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獨道中五十三驛 市川猿之助奮闘連続公演 十月花形歌舞伎・夜の部 新橋演舞場 [歌舞伎]

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『獨道中五十三驛』の初演当時、大当たりした『伊達の十役』のさらに上を行くような芝居が求められていた。初演の初日は6時間半にもなる上演時間で、初日だけで消えてしまった場面もあった。結局、初演では5時間ほどの芝居に短縮されてしまったようだ。初演では大井川で蓮台に乗って鴈治郎の鶴屋南北が登場するような場面もあったはずだが、昭和57年9月の京都南座公演以降は鶴屋南北の登場自体がなくなっている。それに伴い、上演時間もぐっと短くなったようで、最短で3時間半、通常でも4時間半程度の幅のある上演時間になり、十三役から十五役あたりで毎回変わっていたようである。

今回は初日あたりでは、上演時間が約5時間で21時30分ごろに終演だったようだが、どうした訳がスピードアップに成功したのか上演時間が4時間半、終演が21時と30分も短縮になっていた。今回の眼目は、初演の上演形態に戻すということで十八役の早替わり、水中での立ち回り、十二単をまとった怪猫の宙乗り、本水を使った立ち回り、十二役を次々に替わっての舞踊と各幕ごとに見せ場を作り飽きさせないように、とことん演じるという当時の猿之助の精神に立ち戻っての上演となった。

やはり30年前と違って、技術的な進歩があり、海中の場面では猿之助がクレーンの先端に乗って客席の中まで泳いでくるといった演出があったり、スモークを焚いた中でムーヴィングライトが飛び交う中を十二単の化け猫が宙乗りをしていくという、ショーアップされ、それでいて人間ではない何かが異次元空間を行くといった風があって、非常に面白い宙乗りだと思った。

体力の限界まで体当りで演じるということが、多くの観客の共感を呼び、先代の猿之助を観に劇場へ押しかけたものだったが、やがて、体力的に辛くなり始めると、いかに身体を休めながら演じるかということが課題となった。早替わり、大立ち回り、宙乗りはスーパー歌舞伎を含め、絶対に切っても切り離せないものになっていたのに応えられなくなったのが先代の猿之助の不運だったともいえる。

それに敢えて挑んだ猿之助の覚悟をみた。今では『伊達の十役』は海老蔵と染五郎が継承し、猿之助の専売特許だったはずの『四の切』も海老蔵が演じている。今は先代の切り開いた演目を継承するしかないが、やがて猿之助自身が、埋もれてしまった古典に新しい命を与えるような仕事をしてくれるのではないかと大いに期待するものである。

先代の猿之助のような「濃厚な色気」はなく、全体的にスマートに演じた印象が残った。どの場面も、あっさりし過ぎていたかもしれない。それが今の猿之助の頭の良いところで、突っ込んで大車輪に演じるよりも、第三者の目で冷静に舞台を見つめているような気がした。そう思ったのは「岡崎無量寺の場」で、いわくありそうな母おさんを演じて、大車輪に演じれば受けに受ける場面だったような気もするが、観客の期待を裏切って神妙に演じていたと思う。

そして、この人の本領は女形にあり、踊りにあるのだと再認識させてくれたのが浄瑠璃お半長吉「写書東驛路」である。次々に役を替えて踊っていくのは、先行作品の『お染の七役』ト同様で、様々な早替わりのテクニックが用いられていた。目まぐるしく替わるなかでも目を惹いたのが、「うかれ坊主」ならぬ土手の道哲の踊りの見事さで目を見張らされた。その一方で、「年増」風の女房お絹は、早替わりなので仕方ないが着物の着こなしも悪く、踊りも冴えなかった。若い女形の中で、『年増』のような渋い演目を踊れそうなのは、猿之助しか思い当たらないので、なんとか頑張って欲しかったのだが。

お袖の米吉を、民部之助に隼人を配するなど、次代の若手花形にチャンスを与え、浅草歌舞伎で共演した男女蔵や亀鶴、月乃助を除いた澤瀉屋一門など、適材適所の配役で、この大作を上演できたことは喜ばしい。

さて来月の明治座では、竹三郎の会で演じた『夏姿女團七』を本水を使った雨の中で立ち回りを演じるという。大阪へいけなかっただけに好企画である。そして国立劇場で猿之助が一日がかりで演じた『四天王楓江戸粧』を5時間程度にまとめての上演というのも面白い試みだと思う。来年以降も挑戦する役者であって欲しいと思う。

原田保の照明には賛否両論だったらしいが、歌舞伎をリスペクトした節度ある照明だったと思う。今時のアリーナで行われるLIVEなど、トコトン派手なので今回の猿之助の舞台は非常に地味だと感じた。今日届いた
"EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2014 "Music"のDVDも派手ではないけれど、新橋演舞場に比べれば、色々な挑戦をしていることがわかる。もっとも猿之助は福山雅治のファンだけれども。



EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2014

EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2014 "Music" (Blu-ray) (ドキュメント映像収録)

  • 出版社/メーカー: rhythm zone
  • メディア: Blu-ray



夜の部

三代猿之助四十八撰の内
通し狂言 獨道中五十三驛

  京三條大橋より江戸日本橋まで
  浄瑠璃お半長吉「写書東驛路」
  市川猿之助十八役早替りならびに宙乗り相勤め申し候

   
役者澤瀉屋:猿之助  
丹波与八郎  
由留木馬之助  
由留木調之助  
与八郎妹お松  
お三実は猫の怪  
江戸兵衛  
信濃屋丁稚長吉  
同  娘 お半
芸者雪野  
長吉許婚お関  
弁天小僧菊之助  
土手の道哲  
長右衛門女房お絹  
鳶頭亀吉  
雷  
船頭熨斗七  
江戸兵衛女房お六  
   
石井半次郎: 門之助
赤堀水右衛門 :右 近
重の井姫: 笑 也
弥次郎兵衛 :猿 弥
喜多八: 弘太郎
おはぎ: 笑三郎
芝居茶屋女房おきち: 春 猿
赤羽屋次郎作/赤星十三郎: 寿 猿
由井民部之助: 隼 人
お袖: 米 吉
奴逸平: 亀 鶴
赤堀官太夫: 男女蔵
小屋頭おなみ: 竹三郎
鶴屋南北: 錦之助


通し狂言 獨道中五十三驛
序幕
4:30-5:23

幕間       15分

通し狂言 獨道中五十三驛
二幕目
5:38-6:40

幕間       30分

通し狂言 獨道中五十三驛
三幕目
7:10-8:01

幕間       20分

浄瑠璃お半長吉 写書東驛路
8:21-9:00


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