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カルメン 佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2009 東京文化会館 [オペラ]2009-07-21 [オペラ アーカイブス]

 平成21年度文化庁舞台芸術振興会の先導モデル推進事業〈舞台芸術共同制作公演〉
日本オペラ連盟・兵庫県立芸術文化センター・東京二期会・愛知県文化振興事業団共同制作
佐渡裕芸術監督プロディースオペラ2009というやたらに長いタイトルがついたビゼー作曲の『カルメン』である。

6月25日~7月5日まで兵庫県立芸術文化センターで9回、7月17日~20日東京文化会館で4回、愛知県芸術劇場で2回と合計15回の公演数とは異例のことで、新制作のオペラとしは新国立劇場でも成し得ない快挙といってよい。東京公演の初日を観たのだが、二期会公演だからか、あるいは佐渡裕の人気なのか金曜日というのにほぼ満員の盛況であった。新国立劇場へ何故か出演しない?あるいはできない日本人の中堅指揮者にとって、最高の機会であるし、官に対する在野の底力を見せつけた格好になった。残念ながら、今後の予定として三者の共同制作の計画は発表されていないが、協賛企業?も多く金のかかるオペラという魔物だが、是非続けて欲しい企画だと思った。

 場内へ入ると舞台全体が黒幕で覆われていて、脇花道の壁の部分も丸い時計と禁煙のサイン以外は黒い幕で覆われていた。これで天井につながる上部の白い音響反射板の続き?の部分も黒ければ申し分ないのだが、そこまで完璧主義ではなかったようである。四面舞台ではない東京文化会館での上演をも考慮したのか、基本的な舞台装置は四幕とも同じである。

 下手の舞台端から奧にかけて、三層の石組でできた半円形の壁が続く。客席と舞台を遮っているのは上手の舞台端を頂点として動く巨大な壁である。壁の下部分の上手には兵隊の詰め所や牢獄にもなるスペースがあり、必要の無いときは引き戸?で隠される仕掛け。上手部分にも出入りに使えるよう空間が空いている。ブルーを基調とした壁だが上手上方から下手にかけて鏡になっていて、その壁が半円形の壁に沿って動くと上の二層のバルコニー部分に立つ人々が映って空間が広がるなどマジックのような上手い工夫がされていた。半円形の壁に人がいないときには、客席が映り込んで、違和感がないばかりか、最初から計算されていたのではないかと思えるくらい東京文化会館の大きな壁面にある音響反射板を兼ねた彫刻が映えて美しかった。

 第一幕では、兵士の詰め所があり、ミカエラが登場、壁が下手から奧へ動いて煙草工場となるのだが、演技スペースが驚くほど狭くなり、音響的には有利なのかもしれないが、迫力があるかわりにいささか息苦しくも感じた。そのため鏡に映る空間が効果的なのだろうとは思った。ホセとミカエラの場面では、詰め所の壁が透けて二人の故郷の風景が出現する工夫があった。

 第一幕から第二幕は続けて上演された。わずかな舞台転換の時間でまったく違った印象の舞台に仕上げたのは見事な手腕である。この演出は20世紀初頭以降をイメージしているらしく、リーリャス・パスティアの酒場は下手にステージがあり、奧にバーカンウンター、前に椅子とテーブルといった感じで、スペインの酒場というよりも全体が赤の色調なので、北関東あたりにありそうなカラオケスナックみたいな感じである。あれで家具の素材が赤いビロードだったら、まさに日本の田舎の社交場といった感じである。

 第三幕は舞台前の紗幕に映った絶壁とその紗幕越しに見える密輸団の山の休憩所?さらに別の場所となるのだが、照明の当て方が悪いのか、紗幕越しに登場人物が見えないのが難だった。前の幕までの巨大な壁は180度回転?していて、今度は上手側上部に鏡がある。それが何を映し出すかといえば、上手上方のスクリーン?に映し出された映像が映るという凝ったもの。映像は大空を飛翔する鳥の映像で、ロマたちの自由への思いが重なってなかなか見応えがあり、閉ざされた空間が一気に広がった感じである。

 紗幕の前に演技では、上手から下手へ延びた一本のロープにつかまって移動するという演技をみせる。最初は面白いがたびたびだと飽きるし、何やら矛盾点もあって、あなたはいったい誰ッ?というような場面もあって、第三幕は全体的に観ると効果があがっていなかったように思う。

