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ウィズ~オズの魔法使い~ 東京国際フォーラムCホール [ミュージカル]

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天使には『オズの魔法使い』への強烈な思い入れがある。小学3年生の時に、生まれて初めて観た本格的な舞台で、たぶんミュージカル仕立てだったような気がする。故郷の市民会館にやって来たカンパニーは混成チームで、主演のドロシーは童謡歌手の小鳩くるみ、オバケのQ太郎やパーマンの吹き替えで人気のあった石川進が参加していた。幕が開くと魔女の足だけが、竜巻に飛ばされたドロシーの家の下から出ているという驚愕のファーストシーンから、かかし、ブリキのきこり、ライオンに出会ってオズの国を目指すという予想外の展開で、もうぽか~んと舞台を凝視していたと思う。空飛ぶ猿の場面では、石川進が得意の物まねで猿の声?を一人で担当して「ウィキッー」とマイクで叫んでいたのが印象に残っている。

そして中学生の時に、ジュディ・ガーランド主演の『オズの魔法使い』がテレビで放送されたときは、ラジカセをテレビにつないでカセットに音だけ録音。何度も何度も繰り返して聞いた。そのおかげで主題歌の。「Over The Rainbow」は暗記してしまうほど聞き込んだ。

さらに「オズの魔法使い」がオール黒人キャストのミュージカルとしてブロードウエイで上演され映画になったと聞き、公開初日にスーパーシネラマ方式の劇場、テアトル東京の初回に駆け付けた。2階席の最前列でみたのだけれど、観客はなんと天使ひとりだけ。記録的な大コケだった。サントラ盤の音楽は以下の通り。若き日のダイアナ・ロスやマイケル・ジャクソンが出ていたけれど、さすがに1978年の日本の観客には受け入れ難い内容の映画だったようである。数あるナンバーで最も印象に残ったのはEase On Down The Roadだった。いつか日本で上演される機会があれば観てみたいという願いが、今回ようやく実った感じである。

ディスク:1
1. Main Title (Overture, Part One)
2. Overture (Part Two)
3. The Feeling That We Have
4. Can I Go On?
5. Glinda's Theme
6. He's The Wizard
7. Soon As I Get Home/Home
8. You Can't Win
9. Ease On Down The Road #1
10. What Would I Do If I Could Feel?
11. Slide Some Oil To Me
12. Ease On Down The Road #2
13. (I'm A) Mean Ole Lion
14. Ease On Down The Road #3
15. Poppy Girls
ディスク:2
1. Be A Lion
2. End Of The Yellow Brick Road
3. Emerald City Sequence
4. So You Wanted To See The Wizard
5. Is This What Feeling Gets? (Dorothy's Theme)
6. Don't Nobody Bring Me No Bad News
7. A Brand New Day
8. Believe In Yourself (Dorothy)
9. The Good Witch Glinda
10. Believe In Yourself (Reprise)
11. Home

主人公が自分の家を出て冒険し、最後にまた家に戻るといった物語は、バレエ『くりみ割り人形』や『青い鳥』など、いろいろなパターンがあるが、『オズの魔法使い』が異色なのは、それが竜巻という自然災害によって始まるという点である。2012年10月にこの作品を観る観客としては、どうしても日本の自然災害である東日本大震災を思い出さずにいられない。その後の人災である原発事故は「悪い魔女」だし、無力で無責任なオズの魔法使いは、指導力のないどこかの国の首相を思い出さすにおれなかった。この国の閉塞状況を打ち破る為に、この作品の上演を思いついたという宮本亜門の社会状況を見る目は正しかったのかもしれない。

もっとも大多数の観客は、そうした想いに関係なくAKB48からオーディションで選ばれた増田有華や小柳ゆきあたりがお目当てだったり、小さなお子様を連れた親子連れなど、純粋に「オズの魔法使い」を楽しみに来たようだった。舞台はそれにふさわしく、シンプルだけれど工夫の凝らされた舞台装置、ルーツであるブラックミュージックと元になった映画を連想させる衣裳の数々、CGを使った映像演出など、21世紀にふさわしいものになっていたと思う。

客席に入ると一面の壁でアパートの窓が並んでいる感じ。中央にドロシーたちが住む一室があって、ぬいぐるみや鏡台、キッチンなどが見える。テレビには天気予報が竜巻の来襲を告げている。キャスターが陣内孝則でレポーターが森公美子だったりと芸が細かい。竜巻がやってきてドロシーはオズの国に吹き飛ばされる。一面の壁が飛ぶと、後ろには大きな白い円形舞台が出てくる。回り舞台は舞台が回転して舞台装置の転換が行われるが、こちらはレコードのような円形の部分に溝が2重にあって、その溝に沿って舞台装置が動くという仕掛け。

マンチキンたちは事務用の椅子?に腰掛けて縦横無尽に動き回ったりと宮本亜門らしい冴えをみせて上手いし、驚きが楽しさに通じるというミュージカルの王道を突き進む舞台だった。かかしはパパの持っていたアイスクリームに。ブリキのきこりは、流し?のカトラリーの中に。ライオンはママの編み物の毛糸の束にと、家の中のさまざまなものが生かされていて、日頃のドロシーの空想が具現化されたような雰囲気があってよかった。一行をオズの国へ導く黄色い道の案内人のジョンテ・モーニングの存在は舞台ならではの存在で好ましい。

とはいうものの、注目はやはりドロシーを演じた増田有華ということになるようだ。20歳前後ということらしが、少女にしかみえないあどけなさが残っているので大人が少女を演じる違和感がなかった。それも劇団四季の大人の子役のような不自然さがまったく感じられず、自然体で演じていたのが、ドロシーの必死とも重なって、なかなか見応えがある。単なるアイドルの実演というレベルではなかった。ただ少女から大人へ成長していくといった芝居ができていないのと、主役としてはオーラが不足していて存在感が今ひとつなのは、AKB48の立ち位置とも重なるものだったかもしれない。

