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ウエスト・サイド・ストーリー  東急シアターオーブ -こけら落とし公演- [ミュージカル]

東急文化会館跡地にできた「渋谷ヒカリエ」。その11階に1900名収容する日本最大級のミュージカル劇場「東急シアターオーブ」が7月18日にオープンしたので、早速にこけら落とし公演の『ウエスト・サイド・ストーリー』を観にでかけた。

この「東急シアターオーブ」のある場所に、劇場を建ててくれるよう東急のワンマン経営者であった五島慶太に直談判?したのが若き日の浅利慶太だったとか。結局映画館やプラネタリウムのある東急文化会館になったのだけれど、浅利慶太は日比谷に新しくできた日生劇場の取締役となり、ベルリン・ドイツ・オペラやブロードウェイ・ミュージカルの『ウエスト・サイド物語』を招聘した。その時から数えてブロードウェイ版の上演は48年ぶりとなるらしい。

この「東急シアターオーブ」の「オーブ」という意味は、古い英語で「天球」という意味らしい。かつての「五島プラネタリウム」へのオマージュということだ。外からも確認できるように11階から始まる吹き抜け空間には、確かに球体が浮かんでいるように見えなくもない。しかし、そんな大仕掛けが必要だったかどうかはなはだ疑問である。この省エネの世の中に、西日が差す西側にむけて全面ガラス張りの吹き抜け空間を平気で作ってしまう神経が全く理解できない。

しかも商業施設、オフィスビルとの共用なので、11階という立地は仕方ないにしても、観客にとってもスタッフにとってもかなりの負担であることは容易に想像できる。これから劇場へでかける人は、開演前と終演後にかなりの混雑と不愉快な想いをすることを覚悟して欲しい。

渋谷駅からは2階の仮設?の連絡通路で結ばれているので、雨や暑さを心配することなく渋谷ヒカリエに到着することができる。その通路を進むと左側にチケットカウンターやインフォメーションのブースが見え、さらに進むと11階へ通じるエレベーターホールが左側に見えてくる。エレベーターは4基で右側の2基が直通で左側2基が各駅停車。エレベーター自体が大きいので開幕前は、ほとんど待ち時間なしで乗れるが、終演後は1回は待つことを覚悟しなければならない。フロアの反対側の南側にもエレベーターはあるし、下の階へエスカレーターで降りる手もあるので、帰りを急がなければ夜景など楽しみながら、ミュージカルの余韻に浸った方が賢いかもしれない。

さてエレベーターを降りると何故かローソン。さらにシアターテーブルというイタリアンとシアターコーヒーというカフェ、ビジネスフロアへの受付とセキュリティゲイトなどがあって、吹き抜けの広場に出る。本来なら、この階にモギリがあるべきだと思うのだが、長い階段を登りきったところにある上階が劇場のエントランスとなる。エスカレーターはあるのだが入場時は危険防止のため?使えない。観客は2列でエントランスのある12階から11階まで階段を2列で並ばされる。列はえんえんと伸び開場時にはエレベーターホールまで迫る勢いだった。

12階まで登ると、確かに階段の踊り場くらいのスペースしかないので、エスカレーターを稼働させたら将棋倒しの危険がある。しかも当日券売り場が踊り場のところにあって、11階にモギリを設置することができない構造的な欠陥がある。とにかく劇場へ入るまで大行列に並ぶのは覚悟しなければならない。それでも外の景色が楽しめるので退屈はしないのだが…。

エレベーターがあるのに使えないとは何とも理不尽な話である。観客の集中が怖いなら、客席開場を30分前、ロビー開場を60分前に設定すればいいことなのだと思う。バーやグッズ販売の収入も上がるし、トイレの混雑も多少は緩和されるのではないだろうか。

劇場全体のトーンはグレーのモノトーンでモダンなデザイン。大きな吹き抜けとガラス窓から見える景色に迫力があるので劇場内の装飾はほとんどない。わずかに1階席へ向かう正面階段に、渋谷パンテオンの舞台を飾っていたという、ルコルビュジェ作の緞帳の1/5のタペストリーが飾られていたのが目を惹いた程度である。

2階席と2階席と3階席のバルコニー席へは12階から。この階にはカフェもあって、開幕前や幕間に飲み物や軽食などが楽しめる。コーヒー1杯500円といったところで妥当な金額だが、幕間に何か飲もうとすると、ここも大行列なので大変だった。

