山口嘉三は明瞭な台詞を聞かせていただけに残念。その他の脇役も台詞が空中を飛び回るような力に欠けていて力量の差が現れてしまった。それでも、オンディーヌとハンスの長台詞でなんとか挽回して、舞台奥の湖に帰っていく場面は美しく感動的なものになった。

劇団四季が、今度はいつ劇場を貸してくれるか定かではないが、次回があるならば是非『ひばり』をお願いしたい。『オンディーヌ』や『ひばり』は代表的な演目にも関わらず、特に藤野節子から継承された『ひばり』が野村玲子で途切れてしまい、継承するような女優がいないのが悲しい。ロビー周辺には浅利慶太が常にいて、旧知の演劇人と交流していた。劇団四季では置かれることのなかったスタンド花などもあり、劇団四季のチラシが置かれていないことも、別団体の上演なのだと強く意識された。

いろいろ辛口な注文はつけたけれど、いわば敵地で堂々の真っ向勝負をした浅利慶太を見直した。

スタッフ
作ジャン・ジロドゥ
訳米村 あきら
台本協力水島 弘
演出浅利 慶太
装置土屋 茂昭
照明吉井 澄雄
衣装レッラ・ディアッツ
音楽諸井 誠
作詞岩谷 時子
音響実吉 英一
プロダクションマネージャー杉田 靜生

キャスト

オンディーヌ 野村 玲子
騎士ハンス 中村 伝(客演 劇団四季)
水界の王   広瀬 彰勇
ベルタ     坂本 里咲
ユージェニー 斉藤 昭子
オーギュスト/裁判官Ⅰ 山口 嘉三
王妃イゾルデ 田野 聖子
王       斉藤 譲
ベルトラム  高草 量平
侍従 下村 尊則
詩人 畠山 典之
マトー 山田 大智
裁判官Ⅱ 岡田 吉弘
劇場支配人/牛飼い 山口研志
ウルリッヒ   白倉裕人
召使い     桑原良太
漁師      笹岡 征矢
サランボー  花岡 久子
皿洗いの娘 山本 貴永
グレーテ  滝沢 由佳

水の精   笠松 はる
       橋本 由希子
       生形 理菜
       高橋 伶奈
       森 佐和子
       鐘丘 りお
       伊藤 夏輝  


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