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帝国劇場ミュージカル『エリザベート』 [ミュージカル]

1992年にオーストリアのアン・デア・ウィーン劇場で初演されたミュージカル『エリザベート』の何故かウィーン初演20周年を記念しての公演である。モーリス・ベジャール振付、シルヴィ・ギエムが踊ったバレエ『シシィ』や、ウィーン初演の演出を、オペラで数々の名舞台を生み出しているハリー・クプファーが担当していることなど、興味は前からあったのだが、宝塚版が日本で先に上演された経緯もあって、これまで観ることを避けてきた。

今回重い腰を上げた理由は、ウィーン版でトートを演じたマテ・カマラスという外国人が日本語で演じ歌うという一点にあった。古くは当代の松本幸四郎がブロードウェイで『ラ・マンチャの男』を英語で演じたり、同じく『王様と私』をロンドンで演じた例はある。最近では米倉涼子がブロードウェイでミュージカル『シカゴ』の主人公ロキシー・ハートを演じたりしている。

また日本人のオペラ歌手がイタリア語やドイツ語で海外の歌劇場へ出演するのも珍しくない。しかし日本語となれば別である。一度覚えても二度目の上演がないような日本語のオペラ歌詞をわざわざ稽古しようという外国人歌手など皆無だと思う。大昔にジョージ・チャッキリスが佐久間良子と東京宝塚劇場で共演したことなども記憶になるが、けっして優しくない日本語で歌い演じられるものかどうかということで帝国劇場へでかけた。もちろん劇団四季で活躍する韓国人や中国人が日本語で演じるのは、もはや珍しくない光景だが、さしがにウィーンで同じ主役級の役を演じた俳優が日本に来るなど確かに夢のような出来事に違いない。

さて、そのマテ・カマラスだが、トリプルキャストの山口祐一郎や石丸幹二に比べれば、まずヴィジュアルの面で当然のことながら圧勝。外国人なのだから当然なのだが、両性具有の妖しい魅力があり、多少は科白にたどたどしさがあり、迫力で押し切るような部分はあっても、ほぼ完璧に歌っているばかりでなく、驚くほど芝居が上手く彼が外国人であることが気になったのは冒頭の場面くらいで、後は日本人キャストと変わらない働きをみせて、彼を起用しようと考えたプロデューサー?は大いに賞賛されていい。

題名役を歌たったのは春野寿美礼である。宝塚の男役でトップにまで登りつめた歌唱力に定評のある女優さんらしい。現代的な音楽を用いていて難易度の高い楽曲の連続なのだが、多少の瑕はあっても、その存在感と舞台姿の美しさで堂々たるエリザベートを演じた。

舞台に最初から最後まで登場していて狂言回しの役割を演じる暗殺者・ルキーニを演じたのは髙嶋政宏。初演からずっと演じているだけに危なげないのだが、手馴れた役だけに軽妙な方向へ走っているような部分も見受けられたように思う。ヨーゼフを演じた石川禅は出演者の中で最も安定した歌唱力で実力をしめしたし、子ども店長で売れた子役の加藤清史郎は、歌の部分はもちろんだが、なかなか芝居が上手くて感心させられた。主役級で問題があったのは、ルドルフを演じた大野拓朗。歌はともかく姿勢が悪いので舞台映がしないし、ダンスの実力にも問題があるように思った。美しすぎるウドの大木とは彼のことだろう。

ウィーン産のミュージカルらしく、モーツアルトのオペラのように重唱で登場人物が心情を吐露する場面が多いので、なんとなく雰囲気や空気感はわかるのだが、発声の方法が悪いのは何を歌っているのかわからない場面が何度もあった。歌の内容がよくわからない上に、オーストリア国民や周辺諸国の人々には周知の史実であっても、そうした歴史に疎い日本人には最初は理解できないことだらけで困った。宝塚からのファンや、コアなミュージカルファンにとってはお目当てのスターが出演しているだけでも舞台に引き込まれるだろうけれど、そうでもない普通の観客には、ドラマが動き出すまではなかなか理解できない物語である。特にトートの存在、エリザベートへの愛など、少々強引な展開のような気もした。

最小限の舞台装置で左右に動く壁、移動する台などを組み合わせ、照明で細かな変化をつけていく手法は、地方公演があって大掛かりな舞台装置を使えない制約を逆手にとって、観客の想像力をかきたてる上手いアイディアだと思う。

問題なのは生演奏される音楽で、出演俳優達も涙ぐましい努力でなんとか聴かせる歌を歌っているのに、オーケストラは緊張感が不足しているのか、何度も音程が定まらいない部分があったり、微妙なズレが発生してしまったりと残念な結果に。カーテンコールがあって、平日の昼公演ながら満席の場内が最後は総立ちのスタンディングオベーション。お約束っぽい展開なので、何故にこの程度のレベルの舞台に熱狂するのか肯けなかった。


エリザベート:春野寿美礼
トート:マテ・カマラス
ルイジ・ルキーニ(皇后暗殺者):髙嶋政宏
フランツ・ヨーゼフ:石川 禅
ゾフィー:杜けあき
ルドルフ:大野拓朗
少年ルドルフ:加藤清史郎
マックス:今井清隆
ルドヴィカ(エリザベートの母):春風ひとみ
エルマー:岸 祐二
マダム・ヴォルフ:伊東弘美
リヒテンシュタイン伯爵夫人:小笠原みち子
ヴィンデッシュ:河合篤子
ツェップス:大谷美智浩
グリュンネ伯爵:治田 敦
シュヴァルツェンベルク侯爵:阿部 裕

脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
演出・訳詞:小池修一郎
オリジナルプロダクション:ウィーン劇場協会 
製作:東宝株式会社
制作協力:宝塚歌劇団 
後援:オーストリア大使館
協力:オーストリア航空

音楽監督:甲斐正人
美術:堀尾幸男
照明:勝柴次朗
衣裳:朝月真次郎
振付:島﨑 徹・麻咲梨乃
歌唱指導:林アキラ・飯田純子
音響:渡邉邦男
映像:奥 秀太郎
ヘアー:坂井一夫・富岡克之(スタジオAD)
演出助手:小川美也子・末永陽一
舞台監督:廣田 進
オーケストラ:(株)ダット・ミュージック・東宝ミュージック(株)
指揮:西野 淳
翻訳協力:迫 光
プロダクション・コーディネーター:小熊節子
プロデューサー:岡本義次・坂本義和

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