せっかくなので1階席、2階席、3階席とくまなく回ってみたが、最近の劇場らしく最後列でも舞台が身近に感じられるように工夫がされているようで、確かに3階席後方でも1900名収容の劇場としては近いほうかもしれない。まあ同じオーチャードホールが酷すぎるのだけれど…。劇場内の雰囲気は黒を基調にダークブルーの壁といった装飾をそぎ落としたモダンな内装で、赤坂ACTシアターに印象が似ている。演目もミュージカルで被りそうなのだが、ひと回り小さい赤坂ACTシアターの方が色々な面で有利なのかししれないと思った。どちらもTBSが関係しているようだが。

さて劇場への不満は少なからずあったが舞台の成果は、最近では傑出したもので最後は感動の涙でボロボロ。涙が乾くまでなかなか立ち上がれなくて劇場係員に声をかけられるまで号泣していたという、舞台に関してはすれっからしを自認していた天使なのに、ミュージカルでこれほど大きな感動を手にすることができるとは思いがけないことだった。近頃の何かというとスタンディングオベーションをしたがる安っぽい感動しか手に入れていない観客に、本当の感動はこれなのだと味あわせてあげたいくらいだった。

天使の最初の想いは、何故今更『ウエスト・サイド物語』なの?だった。日本でも48年の他に、外来カンパニーの公演が何度かあり、宝塚、劇団四季、ジャニーズ事務所と様々なカンパニーで上演が繰り返されてきた。初演から半世紀以上も経過した名作とはいえ古びた作品を、何故にこけら落としに上演するのかさっぱり理解できなかったのである。ところが客席を見て納得した。平日のマチネ公演とはいえ高齢者が目立ったからである。映画の公開当時に青春時代を過ごした年代の観客である。素晴らしいマーケッティング力である。満員なのも当たり前である。お隣に座っている老紳士は、公開当時の映画を見てきっと指を鳴らしたり、足を上げてダンスの真似を一度はしているに違いないのである。

今回のリバイバル版では、、1957年オリジナル版の脚本を手がけたアーサー・ロレンツの演出には次のような特徴があるという。

シャークスの登場人物は、科白のほぼ半分程度をスペイン語を話す。字幕が出るので語感の違いを知る程度の効果しか天使にはなかったけれど、ヒスパニック系のアメリカ人が増えつつあるアメリカでは現実的なのかもしれない。

エンディングの演出の変更。トニーの遺体は運ばないで、もっと感動的な工夫で幕になる。マリアが自らの手で黒いショールをかけてくれた敵であるジェッツのメンバーの手をグッとつかむ。「この現実を一緒に変えていかねばならないんだ」という強い決意を演技で表現するように変更になった。天使はマリアのその崇高な姿をみて、聖母マリアの姿を重ねあわせて見た。間違いなくマリアは1回のSEXでトニーの子を宿しているように感じた。もちろん処女懐胎ではないのだが、彼らの未来は生まれてくるであろう子に託されたような気がした。生まれてくる子は、天使と同年代のはずである。どんな人生を送っているのか想像してみた。ジェッツもシャークもヴェトナム戦争の戦場で闘うことになったのだろうかとも想像してみた。今までの「ウエスト・サイド物語」とは違った深い感動があった。

Aーラブはクラプキ巡査への悪ふざけに参加しない。何故なら、新しいリーダーになったアクションに納得していなかからだとか。

振り付けも交渉して一部変更。広げた手をグーにする程度のものらしいが、マスターベーションを思わせる手の動きや露骨なSEXシーンなど、劇団四季版では曖昧にされた部分もストレートに表現されていた。

そして従来は舞台裏で歌われる「サムウェア」のナンバーをリバイバル版ではボーイソプラノが舞台上で歌う演出にしたらしいが、子役を日本につれてくることができずに、ボーイッシュなエニボディズが舞台上で歌う演出に変更されたそうである。シャークでもジェッツでもない彼女が、トニーとアリアと手をつないで歌う場面は新たな感動を誘った。

舞台装置は吊り物を中心にして左右から必要最小限のものが出てくるツアー用の装置なのかと思うくらいの簡便さなのだが、ダンスを中心に考えているらしく床はダンス用のパネルが一面に敷き詰められていたようだった。舞台奥には床にLEDライトが埋められているような不思議な効果があった。装置で大きな変更は高速道路の高架下での決闘の場面で金網のフェンスが舞台前面に降りてきたこと。したがって金網を飛び越える振り付けはない。彼らの閉塞状況を象徴して効果的だった。

