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新版・人生はガタゴト列車に乗って…… 浜木綿子芸能生活60周年記念 シアター1010 [演劇]

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東宝制作の舞台なのに、シアター1010という北千住駅に隣接する丸井の11階にある劇場での公演である。元は日比谷の芸術座で初演された作品であるし、東宝では最後の座長公演が打てる女優・浜木綿子の芸能生活60周年を記念する公演なのだから、シアター・クリエで短期間であっても上演すればいいと思うのだが、満員御礼だったのは何よりである。

丸井のあるビルの11階にあるとはいえ、公共の施設らしく定員700名程度の手頃な大きさの劇場で、都心にあれば人気の出そうな劇場ではある。

客席のパノラマビュー
http://www.t1010.jp/panorama/vr/kyakuseki_tour/kyaku_tour.html

舞台のパノラマビュー
http://www.t1010.jp/panorama/vr/butai_tour/butai_tour.html

東京公演のあとは、名古屋・中日劇場、大阪・新歌舞伎座などの大都市での短期公演のほか、横浜、仙台、甲府、北陸地方、四国、松本、呉などを5月19日まで巡演し、さらに秋には福島と福岡の博多座での短期公演が決定したようである。かつてのように、大劇場での1ケ月公演は望めないにしても、これだけの長期間の地方公演が実現できるのだから、浜木綿子の実力は相当なものである。

香川照之の母親であるということは知っていて、新橋演舞場での襲名披露公演でみかけたが、実際に舞台を観るのは今日が初めてだったのである。観る機会は何度もあったにもかかわらず、山田五十鈴を見逃したという一生の痛恨事を繰返さないためにも是非観ておきたかったのである。

また、森繁久弥、山田五十鈴、森光子といった俳優を支え続けた東宝劇団の脇役の存在にも興味があったからである。東宝の演劇製作がミュージカル中心になってしまい、演じるべき劇場も失ってしまった今となっては復活はありえないので、これが最後になるかもしれないという思いで劇場へ足を運んだという訳である。

脇役で一人あげるとすれば荒木将久ということになるだろうか。今年82歳になるという高齢の俳優だが、初舞台が1955年のエノケンと越路吹雪の『お軽と勘平』だというのだから、浜木綿子と同じくまもなく芸能生活60年という大ベテランである。

年齢を感じさせない若々しさといぶし銀の演技が天使をしびれさせた。第1幕の最後で、浜木綿子の主人公に向かって放つ「それでも、母親か」という台詞の深さは彼でなければ発せられない名台詞だと思った。昭和一ケタの生まれらしく、舞台映えのする顔の大きさと押し出しのよさ、台詞の明快さなど、伊達に東宝の舞台で生き続けてきただけのことはあると感心させられるばかりだった。

さて、物語は井上ひさしの母親である井上マスさんの自叙伝を劇化したもので、今回の四半世紀ぶりの再演にあったて、堀越真によって新たに脚本が書かれたという。資産家の家に嫁ぎながら夫を亡くし、薬事法規試験に独学で合格しての薬局、生理用ナプキンの製造・販売、美容室経営、建設会社の設立、中華料理店に併設の売春宿の経営、最後は屋台店の開店にこぎつけるまでの波乱万丈の人生を描く。

全2幕全11場という多場面の芝居なのだが、旅公演も考慮してのコンパクトでありながら、短時間の舞台転換を可能にした舞台装置のおかげで少しのストレスも感じさせないで、物語を進行させていったのは見事な仕事だったと思う。

そうした多場面をうまく書き分け、よく考えると飛躍がありすぎる舞台なのだが、そうした欠点をいささかも感じさせない脚本の堀越真、手際よく、泣かせて、笑わせて、観客を楽しませる術を熟知した池田政之の演出も浜木綿子の魅力を引き出していて上手い。

中劇場規模の劇場とはいえ、台詞はピンマイクを俳優がつけてPAを通すという方式で、多少客席がうるさくても台詞を聞き逃さないですむという利点があった。それでいて、細やかな心理をもマイクに拾わせるような演技術にも精通している俳優が多かったせいか、破綻なく最後まで芝居が流れていったのは良かった。

さて浜木綿子の演技だが、芸能生活60周年というくらいだから、70歳は超えているはずなのに、驚異的に若いし、台詞のキレのよさもあり、絶妙な間で台詞を繰り出すので、少しも舞台から目が離せなかった。笑わせておいて、泣かせる演技も抜群、これなら最後の女座長として残れるわけである。登場するたびに変えていく衣裳も浜木綿子が着ると、一段と輝きを増しているように思えた。多少、動きに老いを感じさせないこともなくはなかったが、とにかく浜木綿子は見逃してはダメだと思った。

そして左とん平の上手さと軽妙さときたらどうだろ。失礼ながらテレビタレントという見方しかしていなかったので、こんなに芝居が出来る人だとは思っていなかった。ペーソスを感じさせハートのある演技のできる人は他にいないのではないだろうか。そのほか、大空真弓、風間トオル、紺野美紗子、遠藤久美子、逢坂じゅん、小宮孝泰など脇役も好演していて、非常にまとまりのある芝居になっていたと思う。少し前までは、こした芝居が興行として成り立っていたのに、失われつつあるのは非常に残念である。

原作:井上マス 脚本:堀越 真 演出:池田政之

出   演:
浜 木綿子 左 とん平 紺野美沙子 風間トオル 大空眞弓
遠藤久美子 逢坂じゅん 小宮孝泰 荒木将久 臼間香世 他

【公演紹介】

去りゆく町と来る町と
山坂越えてつなぐガタゴト列車。
揺られつつ、
移り変わる風景を眺め思います。
長い長いトンネルにも
必ず出口が開けると。
さあ、ここで途中下車、
どんな出会いがあるかしら…

天国にいるおまえさん!
おまえさんに成り代わり、
三人の息子たちを守り育ててゆきます!
さあ、キリリとたすきがけ、
がんばります、見ていて下さい!

井上ひさしの母・マスの感涙の一代記を痛快に描いた、人間ドラマの真骨頂!
芸能生活60周年。菊田一夫演劇大賞を受賞し、200回以上の上演回数を誇る浜木綿子の代表作が皆様のもとへ帰ってきます。

昭和3年のおわり、東京から山形の資産家の息子の元に嫁いだマスは、3人の子宝に恵まれるが、夫に若くして先立たれてしまう。
未亡人となったマスは3人の子供と共に薬剤師、美容院の経営、土建業の親方、遊郭のおかみと次々仕事を変えながら、小松、一関、釜石と、東北の各地をアイデアと度胸と根性で渡り歩き子供たちを育て上げる。
ガタゴト、ガタゴト、ガタゴト、としか歩めなかった時代を痛快に生きた日本の母の一代記。悲しくも可笑しい人間模様を、個性豊かな出演陣でお贈り致します。


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