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ムサシ ロンドン・NYバージョン シアターコクーン [演劇]

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3年目の東日本大震災の日。渋谷のシアターコクーンで井上ひさしの遺作で、蜷川幸雄が演出し、ロンドンやニューヨークでも絶賛されたという『ムサシ ロンドン・NYバージョン』なる公演を観た。15日まで渋谷で上演し、3月21日から23日まで韓国で、その後は広島、長崎、金沢と公演が続くらしい。2009年に埼玉と大阪で初演され、2010年にはロンドン、埼玉、ニューヨークで上演。2013年は埼玉、大阪、シンガポールでの上演を果たし、井上作品には珍しく都内では初上演ということらしい。

芝居が開幕してしばらくは、なんとほとんど台詞が聴き取ることができなかった。日本語を話しているらしく、なんとなく雰囲気は伝わってくるのだが、言葉が明晰ではない上に、言葉に力がこもっていないので、心の動きなど何も伝わってこない。叫んでいるだけの芝居は大の苦手である。どうしたものかと途方に暮れた。

ようやく白石加代子などよく訓練を積んだ役者が登場してくれて何とか芝居らしくなったが、何を言っているか分からないような台詞の技術しかないとは情けない。確かに外国ならば字幕があるから問題なかったかもしれないが、電光掲示板が舞台の上手と下手に設けられていたのだから、日本語の台詞も字幕で出せばよかったのにと憎まれ口をきいてみる。

3時間を越える長い芝居だが、一番感動したのは芝居が終わってのカーテンコールで井上ひさしの笑顔の写真が舞台の上部に掲げられたときである。最後の芝居が、本当にこれでよかったのか。結局、多くの芝居を書いてビジネスとしては成り立ったけれど、世の中を変えるどころか、ますます井上ひさしが望まない方向へ日本は舵をきっているのではないだろうか。さぞ無念に違いないと思ったら泣けてきた。

例によって遅筆ゆえの苦し紛れのような物語展開と、その場しのぎの笑いとしてはレベルの低いものばかりで、どうして海外で評価が高いのか首を傾げたくなるような舞台だった。人力によって移動する竹林と、能舞台を模したような舞台装置、茶道、能、狂言、禅、武道など底の浅い理解で描かれた日本のイメージが高評価につながっているのだろうか。

芝居として楽しめたのは白石加代子の怪演で「蛸」の台詞と動作、演技は彼女にしか出来ない立派な芸である。不気味に動く腕など細部には凝っているものの、役者の魅力に頼りすぎたのか蜷川幸雄の演出も冴えない。音楽も平凡だった。でも一番の問題は脚本で、ここまで引っ張ってきて最後にその展開はないだろうと思った。そしてあの幕切れ。タネが明かされれば、あまりのことにがっかりで脱力した。なんとなく予想通りだったが。

3回ほどのカーテンコール。一部の観客がスタンディングオベーション。お目当ての俳優へ向けてなのか、本当に感動したのか、あるいはスタンディングする自分が素敵と思えるのか…。立つ立たないは自由だけれど、周囲を見回して立っちゃいましたはみっともないと思う。最初から立ち上がった勇敢なお嬢さんは一人だけだった。

スタッフ

作:井上ひさし(吉川英治「宮本武蔵」より)
演出:蜷川幸雄
音楽:宮川彬良
美術:中越 司
照明:勝柴次朗
衣裳:小峰リリー


出演

宮本武蔵 藤原竜也
佐々木小次郎 溝端淳平
筆屋乙女 鈴木杏
沢庵宗彭 六平直政
柳生宗矩 吉田鋼太郎
木屋まい 白石加代子
平心 大石継太
忠助 塚本幸男
浅川甚兵衛 飯田邦博
浅川官兵衛 堀文明
只野友膳 井面猛志

第1幕 13:30~15:00

休憩 20分

第2幕 15:20~16:40
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