SSブログ

伊賀越道中双六 艶容女舞衣 九月文楽公演・第二部 [文楽]2009-09-19 [文楽アーカイブス]

 寛治以外の人間国宝が総出演しただけあって大人気の第二部である。入口には「満員御礼」の札が掲げられていた。失礼を省みずに意地悪な見方をすれば、あと数年?で見られなくなる可能性のある顔ぶれと言えないこともない。不謹慎とも言われようが、今回の第二部も四半世紀前には、豪華とも思われなかった顔合わせであり、そうやって順番が巡ってくるものなのだと思うしかない。

 「沼津」は、綱大夫が前半を語る。織大夫と名乗っていた頃は将来の文楽を背負ってたつと期待された人である。最近の衰えぶりには心痛むものがある。覇気がないというか声量の乏しさは隠しようもない。しかし、それ故に綱大夫の語りに集中できた部分もあって、全体の出来としては悪くないように思えた。同情される芸というのが本意ではないだろうが…。

 続いては住大夫の登場である。長生きも芸のうちというつもりはないが、実力以上に評価が高いような気がしてならない。昔から天使の好みではなかったので、どうしても辛口になってしまう。それだからこそ、彼の発する一言一句を聞き逃すまいと、いつもより集中しているのだが、言葉の持つ上っ面の意味しか伝わってこなくて、観客の心を震わせるような部分が少ない。生真面目な芸なのだが、色気や艶に乏しくて楽しむことが出来ないのである。まあ、殺風景な国立劇場の空間にはお似合いの芸なのかもしれない。そこに集った、これまた生真面目な観客が有難く、住大夫の芸を押し頂いているような図式が息苦しくてかなわない。それ自体は、住大夫が悪くないのだから仕方がないが、こんな天の邪鬼な天使を感動させてくれるような日が来ることを心から願いたい。

 筋書の白黒写真は、玉男の十兵衛、文吾の平作、蓑助のお米だった。もうこんな配役を観ることはないのだと思うと寂しくてならない。今回は蓑助の十兵衛、勘十郎の平作、紋寿のお米である。登場人物が少なく伝えなければならないことも多くて大変だろうが、現時点での最高の配役ということであろう。それは、現在の文楽の最高点、到達点を示すものであろうが、まだまだ道半ばという感じで、失ってしまったものの大きさを今さらながら再確認する結果となってしまったうようである。

 「酒屋」は、三人の切り場語りに挟まれて、天使のご贔屓である英大夫の登場である。春からすっかり大ファンなのだが、今回も天使を大いに満足させてくれた。美声なのはもちろん、その言葉にこめられた意味が陰影に富み、確かな芸で第二部に登場も納得の出来であった。何よりも素晴らしいのは、その芸に色艶があることである。今回は熱烈な女性ファン?の掛け声はなかったが、英大夫の発する色気、もっと言うならセクシーさに目がくらむ思いがするからである。熟成した色気を感じさせる点で、英大夫は文楽一の人である。芸に奥行きを持たせるには、これくらいのセックスアピールがなければ面白くない。さすがに硬くなっていた部分もあったように思うが、天使の好きだった貴大夫にも、こんな面があれば死なずにすんだのかもと思ったりした。

 そして天使の大好きな嶋大夫の登場である。けっして美声の持ち主ではないのだが、感情の的確な表現力では文楽では第一人者だと思う。思わず聞き惚れる部分が何度もあって幸福だった。物語自体は何コレ?の展開で身勝手な男には、まったく感情移入できないのだが、嶋大夫の語りだと何故か納得できてしまうのが不思議である。

 そのおかげか、文雀がお園を遣うのだが、英大夫に続いて嶋大夫しか観ていなかったようで、人形の印象は薄いというか、何も覚えていないというか、浄瑠璃に集中するほどには、人形を観ていなかったようである。どうも天使は、文楽の良い観客ではないことを再確認したような次第である。

2009-09-19 17:57
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。