そして体育館のダンスシーンもモダンな感じに改められていた。プロセニアムの広さはオリジナルのサイズそのままので10から12mくらいだろうか。左右を狭めた形式での上演なのでダンスの迫力は増していたようにかんじたが少々狭苦しくも感じた。

今回の成功の要因はまず音楽。日米の混成チームが最初は不安定な部分もあったものの、ジャズの味付けがより鮮明になって見事な演奏だった。リードやパーカションの担当者はめまぐるしく楽器を持ち替えるが、ベテラン
奏者が多いのか難なくこなしていたようだった。

そして「泣きのトニー」とでも名づけたいようなトニーの歌と演技が独特で深い感動に誘ってくれたのが大きかった。「歌の上手いウドの大木」というイメージを変え、初めての恋の予感に心震わす青年の初々しさを見事に表現していた。彼らはまだまだ若いのである。

出演者はいずれも好演していたが、目を惹いたのはドクを演じたジョン・オークレイがいかにもNYにいそうな見事な太っ腹ぶりでなかなか渋い芝居で舞台に厚みをもたせていた。何ら新しい発見などないと思っていた『ウエスト:サイド・ストーリー』に大いに刺激を受けた。是非ご覧になることをおすすめしたい。

2012年7月19日(木)
13:30開演

第一幕(85分)

13:30-14;55

休憩(25分)

第二幕(40分)

15:20-16:00

スタッフ
脚本&ブロードウェイ・リバイバル演出:アーサー・ローレンツ
音楽:レナード・バーンスタイン
作詞:スティーブン・ソンドハイム
初演時演出・振付:ジェローム・ロビンス
ツアー演出:デイヴィッド・セイント
振付再現:ジョーイ・マクニーリー

キャスト

ジェッツ
アクション ジョン・ドレイク
エニィ・ボディズ アレスサンドラ・フロリンジャー
Aーラブ クレイ・トムソン
ベビー・ジョン クリストファー・ライス
ビッグ・ディール ネイサン・キーン
ディーゼル ケイシー・ガーウィン
グラジェラ クリステン・ポラチェリ
ホッスイ カースティン・タッカー
マグジー ジェシカ・スウェージー
リフ ドリュー・フォスター
スノーボーイ ハリス・ミルグラン
トニー ロス・リカイツ
ヴェルマ スカイ・マトック
ザザ ローラ・イリオン


シャークス
アリシア アリシア・チャールズ
アニタ ミッシュル・アラビナ
ベベシタ ダニ・スピーラー
ベルナルド ジャーマン・サンティアゴ
ボロ ジェフリーC.スーザ
チノ ジェイ・ガルシア
コンスエーラ ローリ・アン・フェレーリ
フェデリコ エリック・アンソニー・ジョンソン
フェルナンダ キャサリン・リン・テレザ
インカ ディーン・アンドレイ・ルナ
マリア イヴィ・オルティーズ
ペペ ウォルドマー・キノネス=ヴィラノバ
ロザリア ジゼル・ヒメネス
ティオ ジェイス・コルナド

アダルツ
ドク ジョン・オークレイ
グラッドハンド ジェームス・ルドウィック
クラプキ ウォーリー・ダン
シュランク マイク・ボーランド


スイング マヤ・フロック
スイング ニコル・ヘルマン
スイング ティム・ハウスマン
スイング パトリック・オルティーズ
スイング アレクサンドラ・ブレイク・リデルコ


指揮 ジョン・オニール

キーボード/アソシエイトコンダクター  スティーヴン・サンダース
リード 鈴木徹/金山徹/網川太利/小笹貞治
ホルン 木原英士
トランペット ダグラス・ミケルス/竹田恒夫/中野勇介
トロンボーン 渡辺善行
ドラム リチャード・ド・ナト
パーカッション 長谷川友紀/本間麻美
ベース 千葉一樹
キーボード ダニエル・ベイリー/白石准
ヴァイオリン 遠藤雄一/阿部奈穂子/伊藤彩/松本亜土
チェロ 篠崎由紀/向井航/土山如之/松 穣
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FOXニュース
by ペンネーム (2012-11-27 18:06) 

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