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上演中は睡眠中? [文楽]

かつて親しくしていただいた畑中良輔先生は、声楽家でありながら、音楽について文章をお書きになっていた。初めて書いたのが昭和17年だというから、声楽家としてのスタートよりも早いことになる。新国立劇場のオペラ公演の初日には必ずお出でになっていて、ロビーでコーヒーをご馳走になることが毎回のことだった。

「どうしていつも開演前にコーヒーを飲まれるんですか」

「うん、公演中に眠くなると困るから」

「先生でも眠くなることがあるんですか」

「もちろん、だから絶対に寝ないように必ずコーヒーを飲むの」

それ以来、天使も劇場に行くと開演前は必ず普段は飲まないコーヒーを飲み、カフェインの入ったドリンク剤を用心のために飲む。可能ならば幕間ごとに。コーヒーのカフェインだけで眠気がなくなるとも思えないのだが、まあ自己暗示みたいなものであろう。

天使はもちろん自腹でチケットを買う。プログラムや筋書の類も必ず買う。それに交通費などを入れたら、毎回の出費は少なくないのだが、舞台で繰り広げられる世界にふれることができるだけで、全てを忘れることができる。舞台芸術が何より好きなのだ。心より愛している。

さて、先月の新橋演舞場の歌舞伎で、演劇評論家や演劇記者が揃って舞台を観る日「御社」の日の惨状を海老蔵が自身のブログに書いていた。そんなに寝られるものだろうか?まあ、多少のウトウトはあるだろうけれど、いささか誇張されたものだと思っていた。

ところが文楽の二月公演の客席目撃した光景は、想像を絶するものだった。ここまで酷いとは、怒りを通り越して、呆れ果て、悲しかった。とても舞台を愛している人々とは言い難いものだったからである。舞台上の出演者に大変失礼な行為だと思うが、彼らにはそうした意識はないらしい。興行会社から無料でチケットを与えられ、筋書をはじめとする資料を渡され、昼食をあてがわれ、コーヒーなどの飲み物もあって至れり尽くせり。新聞の演劇担当であれば、劇場までの交通費まで支給されているのではないだろうか。

それなのに上演中にほぼ全員が寝ているとは言語道断である。ある人は首下がり病?のように首を前に傾け、ある人は首を後ろに倒し、顔を天井を向いている。マスクをしているので、口をあけてといった浅ましい姿だけは見られないようにしている。イビキだけはかかないという名人芸があるらしい。

集団催眠術か昼食に睡眠薬でも仕掛けられていたのであろうか。文楽最長老の住大夫の語りを前にしてほぼ全員が寝ているのは残念なことである。海老蔵が憤りを感じたのも無理はない。高齢の男性が多いので仕方ないのかもしれないが、その下品なふるまいは、大阪の市長の無茶苦茶な主張と大差ない。彼らを批判するなら、まず自らの観劇態度から変えるべきだろう。少なくとも上演中に起きていられないならチケット代金は返上するべきだ。演劇評論家という特権階級?意識があって、当然の待遇と勘違いしていたとしたら鼻持ちならない連中である。かつて存在した総会屋と変わらないといったら言い過ぎだろうか。

誰が盛大に寝ていたか武士の情けで公表は控える。
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