 第四幕は第一幕と同じ装置の使い回しで、兵士の詰め所がエスカミーリョの控え室になって衣裳をつけるという凝ったものだが、なぜ見せる必要があったかは謎である。例によって演技スペースが狭いので、出演者は少ないが迫力はあった。そしてこの演出の肝だったかもしれいないのは、第一幕のホセとミカエラの出会いの場面と第四幕のホセとカルメンの場面が、ほぼ同じ舞台装置で演じられたことによって、対照的な効果があることに気づかされたことである。二人の女の何から何まで正反対であるのに、ホセが迷ったのは、どちらも女の魅力に違いないということに気がつかされたのである。普段は気がつかなかったが、「あなた?」「僕だ」といったやりとりがくり返されていたのである。

 序曲の途中から、紗幕越しにホセが椅子に縛り付けられ、後ろから首を絞められるスペイン式の絞首刑?がみられる。少々刺激的な場面だが、ホセには常に破滅と死のイメージがつきまとうことになった。親切だともいえるし、説明過多ともいえるのが微妙だったかもしれない。ホセはいささかマザコン風でもあり、ミカエラは相当気の強い女性という演技がつけられていて、「大須オペラ」のように兵士をはり倒すような強い女ではないが、ナイフを持って兵士に斬りつけるくらいはしてしまいそうな女性となっていた。

 変わっていたは第二幕も同じで、冒頭の部分はすべて牢獄に入っているホセの妄想?といった感じに描かれていて、唐突にバレエやフラメンコを踊ったりしないのは賛成である。カルメンはSEXしか頭にない?ような女性に描かれていて、何かというと妖しな行動をとる。これではホセなど、ひとたまりもないはずである。第三幕で最も驚いたのは、スニガがあっさり射殺されてしまったことである。舞台の上での殺人は、カルメン殺しだけの方が効果的だと思うのだが、ホセに続いてスニガもあっさり殺されてしまうと食傷気味ではある。

 第四幕は、カルメンを刺し殺すまでは、他の演出と大差ないが、ナイフで正面から殺すのではなく、なんとホセ自身のスニガによって折られたサーベルで後ろから斬り付けるのである。とんだ籠釣瓶で、これでは愛しいるからこそ殺すという図式が成り立たず、殺人の動機としては弱いように思った。男女の機微は、そんなに図式的なものではないどろうと思った。

 歌手陣の中で一番印象的だったのは、NHK東京児童合唱団だったかもしれない。歌も芝居も上手かったからである。他の出演者は、これといった印象は残さず個性的に感じられなかったのが残念である。カルメンは美貌はともかく、カルメンにふさわしい強烈な個性はないし歌唱もそれなり。ホセは最後までカルメンの花を持ち続けたような情けない男で、それにふさわしい役作りだったように思う。エスカミーリョはなかなかに二枚目で押し出しも声も立派で外国勢のなかでは健闘していたように思う。

 ミカエラは木下美穂子で、楚々としてイメージのある人ではないは、いささか変わった演出のこの舞台には合っていた馬力のあるミカエラだった。一歩間違えばストーカーなのだが、一途に思い続けるいじらしさは伝わってきていたように思う。

 佐渡裕の指揮は、兵庫や名古屋と違って東京フィルハーモニーだったからか平凡でつまらない。もっと型破りで熱い演奏を期待していただけに肩透かしだったかも。オリジナルの『オペラ・コミック版』とレチタティーヴォを使用する『グランド・オペラ版』の折衷案だったようで、役者との掛け合いが台詞なので仕方のない処置だとは思う。あまり違和感がなかったのが何よりである。兵庫で公演を重ねただけあって、初日でありながら、いずれの出演者も余裕が感じられたのがよかった。

2009年7月17日(金) 18:30開演 21:50終演

芸術監督・指揮 :佐渡 裕
演出 :ジャン=ルイ・マルティノーティ

装置 :ハンス・シャヴェルノホ
衣裳 :シルヴィッド・ド・セゴンサック
照明 :ファブリス・ケーブル

ロマの女 カルメン ステラ・グリゴリアン
竜騎兵の伍長  ドン・ホセ ルカ・ロンバルド
闘牛士 エスカミーリョ ジャン=フランソワ・ラポワント
ホセの許婚 ミカエラ 木下美穂子
カルメンの仲間 フラスキータ 菊地美奈
同 メルセデス ソフィー・ポンジクリス
士官 モラレス 与那城 敬
竜騎兵の隊長 スニガ 斉木健詞
密輸業者 ダンカイロ 加賀清孝
同 レメンダード 小原啓楼

合唱:二期会合唱団、ひょうごプロデュースオペラ合唱団
児童合唱:NHK東京児童合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

2009-07-21 22:24
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