花岡千春 ピアノ独奏会 浜離宮朝日ホール 2014年9月6日(土) [コンサート]
歌舞伎座の昼の部は、吉右衛門ら播磨屋一門を中心とした「秀山祭」。その呼びものは、吉右衛門の「法界坊」で、亡くなった勘三郎でなく、先代の勘三郎が大いに客席をわかせた正統的?な演出のものである。吉右衛門と仁左衛門が共演という大舞台で見逃せないものである。
序幕の第2場で、仁左衛門の道具屋の甚三が法界坊をやりこめて、花道を引っ込むところまでを見届けて、歌舞伎座を後にして朝日新聞社の中にある「浜離宮朝日ホール」へ急いだ。開演まで15分ほどしかないのである。晴海通りを渡り、新橋演舞場の前を通り、朝日新聞社の玄関の階段をのぼって、ロビーを通り抜けて別のビルの上階にあるホールにたどり着いたのは開演5分前だった。終演後は、歌舞伎座に舞い戻って夜の部を観るのだから、なんとも珍妙なスケジュールだが、花岡千春氏の年に1度の演奏会なんで聴き逃すわけにはいかないのである。
なぜなら国立音楽大学の教授として後進の指導にあたるかたわら、一世代前の日本の音楽史的には創成期・発展期にあたる作曲家の作品を掘り起こして演奏したりCDに残したりと注目すべき活躍をしているピアニストである。それと同時代の欧米の作曲家の作品も積極的に取り上げ、最新のCDは「チェレプニン コレクション ピアノ曲集という。
バレエ・リュスで活躍した指揮者を父に持つチェレプニンが収集した日本人の作曲家の1900年から1920年あたりの作品集である。その曲目の多彩なこと。9月10日の発売にさきがけて会場で先行発売されていたCDを早速買求めてみた。
江文也 作曲
「バガテル」
松平頼則作曲
「前奏曲 ニ長調」
「ミュジック・ボックス」
小舩 幸次郎作曲
「日本の子供へ送るピアノ曲」
江文也 作曲
「スケッチ」
太田忠
「交通標識」
箕作秋吉 作曲
「花に因んだ三つのピアノ曲」
伊福部昭 作曲
「ピアノ組曲」
ということで、最新のCDの曲目とは全く関係ない曲目が並んだ演奏会ではあるが、曲目の選択には工夫が凝らされているのは言うまでもない。
ヘンデル、ベートーヴェンから始まり、オペラ『死の都』でも有名なコルンゴルドのブルク劇場が上演するために書かれたシェイクスピアの『空騒ぎ』のための音楽が演奏されたのが注目された。この曲のみは暗譜でなく譜面が置かれた。元は小さなオーケストラ用に書かれた曲だが、ピアノソロの組曲になったものが取り上げられ、ピアノのための組曲から外されてしまった「庭の情景」は、その部分をピアノソロ用に新たに編曲したものを使用するという凝ったプログラムだった。そして最後は、シューマンの「アラベスク」と「フモレスケ」。
初めて聴く曲もあれば、なんとなく聴いたことがあるかもといった程度の聞き手で、なんとも頼りないのだが、ピアノ1台で、あれほど繊細でいて雄弁な音楽を聴いたことはないと思った。そして、演奏者の心がストレートに伝わってくるという希有な体験もした。優しく耳に心地良い音楽が奏でられ、最弱音の響きまで絶妙に表現できるホールの力なのか、この世の響きとも思えないような美しい音楽を聴いたという手応えがあった。
そして最も感動したのはアンコールで弾かれたシューマンの「トロイメライ」。」傷ついた心をそっと癒してくれるような包容力のある演奏で、この半年間に相次いで三人も亡くなってしまった身内のことがしきりに思い出されて泣けて泣けて仕方がなかった。本来は「夢心地」といった意味なのだろうが、ゆっくりと、そして深い想いがこめられた演奏は、聴衆を別次元へ連れ去ったのではないだろうか。終演後の歌舞伎座まで道のりが。それこそ「夢見心地」であったことは言うまでもない。
この半年間、あまりに悲しい出来事の連続で、PCに向かう気が全くおきなかったのだが、今日の演奏にふれ自分と音楽とのかかわりを深く考えさせられて、再びブログを再開とあいなったわけである。会場にピアニストの河原忠之さんがいた。同じ国立音楽大学で教えているので、客席にいても何の不思議もないのだが、明日は東京オペラシティコンサートホールで、ソプラニスタの岡本知高のピアニストを務めるはずである。何だか無性に彼らの音楽が聴きたくない、急遽、当日券を買うことにして聴きに行くことを決意した。
花岡千春 ピアノ独奏会
浜離宮朝日ホール
2014年9月6日(土) 14時開演 15時45分終終演予定
ヘンデル作曲
組曲第5番ホ短調 HWV430
Plelude
Allemande
Courante
Air,Doublel1,2,3,4,5
ベートーヴェン作曲
ピアノ・ソナタ 変ホ長調Op.31-3
第1楽章 Allegro
第2楽章 Scherzo Alegretto vivace
第3楽章 Menuetto Moderate e grazuoso
第4楽章 Presto con fuoco
休憩
コルンゴルド作曲
組曲《空騒ぎ》
1.婚礼の部屋の花嫁
2.ホルツハプウェルとシュレーヴァイン
3.間奏曲:庭の情景
4.ホーンパイプ
シューマン作曲
アラベスク 作品18
シューマン作曲
フモレスケ 作品20
アンコール曲
バッハ作曲/ケンプ編曲
シチリアーナ
松平頼則作曲
プレリュード ドビュッシー:民謡の主題によるスコットランド行進曲
シューマンサッキョク
トロイメライ
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