映画でダイアナ・ロスが演じただけあって、パンチが効いて、説得力のある歌を歌わなければならず、単なるアイドルという枠を超えなければならない難役中の難役だったはずだが、成功していた部分もあり、物足りない部分もあった。成功していたのは役に寄り添いつつ、自分のAKB48での苦難や苦悩を重ねつつ体当りして役を自分のものにしようと、もがいている姿が感動的である。物足りなさは旅を通じて自分も成長していくという部分を描ききれていなかったことだろうか。当然のことながらPAを使用しているので、音さえ外さなければ声量や声質はなんとか加工できる。それでも森久美子や小柳ゆきといった経験豊富な歌手と比べれば、その表現力や歌心といったものはまだまだだった。

かかしのISSA、 ブリキ男の良知真次、ライオンのエハラマサヒロと個性的で身体の能力に優れた共演者を得て、舞台に弾みがでた。たまたま観た日にはライオンのエハラマサヒロが高音で声が伸びず苦しそうだったが、原作のブラックミュージカルといったテイストを感じさせたのもお手柄だった。

対するイブリーン(西の悪い魔女)の森公美子、 グリンダ(南の善い魔女)の小柳ゆき、アダパール(北の善い魔女)の瀬戸カトリーヌも個性的で歌唱力と演技に優れていて、舞台を大いに盛り上げたが、小柳ゆきなど出番が少なくてもったいないなあと思ったが、よくぞ舞台に出てくれたと感謝をしたい。そして黄色い道の案内人のジョンテ・モーニングの驚きの身体能力を誇るダンスは楽しめたし、エメラルドシティの門番の吉田メタル、 ウィズの陣内孝則も芸達者なところを見せてくれて楽しめた。

アンコールでは客席に出演者が降りていくなど、楽しい演出があって大いに盛り上がっていた。それはそれでいいのだが、果たしてBelieve In Yourself だけで問題解決できるのかどうか。元気のない日本を元気な日本にできるのか、変われるのか。変われないのか。もっと観客に訴えかけがあってもあれば大人の観客も満足できたのではないだろうか。映画でダイアナ・ロスがありなら、小柳ゆきがドロシーなんていうサプライズ配役なんていうのもありかも。パルコ制作なら、美輪明宏先生あたりにご登場願えば、もっと凄い世界が展開したのかも。清潔すぎて、少々毒が足りなかったのが物足りなさの原因だったかも。


【ミュージカルナンバー】
第1幕

プロローグ      ♪Prologe
あの時の気持ち ♪The Feeling That We Had
彼はウィズ ♪ He's The Wizard
帰るの!家に ♪ Soon As I Get Home
一昨日生まれて ♪I was born on the day before yesterday
行くんだ♯1 ♪ Ease On Down The Road #1
オイルを差してよ ♪ Slide Some Oil To Me
行くんだ♯2 ♪ Ease On Down The Road #2
俺様はライオン ♪ Mean Ole Lion
行くんだ♯3 ♪Ease On Down The Road #3
真のライオン ♪Be A Lion
会いたかったんだろう 私に! ♪So You Wanted To See The Wizard
心を持ったら ♪What would I do if I could Feel

第2幕

嫌なニュース    ♪Don't Nobody Bring Me No Bad News
ブラン・ニューディ ♪Everybody rejoice a Brand New Day
何様? ♪Who do you think you are?
ガリ! ♪Y'all got it
休みなさい ♪A rested body
ビリーブ ♪ Believe In Yourself
我が家 ♪ Home

原作/ライマン・フランク・ボーム『オズの魔法使い』
脚本/ウィリアム・F・ブラウン
作詞・作曲/チャーリー・スモールズ
翻訳・演出/宮本亜門
訳詞:森雪之丞
音楽監督・編曲:Nao'ymt
振付:仲宗根梨乃
美術監修:増田セバスチャン
衣裳デザイン:岩谷俊和
ヘアメイク:川端富生
歌唱指導:ちあきしん
音楽助手・稽古ピアノ:中條純子
演出助手:河合範子
舞台監督:藤崎遊

キャスト:
ドロシー ・・・ 増田有華(AKB48)
かかし ・・・ ISSA
ブリキ男 ・・・ 良知真次
ライオン ・・・ エハラマサヒロ
イブリーン(西の悪い魔女) ・・・ 森公美子
グリンダ(南の善い魔女) ・・・ 小柳ゆき
黄色い道の案内人 ・・・ ジョンテ・モーニング
アダパール(北の善い魔女) ・・・ 瀬戸カトリーヌ
エメラルドシティの門番 ・・・ 吉田メタル
ウィズ ・・・ 陣内孝則

アンサンブル
丞威、永瀬匡、廻修平、丘山晴己、加賀谷真聡、泉野翔大、DAICHI、U-YEAH、YORI(DA PUMP)、森実友紀、MIHO BROWN、エリアンナ、KAE THE FUNK、今枝珠美、Medusa、矢野祐子


企画製作:(株)パルコ


ウィズ [DVD]

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コメント 1

kojikei

なんと素敵なご批評でしょう。
作品に対する愛情と携わった人たちへの敬意を感じました。
批評とはこのようにされるべきなのですね。

また冒頭シーンに隠された暗示の数々を
ものの見事に言い当てられる洞察力には感服致しました。

本日は初めて訪問させていただきましたが
仕事の合間ですので
またゆっくり拝見させていただきたいと思います。

ツィートで紹介させていただく非礼をお許しください。
by kojikei (2012-10-26 13:11) 

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