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敵討天下茶屋聚 五月大歌舞伎・昼の部 新橋演舞場

花形の消えた舞台

歌舞伎座が休館になって一年が経過し、新たな一年の始まりの興行である。恒例だった「團菊祭」は大阪松竹座に移動し、染五郎、亀治郎、勘太郎、七之助らが若手花形歌舞伎を久しぶりの明治座で受け持つ。

見取り狂言の明治座や大阪松竹座に対抗したのか、昼の部は幸四郎、夜の部は吉右衛門を芯にした、時代物と世話物の通し狂言を上演するという意欲的な試みとなった。もっとも国立劇場と同様に、時間的な制約があるので完全上演とはいかず、色々と工夫はあっても単なる「妥協の産物」となってしまったようである。それでも面白ければ救いはあるが、一体誰に向けての上演なのか観客不在の内容で、ひたすら我慢するしかなかった。

今回の趣向は、愛嬌のある端敵の元右衛門と敵役の東間を幸四郎が二役で演じることである。仁木弾正のような拵えで、ご丁寧に左の額に五代目ゆかりのホクロまでつけた東間は大きさ古怪さなどがあって悪くない。もっとも元右衛門に比べると見せ場が少ないのも事実で、序幕「浮田館」のでの大迫りでの登場など、無意味に大掛かりなだけで役の大きさ変わらなかったように思う。色紙を巡る人間模様を描いたにしろ、何故わざわざ序幕を出したのか、通常通り「四天王寺の場」から始めても支障がないようにも思えた。

意欲的な初役での元右衛門への挑戦なのだが、「東寺貸座敷の場」での三枚目ぶりなど生真面目さはわかるものの、身体からあふれ出る役者の愛嬌といったものが不足で観客を嬉しがらせてくれない。ここは「川下の場」でお付き合い程度に登場する吉右衛門の元右衛門が見たいとも思った。無理矢理な二役ではなく、夜の部の『籠釣瓶』も同じなのだが、兄弟で役を共有し日替わりで演じるなどといった工夫があっても良かったのではないだろうか。地味な狂言も話題にもなるし、熱心な歌舞伎ファンは両方の公演を観るので興行的にも成功するのではないだろうか。いささか空席の目立つ客席を眺めつつ、そんなことを夢想したりした。今回も幸四郎、吉右衛門の兄弟が一座しながら昼夜ともに顔を合わせることがない。どうせ共演しないなら徹底的に競演させたほうが面白いではないだろうか。

段四郎の台詞の危うげなのは相変わらずで、台詞をつける声が大きすぎて芝居になってくれない。歌六、梅玉、魁春、彌十郎といった面々は手堅く、錦之助は典型的な役柄をいかにもそれらしく丁寧に演じていて印象に残った。歌昇など為所は全く与えられていないのだが誠実さが好ましい。

しかし全体的に華が足りないのは否めず、「ドラマ」といった見応えを期待するのも難しかった。ここでは役者の芸で勝負するのが正しい姿なのだろうが、役者の熱さといったものが何も感じられないでは困る。若手花形役者の持つ一生懸命さを求めても無理なのだろうか。時代物らしい口上のある幕切れでは、醒めた舞台から白々しい空気だけが流れてきただけだった。


浮田館
四天王寺
11:00-12:12

幕間 35分

東寺貸座敷
12:47-1:28

幕間 20分

福島天神の森
1:48-2:45

幕間 15分

天下茶屋聚
3:00-3:15

安達元右衛門/東間三郎右衛門  幸四郎
早瀬伊織  梅 玉
妻染の井  魁 春
早瀬源次郎  錦之助
妻葉末  高麗蔵
坂田庄三郎  友右衛門
岡船岸之頭  桂 三
田楽師松阿  廣太郎
田楽師竹阿  廣 松
奴腕助  錦 吾
安達弥助  彌十郎
京屋萬助  歌 昇
片桐造酒頭  歌 六
早瀬玄蕃頭  段四郎
人形屋幸右衛門  吉右衛門

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