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オペラ座の怪人 電通四季劇場「海」 [ミュージカル]

日生劇場での1988年4月29日の日本初演から24年を迎える劇団四季の「オペラ座の怪人」を汐留の電通四季劇場「海」で観る。初演から1週間後に初めて観てから、日生劇場、新橋演舞場、赤坂ミュージカル劇場、電通四季劇場「海」と東京公演は毎回観ている。主役のファントム役だけでも市村正親、山口祐一郎、村俊秀、今井清隆、高井治と5人を数える。

当時の日生劇場は貸劇場として運営されていて、東宝、松竹、劇団四季がそれぞれ数ヶ月を分担していた。それが劇場を改造してのロングラン公演ということで仕込みの期間も含めて6ヶ月も劇団四季が日生劇場を占有するという異例の処置がとられた。その後も日生劇場と新橋演舞場という東京を代表する劇場で公演されたが、1998年以降は劇団四季の専用劇場で上演が続けられている。

今回の電通四季劇場は2階席のある劇場構造ながら最後列でも舞台が近いのが売り物。実際に初演の日生劇場に比べれば舞台と客席の距離が驚くほど近い。また舞台の間口もオリジナルに近いのか緊密な劇空間を造りあげている。

もっとも1階席に2階席が大きく迫り出しているので、1階席の後方ではシャンデリアや黄金のプロセニアムアーチが見えないという欠点がある。何よりも同じようにオフィスビルの一画を占めていながら、劇場の入口から劇場の1階席のあるビルの3階部分までの導線が、階段を登るにつれて期待感が高まるという設計がなされている劇場らしい劇場である日生劇場と違い、電通四季劇場「海」の入口あたりの貧相な佇まいは劇場としては残念な設計である。

ホテルの宴会場並みにパーティーも出来そうなホワイエのある日生劇場に対して、電通四季劇場「海」は休憩時間にトイレ待ちの大行列でロビーが大混雑になる狭さである。劇場の格といったら問題なく日生劇場に軍配があがる。電通四季劇場「海」は、徹底的なコスト監理がなされ余分な経費をかけずに済むように設計がなされたかのようである。

オペラもできるような大きさのオーケストラピットのある日生劇場と違い、電通四季劇場「海」は溝か?と言いたいほどの幅が狭く、落下防止のネット?で蓋がされているので、バイロイト祝祭劇場風と言えないこともない。観客の視線は舞台に集中できるように設計されていて、客席の壁も反射によって光ってしまわぬように黒一色なのも設計思想はバイロイト並みなのかもしれない。

初演時のキャストは、怪人が市村正親、クリスティーヌが野村玲子、ラウル子爵が山口祐一郎と当時最も人気のあった俳優が演じている。彼らには演技も歌も上手いのは当たり前で、スターとしてのオーラがあった。また観客も、海外で人気の新作ミュージカルを観るという行為に酔っているような部分があって、日生劇場で「オペラ座の怪人」を観るというのは、現在と比べると遙かに大きなイベントだった。

現在のキャストは、建前は現在最もコンディションの良いキャストが舞台に上がるということだが、全国であまりに多くの作品を上演し、準備しているだけあって、必ずしも劇団のエース級が出演しているとは限らない。人気や実力のある俳優は次々に退団しているので、なんとか作品を上演できるであろうレベルの俳優を集めたという印象が拭えない。

今回は一部のキャストを除いて初演時のキャストを超えるような存在感のある俳優は誰一人いなかった。各役とも相当に高いレベルの歌唱や演技をしているのだが、それだけでは感動に至らないという難しさがミュージカルにはあるようである。1900回以上も怪人を演じているという高井治も残念ながら満足できるレベルではなかった。歌唱はともかく、少々エキセントリックな怪人の複雑さを緻密に描くという演技までには到達していなくて物足りない。

クリスティーヌの笠松はる歌唱はそれなりに健闘しているのだが、二人の男性の間で揺れ動く女心といったものは表現しきれていなくて、今回なかなか感動できなかったのも彼女の非力が大きな原因と言えなくも無い。科白や歌唱からなる言葉の意味を正確に伝えるというのも大事なのだが、何故幕切れで怪人に接吻するために戻ってくるのか謎の行動になってしまった。それに序幕に主役オーラというものが皆無で脇役の中に埋もれてしまって誰が誰やら見比べることさえできなかった。

ラウルも何人かいるキャストの中でも若い世代に属しているのか、明らかに舞台経験が少ないのがわかってしまう飯田達郎に奮起を望みたい。キャストも週によって変化があるようだが、最良のキャストというよりも、ロングラン公演を支えるローテションの維持が最優先なのだろうと思う。出演者のスター性のなさで、なんとも地味なミュージカルに変化してしまった劇団四季の「オペラ座の怪人」には大いに退屈した。客席には学生の団体や中年男性の団体などで埋まっていたが、果たして彼等が楽しめたのかどうか疑問である。終演後の客席の反応は醒めていたように思う。舞台の出来とは正比例していたと思うので、有名ミュージカルなら有りたがる田舎者?や盲目的に劇団四季を愛するコアなファンならともかく、この舞台成果では、次も機会があったら観てみようと思う観客よりも「次はないな」という観客の方が多いのではないないだろうか。

そんな中で注目したのは、ムッシュー・アンドレを手堅く演じた増田守人である。海外でクラシックの勉強をしてきた人らしく舞台経験もあるのか、歌唱力は確かで芝居が上手く、存在感も主役級をしのぐのではないかと思われる部分もあって、彼の演技も歌唱も大いに満足させられた。:

あまりに大きく劇場ビジネスを広めてしまった劇団四季。いくら何でも劇団四季と劇団を名乗るような組織ではなくて、ミュージカルをプロデュースする集団に変わってしまったようである。確か昔は主役級はプリンシパルと呼ばれていた時期もあったように思うが、バレエ並みに階級制度を設けて、劇団四季生え抜きのスター俳優を育ててくれれば劇団も当分の間は安泰なのだと思う。


オペラ座の怪人 : 高井 治
クリスティーヌ・ダーエ : 笠松はる
ラウル・シャニュイ子爵 : 飯田達郎
カルロッタ・ジュディチェルリ : 河村 彩
メグ・ジリー : 中里美喜
マダム・ジリー : 横山幸江
ムッシュー・アンドレ : 増田守人
ムッシュー・フィルマン : 平良交一
ウバルド・ピアンジ : 永井崇多宏
ブケー : 寺田真実


【男性アンサンブル】
瀧山久志
五十嵐 春
林 和男
斎藤 譲
野村数幾
伊藤礼史
井上隆司
田中元気
見付祐一


【女性アンサンブル】
小林貴美子
高瀬 悠
小澤可依
菊池華奈子
村瀬歩美
松ヶ下晴美
馬場美根子
高田直美
森田真代
野手映里
園田真名美
岸田実保

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コメント 4

ぽぽ

 そんなに文句があるのなら見に行かないほうがいいのでは?
芸術鑑賞会で天使さんが観たキャストと同じキャストで観ましたが、周りの男子も女子もくいついてみてましたよ。みんな「感動した」と言って楽しんでました。
by ぽぽ (2013-07-26 14:36) 

ゆゆ

うなずけます。
by ゆゆ (2014-04-11 18:24) 

ぽにょ

上から目線の頓珍漢な分析。
有りがちな知ったかコメント。
もっと良く見聞を広めるべし。
by ぽにょ (2014-09-26 21:36) 

くまこ

初めまして。
私も初演から東京公演は毎回観ていますが、電通劇場で観たものだけは、かつての感動が味わえず、それは何故だろうと考えていました。
私はどちらかというと、やはり劇場に難があると思いました。
地下室の幻想的な奥深さ(実際の奥行き以上のもの)が感じられず、
狭い舞台にしか見えませんでした。
日生劇場がダントツなのは当然として、新橋演舞場、赤坂ミュージカル劇場でも、ほぼ同じ感動を味わえたのに、劇場のせいだとすると残念でなりません。

by くまこ (2015-12-20 10:38) 

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